大きな挫折を乗り越え絵本作家に 講談社絵本新人賞受賞までの長い道のり

胃の痛い思いをしながら通った絵本塾で学んだ「一番大切なこと」とは? はっとりひろきさんインタビュー・前編

最新作の『おにゃんこタクシー』など、これまではっとりさんが制作したラフがずらり。
写真提供/はっとりひろき
第39回(2017年)講談社絵本新人賞(以下、絵本新人賞と表記)受賞作家のはっとりひろきさん。2018年に受賞作『いっぺん やって みたかってん』でデビュー、今年で絵本作家歴6年目を迎えます。

デビュー以来、はっとりさんはコンスタントに作品を世に生み出してきました。発売したばかりの新刊絵本『おにゃんこタクシー』は講談社で5作目となります。新人賞をとってデビューすること、その後作品を作り続けていくこと、また絵本作家として生活をしていくことってどういう感じなのでしょうか。

前編となるこちらの記事では、デビューまでの道のりや、通っていた絵本塾のことなど、「こうして絵本作家になった!」を詳しくおうかがいしていきます。

夢オチはNG!? 講談社絵本新人賞に初めて応募したときのこと

──一番初めに描いた絵本は、どんなものだったか覚えていますか?

はっとりひろきさん(以下、はっとりさん):はい、はっきり覚えています。『ドリームすいぞくかん』という絵本です。それで講談社絵本新人賞に応募しましたが、1次選考で落ちて返ってきてしまいました。

僕は今46歳なんですが、そのときは30歳くらいだったと思います。今見れば「当然返ってくるだろうな」と思うような出来なのですが、でもその絵本の発展形が『ぼくはひこうき』になっていると、あとから気づきました。やっぱりこういうのを描きたかったんだなっていう要素が入っているんです。
はっとりさんが新人賞に初めて応募した作品『ドリームすいぞくかん』。
写真提供/はっとりひろき
『ぼくはひこうき』(2022年刊/講談社)
作:はっとりひろき
──『ドリームすいぞくかん』は、どんな内容ですか?

はっとりさん:主人公の女の子の夢の中で、魚たちがいつも空を飛んでいるんですよ。ある日、女の子が浜辺を歩いていて「空を飛びたいな」と言ったら、魚が「僕たちいつもこれで飛んでいるんだよ」とチケットをくれるんです。それを枕元に入れておくと、女の子も空を飛べる……みたいな。

夢オチ(今までのできごとが、実は夢だったと判明する結末)になってしまっているので、もし機会があるなら、もう一度オチを考え直してみたいですね。

──夢オチというのは、よくないんでしょうか。

はっとりさん:「夢オチ」「魔法で解決」、あとは「虹が出てさぁ終わり」みたいなやつはダメって、通っていた絵本の塾では厳しく言われていたんです。ただ僕は今、もう自由でいいよねって思っているので、応用的に使うのはいいかなと。

安易な夢オチは、なんでも解決しちゃうので、きっとダメなんですね。

挫折したレーサーになる夢と、新たな目標

──30歳くらいのときに絵本新人賞に初めて応募されたとのことですが、それまでもずっと、絵本を描きたいなという気持ちはあったのでしょうか。

はっとりさん:いえ、実は高校生のころから、ずっとレーサーをめざしていたんです。ゴーカートでレースをやっていて、1年間全日本に出させてもらったりとか、鈴鹿サーキットのコースレコード持っていたりとか、ものすごく頑張ってたんです。でもそれが25歳くらいのときにダメになって、挫折して。

中学・高校が同じだった同級生がいるんですけど、その子はイラストレーターに、僕はレーサーになるという夢を持っていました。その子はちゃんと夢を叶えて、今も画家やイラストレーターとして活躍しているんです。それなのに僕はレーサーになれなくて、何か次の目標を探さなきゃって思っていました。

その後、結婚して子どもが生まれて、妻が毎日絵本の読み聞かせをしているのを見て、自分も絵が好きだから、子どものために絵本を描いてみようって思ったんです。それが最初のきっかけでした。絵本をよく読むようになったのは子どもが生まれてからですが、そこから絵本に関わりだしたんです。

──絵本新人賞に応募したきっかけはありましたか? 絵本作家をめざすにあたって賞を調べて、講談社絵本新人賞に行きついたのでしょうか。

はっとりさん:はい、そうです。家族も描いた絵本をほめてくれて、僕も「もしかして」って調子に乗ってしまうタイプなので(笑)、そのまま勢いで応募しただけ。(受賞なんて)ぜんぜん現実的ではないですよね。描き始めたばかりで、夢でしかなかったです。

──そこから何回応募して、新人賞受賞に至ったのでしょうか。

はっとりさん:『ドリームすいぞくかん』が1次選考で落ちて、そこから何年かしてもう一度応募して、それも1次選考で落ちて、絵本塾に通って、3回目の応募で受賞しました。

──そのあいだ、他の賞にも応募されていましたか?

はっとりさん:いや、していないです。最初だけ、他の出版社の賞も出したように記憶していますが、それ以降はもう講談社絵本新人賞しかないと思っていました。

胃が痛くなる思いをしながら通った絵本塾で、ストック制作の日々

──絵本塾のお話が出ましたが、はっとりさんは三重県四日市市にある「子どもの本専門店メリーゴーランド」の絵本塾(以下、メリーゴーランドとも)に通っていらしたんですよね。

はっとりさん:そうです。絵本賞の1次選考に2回落ちた後、絵本塾に通おうと思い立ったんですが、メリーゴーランドは入塾のためのオーディションがあって、ラフを出してそこでも2回落ちたんですよ。

結局、何年もかかって2016年(当時38歳)に入塾することができて、2017年になぜか新人賞をいただいた。たぶん、メリーゴーランドがすごく厳しくていい場所で、自分に向いていた部分があったのかもしれないですね。

──メリーゴーランドに入ってからは、1年で新人賞を受賞したということですね。その前は、メリーゴーランドに入ることも一つの目標となっていたのでしょうか。

はっとりさん:うーん、メリーゴーランドに入ることが目標というか、プロの絵本作家さんにはメリーゴーランド出身の方が本当にいっぱいいて、あそこに行って(プロに)なれなかったらもうあきらめよう、という気持ちだったんです。

だからもともと1年でやめようと思っていたら、なんとかたまたま結果が出てくれました。メリーゴーランドは更新が1年ごとにあって、そのときもう2年目に差し掛かっていたので、結局2年目も通ったんですが。デビューしたらその年で卒業って言われるんです。

──メリーゴーランドでは、どんな苦労がありましたか?

はっとりさん:ブタの絵本でオーディションを合格したので、最初のころはそれをずっと直していましたが、途中で「いつまでブタやってるの」と言われてしまい……。そこからはできる限り毎回新作を持っていくことにしていました。

新人賞を受賞してからは、絵本塾を卒業してしまう前にとにかくストックを作る、ということで、やっぱり毎回新作を持っていって、多いときは一度に2作出したりもしていました。そのたびにもうむちゃくちゃ厳しく言われるので、いつも半泣きで、胃の痛い思いをしながら行く場所でしたね(笑)。厳しくてもそれが正しいと思っていたので、いただいた言葉はメモしていました。今もそのときに作ったストックを利用することがあります。

──ストックしてた作品がきっかけで生まれた絵本はありますか?

はっとりさん:『ぽっかりライトせんせい』はもともとちがった家電の話を作っていて、そこから家電を活かしたいなと思って発展させたものです。『トイレロケット』もストックから出したもの。講談社以外だと、「ビルボ絵本大賞」や「こころの絵本大賞」に出した作品全部そうですね。
『ぽっかりライトせんせい』(2021年刊/講談社)
作:はっとりひろき
『トイレロケット』(2019年刊/講談社)
作:はっとりひろき

「子どもの心を開放する」ために

──絵本塾に通う中で、作品の作り方などに、大きく影響を受けた言葉はありましたか?

はっとりさん:絵本によって「子どもの心を開放する」っていう、それ一択です。今は見てくれた子どもたちの心が開放される、そのために絵本を作っています。絵本を見ているときだけでも楽しんでもらえて、開放された気分になれる……そんな作品が作りたいと思えるようになりました。

なので、絵本の中のポイントとして、どこかで「バーン」と弾けるというか、「わー!」ってなる部分は作りたいと思っています。

──それは新人賞受賞作『いっぺん やって みたかってん』でデビューする前から、変わらず意識していることですか?
『いっぺん やって みたかってん』(2018年刊/講談社)
作:はっとりひろき
はっとりさん:ちがうんですよ。『いっぺん やって みたかってん』は、雨の日に子どもたちといつもいく公園の横を通ったときに、本当にたまたま浮かびあがってきた話なんです。そのころから「子供の心を開放する」というワードはメリーゴーランドで何回も言われていてメモもしていたんですけど、自分では全然腑に落ちていなくて。

卒業間際にその言葉をまた聞いたときに、「そのために作らなきゃいけない」ってやっと気づいたんです。なので意識をしているのは、2作目の『トイレロケット』以降です。

──絵本塾に通っていたときに聞いて、自分の中に根付いた言葉ということですね。逆にデビュー当時と比べて、このあたりは変わったな、ということはありますか?

はっとりさん:頭で考えすぎてしまっているのが、すごく嫌です。「こう作ったらこうだよねって」なってしまうのがすごく嫌。前はもっと自由でしたよねって思うときがあります。

僕は絵本作家のかがくいひろしさんが好きで、『みみかきめいじん』という絵本が好きなんです。その中に出てくる透明人間の正体が実は……というオチが、はっきり言ってめちゃくちゃなんですけど、これはすごいって思ったんですよ。こんなに発想が自由でいいんですかって。

そのときに、絵本は自由でいいんだと気づいたんですが、つい頭で考えすぎてしまいます。
『みみかきめいじん』
作:かがくいひろし

新人賞受賞後、自ら全描き直しを申し出た!?

──たしかに『いっぺん やって みたかってん』は、特にのびのび描かれている印象があります。

はっとりさん:のびのびしていますよね。結構自由に描いて、絵本塾で最初に出したときも、厳しいご指摘をいただいたんですが、勢いはそのままに、そこからさらにブラッシュアップして応募しました。

──新人賞受賞から絵本になるまでは、また練り直したりしましたか?

はっとりさん:本当に申し訳ないんですけど、新人賞に応募した時点の『いっぺん やって みたかってん』は、原画に2週間くらいしかかけられていなくて、自分自身納得がいっていなかったんですね。だからもう、とにかく全部描き直ししたいって担当編集さんに相談して、細かいところまで全部練り直しました。

──講談社新人賞の受賞作は絵本として出版もされますが、受賞したとき、そのことについてどう考えていましたか?

はっとりさん:いやもうイメージがついていなかったですね。絵本が完成したら、何冊か届けてもらったんですが、それを見てもまだ実感がなく「できたできた」という感じでした。

そのあと書店に行って、僕の本が平積みされているのを棚の脇からそっと見たとき、「ある!」ってなって初めて実感しました。目の前にどーんと入ってきて、「絵本を作ったんだ」と感じたのをすごく覚えています。

──後編では、会社員と絵本制作を両立させている、はっとりさんの生活についてや、ご家族とのお話をさらに掘り下げていきたいと思います。楽しみにお待ちください。

待望の新刊は、「猫」×「タクシー」!

狭いところを通り抜け、高いところに飛び乗って、ときには苦手な水の中にも潜っていく……。

お客さんの要望にこたえるのは、かわいくてがんばりやさんの「おにゃんこタクシー」!

各ページにちりばめられた、見つけて楽しい隠し要素も必見です。
『おにゃんこタクシー』(2024年刊/講談社)
作:はっとりひろき

はっとり ひろき

写真提供/はっとりひろき
1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。

はっとり ひろき

絵本作家

1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。 2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。

1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。 2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。