レポート3(男の子の母)
「息子(小5)は、休校になっても全く困った様子がなく過ごしています。宿題も気持ちが乗っている時にさくっとこなし、他の時間は、自分の時間に費やしています。家族がそろう朝ご飯の時は、ホットケーキを作ってくれますが、その時の段取り力はすごいなと思います。やりやすいように、まわりを片付け、使うものを出し、計量し、作り方の把握もしているらしく、手際よく作ってくれます。
この手先の器用さは、幼少期での積み重ねのおかげではないかと思います。もちろんコロナは早く収束して欲しいですが、このように息子と向き合える時間をもらえたのはありがたい、と考えています」



レポート4(男の子の母)
「休校になっても、息子(小4)に一日の過ごし方は全て任せています。なぜ彼に一任できるかというと、自分できちんと自己管理ができるからです。YouTubeを見たりゲームをしたりする時も、タイマーをかけて自分で時間を決めます。漫画も工作も好きにやらせています。学校からプリントが送られてきましたが、いつやって、どれだけ進めるのかも彼が自分で段取りをします。
モンテッソーリ教育で学んだ経験から、私は息子を信頼して、自分の人生を生きていくためにどうしたらいいのかを考えさせ、危険なことではない限り、どれだけ失敗してもいいので全てを任せることにしています」

このほかにも、

・職人のように浴槽を洗って磨いてくれる。
・高いところの掃除や力仕事を率先してやってくれる。
・学校からもらった実験セットを説明書通りやり終え、自分でアレンジを加えて実験を続けている。
・夏休みの自由研究のテーマを草木染めと決め、そのために必要な種まきと観察を始めている。
・無料サイトの漢字テストを自分で毎日行い、去年の復習をしている。
・3月の休校で残った6年生の勉強を自学で終わらせ、自分の不得手な分野にも取り組み、4月からは中学校の分野を自学している。


など、まだまだたくさんのレポートをいただいています。

高いところはぼくに任せて 頼もしい小5

それらを読み進めるうちに、自然と共通点が見えてきました。
親と小学生に分けて要約してみましょう。

●モンテッソーリ教育を学んだ親たち
・こうした状況をストレスや困りごととしてとらえていない。
・子どもと向き合う時間ができたことを喜び、前向きにとらえている。
・勉強やすべきことについて不安を持っていない。
・幼児期からモンテッソーリ教育を実践してきたことが、花開いていると感じている。
・モンテッソーリの普遍的な理念である「子どもを信じて見守る」ことができている。


●モンテッソーリ教育を受けた小学生たち
・こうした状況を自分なりに理解し、制限ある生活の中でも楽しみを見つけようとしている。
・指示されて動くのではなく、自分ですべきことを考え、的確な判断をし、自発的に行動している。
・何をしたらいいのかわからないということがなく、むしろ自由に使える時間が増えたことを喜んでいる。
・やるべき勉強をさっさと終わらせ、やりたいことを満喫している。
・幼児期から本物の家事をしてきたので、料理など必要なことに困らない。むしろ役に立つことを喜び、率先してする。


ここに挙げたことは、こうだったらいいな、という理想の姿ではなく、お母様たちから寄せられた「事実」です。
また、モンテッソーリ園に通っていたお子さんもいますが、家庭だけでモンテッソーリ教育を実践してきたお子さんも多いのです。

ヨモギ団子を作って家族に食べてもらうことが幸せな小2

小鳥も大切な家族だから心をこめて世話をする小5

モンテッソーリで育った高校生、大学生たち

次にもっと成長した子どもたち、高校生と大学生の姿を簡単にご紹介しましょう。

まず、アメリカ在住の高校1年生の男の子です。
第19回でも取り上げましたが、日本にはまだないモンテッソーリ中学校では、実際に自分たちでビジネスを行います。モンテッソーリは思春期の自立というのは、経済的自立が重要であると考えていたからです。
彼はその経験を活かし、「自分で音楽編集ビジネスを立ち上げ、売上金を全額、新型コロナウィルスで苦しむ人のために寄付した」というのです。

もうひとりは日本の大学1年生女の子です。
「高校時代に一人でおこなった接着剤に関する研究が認められ、AO入試で大学に合格したものの、卒業式は縮小、入学式も授業もなく、自分も辛い状況にありました。でもそれ以上に、後輩たちが塾も高校も休みになってしまい、受験に不安を抱えていることを知り、友人と一緒に大学受験生向けの相談受付プロジェクトを開始しました。精神的に追い詰められないよう、親や先生にも言えないことを受け止められるようにと、ボランティアを続けています」

どちらのお母様もその姿に感動し、誇りに思うと同時に、モンテッソーリ教育の素晴らしさを改めて感じた、とお知らせくださいました。

ここから見えてくることは、モンテッソーリ教育の究極の目的である「平和を生きる人を育てる」ということの重要性です。このような緊急事態に問われるのが人格、つまり人としての在り方です。
大人になれば自然と理性や自制心が身につき、正しい行動ができる人間になるのかというとそうではありません。暇で退屈だからという自分勝手な理由で外出する、規制線を無視して侵入する、感染者を誹謗中傷する、果ては医療従事者やその家族を差別するなど、あってはならないことが多数起きています。

モンテッソーリ教育は、人格の形成という人間の根源に関わる教育法です。幼児期だけのものだと捉えられがちですが、むしろずっと先になって開花するものです。
レポートからわかるように、幼児期にモンテッソーリ教育を受けた子どもたちは、児童期になると自分で考え、自発的に動けるようになり、自立した生活を送ります。
さらに思春期、青年期になると、現状を冷静に分析し、他人のため、世界のために何かできることはないかと考え、実際に行動に移すことができます。
それまでにしっかりとそうしたスキルを身につけているからです。そして自分が役立つことを喜び、しかも特別なことではなく、当たり前のこととして行動するのです。

そうした人間こそが「新しい人間」であり、モンテッソーリは「新しい人間」こそが、「新しい世界」である真の平和社会を築くことができると考えていました。

そしてもうひとつ今回のことでよくわかったことがあります。新型コロナウィルスという未知のものに対して、これが正解であるというものは何もありません。価値観が根底から覆されることは、特に戦後などにもあったことでしたが、言われた通り、みんなと同じように行動していればよいというこれまでの教育は全く通用しないということが、より明らかになりました。

新型コロナウィルスが収束する頃、社会は大きな変革を遂げていると言われています。
つまり、これまで世の中になかった新しい価値観を生み出し、社会を変えるような人材が求められているのです。すでにグーグル、ウィキペディア、フェイスブックなど、それまでなかった仕組みを生み出し、世界に大きな変革をもたらした人がモンテッソーリ教育から生まれています。

これらのことから、モンテッソーリ教育が決して古い教育ではなく、むしろこれから求められている教育であるということが言えるでしょう。広い視野を持って自分で考え、使命感を持って行動できる人、それを育てるのがモンテッソーリ教育であることが、はからずも今回の新型コロナウィルスという特別な状況下で証明されたのではないでしょうか。

でも、専門家でもない自分には、そのような立派な教育をおこなうのは無理、と思われるお母様、お父様もいらっしゃるでしょう。
日本の教育が変革を遂げるのならば、それに任せておこうと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

けれども、連載の中で繰り返しお伝えしてきたことですが、大切なのはモンテッソーリの子どもの見方と援け方であり、それは一番身近にいる親が、家庭の中で実践できることなのです。
今回のピンチをチャンスに変えて、今一度、モンテッソーリの考えを子育てに取り入れてみてはいかがでしょうか。ほんの小さな日々の積み重ねが、まだ見えない未来を決めるカギとなるのです。

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『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(著:田中昌子)

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著者紹介

田中 昌子 たなかまさこ

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長。上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。