コロナ禍は「カーリングでつちかった事前準備+柔軟性」で乗りきる

新型コロナウイルスの蔓延でおうち時間が増え、特に緊急事態宣言下の大型連休(2021年はご主人が仕事だったこともあり「久しぶりにひとりでふたりの息子くんガッツリ過ごす濃い時間でした」と本橋さん。「カーリングでつちかった事前準備が活きました」とも言います。

「まず、100円均一ショップに行って、クッキーミックス粉やゼリーの素とそれらの型、さらに口に入れても大丈夫なお米から作った粘土や、とにかくでっかい模造紙など、自宅で楽しめるツールを買い揃えました。プランはいくつか立てておいたうえで、晴れて公園に行けそうなら行けばいいし、とにかく引き出しは用意しておいて困ることはないので。あとはどのタイミングでどのツールを使うかという、応用と柔軟性でした。息子くんたちが何に食いついて熱中するか分からないですからね」

結果、久しぶりに家族で有意義な時間を過ごすことができ、「ふたりの息子を改めて観察できて、よく知るいい機会になりました」と話します。

「ただ、そう考えると、逆に息子くんたちも私を見ているんだろうなと、少し気が引きしまる気持ちにもなりました。長い時間を一緒に過ごし、彼らなりに私が怒る瞬間、悲しむ理由、喜んでいる表情を無意識に観察しているのでしょう。しっかりしなくてはとも思います。育児とは一方通行ではなく双方向のコミュニケーションであることを再確認できたゴールデンウィークでもありました」

選手として母として奮闘する一方で、財団法人「ロコ・ソラーレ」の代表理事も務める
写真/森清 『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)より引用

育児で劇的に改善された時間の使い方と決断力

カーリングでつちかった事前準備を育児へ活用することと同様に、育児の経験がカーリングの競技力向上の助けになることがあるのでしょうか? 本橋さんに質問してみると「もちろん、あります!」と即答してくれました。

「なんといっても時間の使い方を根本から見直すようになりました。
家族を持つまでは、トレーニングやミーティングの時間って無限にあると錯覚していましたし、試合の結果とそれにともなう感情は、自分自身とチームメイトとで割りきれるものがほとんどでした。
でも、特に息子くんなどは私の帰りを待っていると、どうしても使える時間は限られてきます。半分、場合によっては1/3になってしまうかもしれません」

そうすると、それまでの時間の使い方では競技との両立は難しくなり、どうしてもトレーニングやミーティングの効率化を図る必要性に迫られます。それにともなって重要なってくるのは「決断力」だと本橋さん結論づけました。

「カーリングと育児の共通点に『どちらもミスが起こり、正解はない』というのもあります。どうしたってミスは起こります。でも大切なのはミスをミスのままにしないで、そのミスからしっかり学ぶこと。ミスを恐れてずっと迷って動けずにいるよりは、素早く決断してミスが起きてもそこで考えて正解にたどり着いたほうがチームは前に進むケースは少なくありません。先ほど話した、『プレッシャーのかかるショットは怖くなくなったかもしれない』という意識には『ミスを以前ほど悪いものと捉えなくなった』という思いも含まれているのかもしれません」

悩み抜くよりも、早く決断して改善点を見つけて、その課題を克服するために、限られた時間の中で優先順位をつけながらトレーニングを重ねる。その効率と決断、そして優先順位の付け方という好循環は「家族ができて得たもののひとつです。もっと早くほしかった」と本橋さんは語ります。

最初から完璧な親などいません。失敗から学ぶという姿勢は参考になりますね。

本橋麻里さん(左)の生い立ちから五輪進出、チームの代表理事としてのビジネス論を記した著書(右)『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)
写真/森清

本橋麻里
もとはしまり 1986年6月10日、北海道北見市常呂町生まれ。小学6年生のときにカーリングをはじめ、19歳で当時、トップチームだったチーム青森に加入。カーリング女子日本代表選手として、2006年トリノ五輪、2010年バンクーバー五輪を戦った。2010年に『ロコ・ソラーレ』を結成し、2016年世界選手権銀メダル獲得、2018年平昌五輪では銅メダル獲得と日本カーリング界の歴史を塗り替えてきた。現在は2児の母でありながら育成チーム「ロコ・ステラ」のメンバーとして活動中。著書に『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)がある。

ロコ・ソラーレHPはこちら https://locosolare.jp/

※本橋麻里さんインタビューは全4回。4回目は21年7月1日8:00~公開です
【第4回】本橋麻里さんインタビュー「終わりのない子育てを楽しみ おばあちゃんになってもカーリングを続けたい」

【第2回】本橋麻里さんインタビュー「育児を育“事”と割りきるとラクになれた」
【第1回】本橋麻里さんインタビュー「子どもに “調和”より“創造”を尊重」する理由

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たけだ そういちろう

竹田 聡一郎

たけだそういちろう 1979年生まれ。神奈川県出身。幼少の頃からサッカーに親しみベルマーレ平塚(現湘南)の下部組織でプレーする一方で、...

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