2020.12.21

「子ども」と「絵本」を考える。

浜野 隆・お茶の水女子大学大学院教授

絵本の読み聞かせを やっていた子どもは 頭がいい、ってホント!?

「低収入でも好成績の家庭」の要因に「絵本の読み聞かせ」があると大きな見出しで新聞報道がありました。それっていったいどういうことなのでしょうか? この調査の結果分析をした大学の先生にお話をきいてみました。
※この記事は、こどもの本通信『dandan』Vol.39(講談社 2018年11月刊)の企画を再構成したものです。

浜野 隆 お茶の水女子大学大学院人間文化創生科学研究科教授。

新聞各紙に掲載されたのは、2017年春に文部科学省が全国学力・学習状況調査を受けた小学6年生と中学3年生の保護者を対象に行った調査※に関する記事で、そこには「親が低収入の家庭でも、小さい頃に絵本の読み聞かせをしてもらっていた子どもは学力が高い」という分析結果が出ていたのです。

「絵本の読み聞かせで子どもの頭がよくなるの?」記事を読んだ人からはさまざまな疑問が噴出。そこで、調査結果を分析した研究グループの代表である浜野隆先生(お茶の水女子大学教授)に、詳しいお話をうかがってみました。


「今回(2017年)の分析結果には、もともと経緯があるのです」と話す浜野先生。

「今回は2013年に続いて2回目の調査でした。1回目では家庭の年収が高ければ子どもの学力も高く、年収が低いと学力も低いという傾向があるということ。さらに、保護者の学歴との関係も非常に明確である(=親の学歴が高いと子どもの学力が高く、低いと子どもの学力も低い)こともクローズアップされました。

そこで、2回目となる今回は、もう少し深く掘り下げてみることにしたのです。子どもの学力は家庭の収入や親の学歴などの『環境』によってすべて決定されてしまうものなのか、それとも、環境的に厳しくても高い学力を達成している子どもがいるのであれば、そこにはどんな要因があるのか、というところに目を向けてみました。そして、経済的に厳しい環境でも高い学力をもつお子さんのご家庭がどのようなことをしていらっしゃるのか調べてみると、特徴のひとつに、幼児期に絵本の読み聞かせをしていたということがあったのです」

※2017年度 全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究(文部科学省委託研究)


写真:アフロ

大切なのは、 親もリラックスして楽しむ 共有型のスタイル

浜野先生は以前から家庭の経済背景と子どもの語彙力や学力に関する独自の調査を、発達心理学が専門の内田伸子先生(お茶の水女子大学名誉教授)らと共同で行い、「子育て格差」をテーマに共著も出しています。

「幼児期に絵本の読み聞かせをすることが子どもの学力を高めるということは、じつは世界各国で得られている分析結果であり、確かな根拠のひとつといっていいと思います。

さらに、私たちが行った調査によって、興味深い事実がわかっています。それは、絵本の読み聞かせの際の親の関わり方が子どもの語彙力に大きく影響する、ということです。親の関わり方=しつけのスタイルといってもいいかもしれませんが、具体的には『共有型』と『強制型』の2つのスタイルがあり、『共有型』の家庭のほうが子どもの語彙力が高くなるという分析結果が出ています」

共有型と強制型とは、絵本の読み聞かせにおいて、それぞれどのようなスタイルなのでしょうか?

「共有型は、たとえば“わぁ、きつねさん、死んじゃったね……どうしてだろうね……”と、親が子どもと一緒に驚いたり、疑問を投げかけたりして、子ども自身に考える余地を与えるような言葉がけをするスタイル。一方、強制型は“きつねさん、戦って死んじゃったね。なぜだかわかる? 狼ってきつねより断然大きくて牙もすごいでしょ、だから強いんだよ”と、親が答えを明示的に与えてしまい、子ども自身が考える機会を奪ってしまうようなスタイルです。語彙力や学力という点に関していえば、強制型のしつけのほうは良くない結果が出ています」

絵本を読み聞かせながら、つい無意識のうちに「これはこうでしょ」と答えをいってしまうお母さんは、意外と多いのではないでしょうか。

「そうですね。あたかも国語の入試問題であるかのように、子どもがちゃんと絵本の内容を読み取ることができたかどうか、テストをしてしまうお母さんは多いと思います。ただ、強制型であっても、別に子どものことを愛していないわけではありません。強制型の親は、子どもを自分の思い通りの型にはめていきたいという思いが非常に強いのです。でもじつはその思いが裏目に出ている……」

強制型から共有型への切り替えは、親が意識をすれば可能だと浜野先生はいいます。

「読み聞かせをするときに、説明スタイルではなくて、もう少し情緒的な関わりをもつようにしようかな……と、親が心構えを変えることはできると思います。これは家庭の経済力や親の学歴などと違い、親が意識して変えることができるものです。

絵本を読み聞かせることは、遠い外国のことや空想の世界など、今そこにはない世界を子どもに教えること。それが子どもの視野や関心の幅を広げるのです。大切なのは、親も子どももリラックスして、親も絵本の内容に関心をもつこと。お互いに絵本を読む時間を楽しみながら関わっていくことが大事で、語彙力や学力が高まるのは結果に過ぎません。

今回の調査で、幼児教育の充実は、社会的格差や教育格差を縮めていくひとつの有用な方法だと改めて確認できたので、厳しい環境にいる子どもたちへの支援や貧困対策を、社会が今後も一層充実させていくべきだと思っています」

浜野 隆 Takashi Hamano
お茶の水女子大学大学院人間文化創生科学研究科教授。専門は教育社会学。アジア・アフリカにおける子どもの発達支援、教育開発協力のあり方について研究を行う。

取材・文/牧野容子