これからの子どもたちに必要な学問をテーマに企画
2022年2月24日、コロナの話題ばかりだった日常に、突然、遠く離れた国で「戦争が起こった」というニュースが舞い込んできました。連日テレビに映し出される戦火に、不安を感じた親子も少なくないはずです。
子どもたちが直面する「どうして戦争が起こるのか」、「誰が悪いのか」、そして「どうしたら平和になるのか」といった素朴な疑問。そのベストな答えは何なのか。
普段から、友達やきょうだいとは「ケンカせずに仲良くしなさい」と子どもたちへ伝えているくせに、大人が争いをしているという矛盾にはどう答えれば良いのでしょう。
「いま、世界で何が起こっているのか」を子どもたちに正しく教えるために役に立つのが、注目されている「地政学」という学問です。
今回は、児童書『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』(以下、『こども地政学』に略)の監修者である船橋洋一(ふなばし・よういち)さん、同書をはじめとした大人気児童書シリーズを手がける担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さんに話をうかがいました。
※全4回の1回目。
「地政学」という学問のこと、みなさんは知っていましたか?
「大人が知っている言葉でも子どもに聞かれるとうまく説明できない……という時勢的な事柄ってありますよね。
2020年7月に最初に出版した児童書『こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本』(以下『こどもSDGs』に略)がとっても好評だったので、今後もこういう形で、現状の日本の教育が得意ではないジャンルの学問を伝えていけたらと思いました」
と話すのは出版社・株式会社カンゼンの専務取締役で、同書の担当編集者である坪井義哉(つぼい・よしや)さん。
これからを生きる子どもたちに必要になってくる学問が、『こどもSDGs』や『こども地政学』を含む「こどもシリーズ」の一貫したテーマだと坪井さんは話します。
「児童書のテーマは、欧米の教育からヒントを得ることが多いです。
2作目の『こども統計学』(2020年12月発売)もそう。統計学は、数年前に日本のビジネスマン界隈ではブームになったけれど、欧米では小学校や中学校課程で学ぶものなんです。
最近はコロナワクチン3回目接種者の抗体量が変動した話題で一般的となった《中央値》という言葉も、日本人は平均で物事を考えがちなので浸透していなかったのですが、実際、物事の本当の真ん中をとらえるには中央値という言葉を知っておかないといけません。
これらの学問で使われるキーワードは、社会に出てから、実際のマーケティングの現場などで知ることが多いな、と感じていました」(坪井さん)
シリーズ第3弾のテーマとして選ばれたのが「地政学」でしたが、企画時は坪井さんも地政学についてよく知らなかったと言います。
「地政学は、欧米から生まれた学問・研究。この地政学に出てくるキーワードを知っていれば、輸入・輸出などのビジネス関係において、将来有利な知識になるのではと思いました。
他社の大人向け“地政学本”が、当時話題となっていたのもきっかけのひとつです。この地政学の知識を簡単に、子ども向けにできないかということで、2021年3月に『こども地政学』を出版しました」(坪井さん)
2022年に入り、ロシア・ウクライナの戦争によって奇しくも「地政学」がさらに注目されることになりました。
「出版したときは、まさかこういうこと(戦争)になるとは思いもよらなかった」と坪井さん。
「2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、3月に入って『この戦争は長引くかもしれない』という報道が増えてきてから、学校や図書館からの問い合わせが急増しました。
教育の現場では、先生や生徒の間での『なんで今回の戦争が起こったの?』という疑問に対し、『子どもに上手に説明ができる本はないか』と探している方が多かった印象です」(坪井さん)
『こども地政学』は、2021年3月発売以降、戦争が始まった後の2022年3月から重版出来が続き、2022年8月現在では、5刷2万9500部になっています。
いま、地政学を学ぶべき理由があるのです。
いま地政学が必要なワケ 地政学って何?
では、地政学とはどのような学問なのでしょうか。
「地政学は、国際情勢の変化のもっとも重要な決定要因を“地理的条件”とするのが最大の特徴。地理的条件というのは、簡単にいえば、その国が『どこにあるか』ということです」(坪井さん)
地理的条件に着目して、国がどう行動するのか、国同士の関係がどう変化するかを、さまざまな側面から考えていきます。
『こども地政学』を監修した、外交・安全保障の専門家で、シンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の創設者である船橋洋一(ふなばし・よういち)さんはこう語ります。
「地政学は、力の均衡(きんこう)と、秩序の安定を追求する思考作法のこと。世界の国々が、ともに生きる知恵を学ぶために必要な営みなのです」(船橋さん)