2022.04.28

ブックマーク

倉橋燿子が描いた「いい子の反乱」が思春期の子どもに大反響の理由

「元いい子」の後悔と願い

作家:倉橋 燿子

「こんな居場所がほしい」「こんな仲間がほしい」と共感を集めている児童文庫の人気シリーズ『夜カフェ』。中学生の主人公が開く「みんなでごはんを食べる、子どもによる、子どものための居場所」、それが『夜カフェ』です。

著者の倉橋燿子氏は、思春期の子どもたちが主人公の作品を数多く生み出してきたベテラン作家。『夜カフェ(5)』の中で描いた「いい子の反乱」には、小中学生から大きな反響がありました。これは、著者自身が、親の望む子どもでいようとして息苦しさを感じてきたからこそ生まれた作品だったのです。倉橋燿子氏の書き下ろしでお届けします。

主人公のハナビは、学校では「ぼっち」。『夜カフェ』には、ハナビと同じように、学校以外の居場所がほしい子どもたちが集まってくる。『夜カフェ(5)』講談社青い鳥文庫。たま/絵

心の奥底におさえつけている気持ち

ご記憶にある方も多いと思います。

2020年にリリースされ大ヒットとなった、Adoさんの『うっせぇわ』。

この歌を聞いた時、私は大きな衝撃を受けました。

一方で、「ああ、こんなふうに、はっきりと感情を爆発させられたら、どんなに気持ちがいいだろう」とあこがれもしました。

もし私がそういう発言をしたら、周りにいる人たちに、さまざまに波紋を起こすことは容易に想像できました。でも、心の底に押さえつけている感情の数々が、出口を見つけられずにいることは確かだったからです。

そう――私は、「あるべき自分」「こう見られたい自分」に、長い間しばられていました。

親が望むとおりの子どもでいようとして

子どものころ、母からよく聞かされていたことばは「いい子」でした。

お客さんが来る前は、「いい子にしてるのよ」。

学校から帰ると、「いい子にしてた?」

いい子というのは、「問題を起こさない」「おとなしくしている」「言われたことに従う」ことだと私は受け止めました。

そして、そのような基準にそって生きるのが、当たり前だと思っていました。

そのせいで「こうしたい、ああしたい」「こんなことはイヤ、したくない」といった自分の本当の気持ちをずっと置き去りにしていたことに、大人になるまで気づけなかったのです。

出版社で働いていたころ、企画会議で「それで君はどうしたいの?」「君の考えが聞きたい」と言われ、「えっ!?」とあわてて何も答えられなかったのは、苦い思い出です。

仲良しの母親に初めて反抗した中1のナナミ

そうした体験をふまえて、『夜カフェ(5)』で、ナナミという物静かな中学1年生の女の子に起こったできごとについて書きました。

傷ついている子猫を拾ってきたナナミは、母親から「すぐに捨てていらっしゃい」と厳しく叱られます。

けれどナナミはどうしても捨てることができません。

そのとき、ナナミが思い出したのは『夜カフェ』の仲間でした。『夜カフェ』は、子どもだけで集まってごはんを食べる場所。ナナミも時々参加しています。

ナナミは、母親に言わずに、猫をかかえて『夜カフェ』へ行きます。この行為だけでも、ナナミにとっては大変な勇気がいることでした。

もし、この時点で、母親に心を開いて自分の気持ちを話すことができたら、事態は違う方向に動いたかもしれません。

でも、これまでナナミは、母親に自分の気持ちを伝えることをしてきませんでしたし、母親はナナミの気持ちを聞いてみようとしたことがありませんでした。

初めてのナナミの反抗に、母親はショックを受けると共に、なんとしても従わせようとします

その結果、ナナミはなんと、家出という行動に!

無理やり連れて帰ろうとすると、

「わたしは、ママのあやつり人形じゃない! いい子なんて、もう、イヤ!」 

そう言うなり、ナナミは突然、自分の長い髪をハサミで切ってしまいます。

「もう、これ以上、わたしのこと、決めつけないで! 髪型のことも、学校や塾や友だちのことも、ママが勝手に決めないで!」ナナミは長い髪を自分で切ってしまう。

もともとナナミは母親のことが大好きでした。

だから、母親に従うことは絶対で、言いなりになることに抵抗を感じていませんでした。

でも、大切なものを守ろうとした時に初めて、母親とはちがう自分の気持ちに向き合い、ぶつからざるを得なかった……。

こうしたナナミの行動を、読者はどう思うだろう? と、刊行後はドキドキしていました。

ところが返ってきたのは、

「ナナミがお母さんに向かって自分の意見を言うのがカッコいいと思った」

「お母さんの前で髪を切るなんてビックリ。私もやってみたい」

お母さんのこと、悲しませたり怒らせたりしたくないと思っていたけど、自分の気持ちをちゃんと言うことは大切なんだって思いました

など、多くがナナミへの共感の声だったのです。

青い鳥文庫サイトには、ナナミに共感する感想が多数寄せられた。

「いい子」から自由になってほしい

「いい子」という大人が望む子ども像にしばられて、自分の本当の気持ちに気づかない、もしくは気づいていても外に出さないでいると、かつての私のように、自信が持てず、主体性や自主性に欠けた、【指示待ち】の人間になってしまう気がしてなりません。

ビクビクしないで、もっと伸び伸びと。あなたの本当の気持ちと向き合って

と願いながら書いたのが『夜カフェ(5)』です。

作品を通して、子どもたちの心の声を聴いていただけたらうれしいです。

倉橋燿子(くらはし・ようこ)

広島県生まれ。上智大学文学部卒業。出版社勤務、フリー編集者、コピーライター を経て、作家デビュー。講談社X文庫『風を道しるべに…』等で大人気を博した。 その後、児童読み物に重心を移す。主な作品に、『いちご』、『青い天使』、『パセリ伝説』、『小説 聲の形』(原作:大今良時)、『生きているだけでいい!~馬がおしえてくれたこと~』、『夜カフェ』(以上、すべて青い鳥文庫/講談社)、『倉橋惣三物語 上皇さまの教育係』(講談社)、『風の天使』(ポプラ社)などがある。

『夜カフェ(5)』倉橋燿子:作、たま:絵(講談社青い鳥文庫)

〔ものがたり〕 お母さん、わたしにはわたしの気持ちがあるの!

あたしは中2の黒沢花美(くろさわ・はなび)。カフェを営む叔母の愛子さんの家で暮らしながら、みんなでごはんを食べる場所『夜カフェ』をひらいてる。ある日、『夜カフェ』の参加メンバーのひとり、中1のナナミちゃんが傷ついた子猫をかかえてやってきた。お母さんに、猫は飼えないから捨ててこいと言われたのだ。「あなたのため」を連発するナナミちゃんのお母さんって、じつは、すべて言う通りにさせようとする「毒親」!? 逃げこんできたナナミちゃんと子猫を、ハナビたちはあたたかく迎える。ところが、猫をあずかったことで、次から次へとトラブルが発生して……!

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