チョコよりおいしい『銀河鉄道の夜』の不思議な“まっ白マシュマロ”を作ろう

読んで楽しい、作っておいしいエッセー&レシピ 児童文学キッチン#07

青じろのがんの肉をちぎって食べるなんて。なんだか不思議でちょっぴりこわいですね。(撮影/青砥茂樹)
児童文学作家の小林深雪さんと、お菓子研究家の福田里香さんのかわいい本『児童文学キッチン お菓子と味わう、おいしいブックガイド』から、読んで楽しい、作っておいしい、エッセー&レシピを厳選してお届けします。

第7回目は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から。あの、”ふしぎな、まっ白でぽくぽくしたもの”です。


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チョコレートよりもおいしいおかしの味がする、 不思議な“さぎ”や“がん”風の まっ白なマシュマロ (福田里香)

<「どうです。すこしたべてごらんなさい。」鳥捕りは、それを二つにちぎってわたしました。ジョバンニは、ちょっとたべてみて、(なんだ、やっぱりこいつはおかしだ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんながんが飛んでいるもんか。この男は、どこかそこらの野原のかし屋だ。けれどもぼくは、このひとをばかにしながら、この人のおかしをたべているのは、たいへん気のどくだ。)とおもいながら、やっぱりぽくぽくそれをたべていました。> 
『銀河鉄道の夜』より
銀河鉄道に乗車したジョバンニとカムパネルラ。

鳥捕りの男は「まっ白な、あのさっきの北の十字架のように光るさぎ」の処理法を語り、「青じろのがん」の肉をくれました。

また、この鳥たちは「地面に足がつくと雪のとけるようにひらべったくなる」という。

ふたりが、がんの肉を口に入れると「チョコレートよりも、もっとおいしく」、「ぽくぽく」した食感で、簡単に「二つにちぎれ」ました。

終始不思議な描写が続き、不穏な気持ちをかき立てられます。

そんな印象をもとに、大きくてまっ白なマシュマロを作りました。

手でちぎって食べてみて。燈台看守の「黄金と紅でうつくしくいろどられた大きなりんご」を添えて。(福田里香)

無限に広がる 夢幻の世界で考える 「ほんとうのさいわい」(小林深雪)

<「なにがしあわせかわからないのです。
ほんとうに
どんなつらいことでも
それがただしいみちを
進むなかでのできごとなら
峠ののぼりもくだりも
みんなほんとうの幸福に近づく
一あしずつですから。」>
『銀河鉄道の夜』より
宮沢賢治の本は、いきなり、ふいに、異世界からのお誘いがあって、そして、主人公はその場所に出かけていきます。そこには、人間と動物と植物が、おなじ仲間として語り合える世界があります。

たとえば、『どんぐりと山猫』なら、ある日、突然、山猫からはがきが届きます。

『雪渡り』では、子ギツネがあらわれ、凍った月夜の晩の幻灯会に誘われます。

そして、『銀河鉄道の夜』では、ついに宇宙を走る銀河鉄道に乗車します。

銀河鉄道は「時間」という乗り物です。

自分はどこへも行かないのに、いつのまにかどこかに運ばれていく。そして、時間の駅は、過ぎればなくなっていく。二度と引き返すことはできないのです。

そして、南十字星の近くには、「石炭ぶくろ」という大きなまっくらな穴があいている。時の鉄道の終点は、死です。

青い闇の中を天の川が流れ、賛美歌が聞こえ、南十字星の十字架が光ります。怖いほど美しい光景です。そのとき、はっとジョバンニもわたしも気がつくのです。この銀河鉄道で、ジョバンニは、唯一の生きている乗客だということに。乗り込んでくる乗客は、すべて死者なのです。急に奈落の底を覗いてしまったように、めまいがします。では、となりにいる、親友のカムパネルラは? 

「ぼく、もうあんな大きなやみのなかだってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでもぼくたちいっしょに進んでゆこう。」

それでも、ジョバンニは力強くこう言います。でも、カムパネルラはもうとなりにいないのです。

この本は、賢治の妹さんが亡くなったあとに書かれた物語です。あたりまえの日々が、となりにいた人が、突然、消えてしまう。そのとき、自分はどうふるまったらいいのか?「ほんとうのさいわい」とはなんなのか? 

賢治の愛した東北の地に起こった大きな震災を思うと、いろんな思いで胸がいっぱいになってしまいます。

(小林深雪)

みんなもきっとびっくり! ふしぎなマシュマロを作りましょう(福田里香)

材料(20㎝角程度のトレー1枚分)
粉ゼラチン 15g
水 大さじ3
卵白 2個分
バニラビーンズ 3㎝
(またはバニラエッセンス 数滴)


グラニュー糖 200g
水飴 20g
水 大さじ4

粉糖 適量
作り方

下準備:
卵白は冷蔵庫で冷やす。
水にゼラチンを振り入れ、ふやかす。
コップに冷水をそそいでおく。
トレーにクッキングシートを敷いて、茶こしで粉糖をふるっておく。
バニラビーンズはさやからしごき出しておく。

1    水けも油けもないきれいなボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーでピンと角が立つくらい泡立てる。

   aを鍋に入れ、弱めの中火で沸騰させる。2分ほど煮詰めたら、スプーンでシロップを少量すくい、用意したコップの冷水に1滴たらす。シロップが散らずに、水の中でやわらかい球状に固まるようになったら、火から下ろす。

   1を再度ハンドミキサーで泡立てる。そこに片手で2の鍋を持ち、シロップが糸状に少しずつ加わるように鍋の傾きを調節しながら、さらにハンドミキサーで泡立て続ける(写真参照)。
シロップはとても熱いのでやけどに気をつけてください。慣れない人は、ひとりでやらずに、そそぐのは他の人に手伝ってもらってくださいね。(撮影/青砥茂樹)
   シロップが全部入ったら、ゼラチンを3回に分けて加えながら、泡立て続ける。

   ゼラチンが全部入ったら、バニラビーンズを加え、約8分間、粗熱が取れるまで泡立てる。すくうともったりと跡が残るようになれば、大丈夫。

   5をクッキングシートの上にこんもりと丸く流す(p124写真参照)。全体に粉糖を茶こしでふるい、そのまま涼しくて乾燥した場所で1日固める。

   6をクッキングシートからはずして、全体に再度、粉糖を茶こしでふるう。
クッキングシートの上にこんもりと丸く流して、茶こしで粉糖をふるいかけます。涼しくて乾燥した場所で1日固めてから、もういちど粉糖をかけましょう。(撮影/青砥茂樹)

『銀河鉄道の夜』についてあれこれ(小林深雪)

宮沢賢治(1896~1933)は、岩手県生まれ。花巻で学校の先生をしながら、多くの詩や童話を書きますが、生前は評価されず、37歳で死去。でも、いまや知らない日本人はいないほどの国民的作家です。

わたしは子供のころ、夜寝る前にお布団にもぐって、本を読むのが好きでした。『どんぐりと山猫』『セロひきのゴーシュ』『注文の多い料理店』などを姉と二人で読んで、きゃっきゃと笑い合う。

いま思い出すと、あれほどのしあわせな時間を、ほかに知らないような気がします。
『銀河鉄道の夜』
文:宮沢賢治 絵:太田大八 講談社青い鳥文庫

むずかしい漢字にふりがなつきで、小さいお子さんでも読みやすい児童文庫版。

お話から生まれた23のかわいいお菓子がレシピ付きで作れる!

『児童文学キッチン  お菓子と味わう、おいしいブックガイド』
文:小林深雪  料理:福田里香  講談社

読んで楽しい、作っておいしい!小林深雪先生の大好きな児童文学作品にインスパイアされたかわいいお菓子を福田里香さんのレシピつきで紹介!
*現在入手困難です。図書館などで探してみてくださいね。
(編集協力/俵ゆり)
こばやし みゆき

小林 深雪

Miyuki Kobayashi
作家

埼玉県生まれ。東京在住。武蔵野美術大学卒。ライター、編集者を経て、1990年作家デビュー。 「泣いちゃいそうだよ」「これが恋かな?」「作家になりたい!」シリーズ(すべて講談社青い鳥文庫)や、 エッセイ集『児童文学キッチン』、『おはなしSDGs /つくる責任つかう責任 未来を変えるレストラン』『スポーツのおはなし/体操 わたしの魔法の羽』、『どうぶつのかぞく/ホッキョクグマ ちびしろくまのねがいごと』『おしごとのおはなし/まんが家 ゆめはまんが家』(以上、すべて講談社)など著書は200冊を超える。 『デリシャス!』『恋人をつくる100の方法』など、漫画原作も多数手がけ、『キッチンのお姫さま』で講談社漫画賞受賞。

埼玉県生まれ。東京在住。武蔵野美術大学卒。ライター、編集者を経て、1990年作家デビュー。 「泣いちゃいそうだよ」「これが恋かな?」「作家になりたい!」シリーズ(すべて講談社青い鳥文庫)や、 エッセイ集『児童文学キッチン』、『おはなしSDGs /つくる責任つかう責任 未来を変えるレストラン』『スポーツのおはなし/体操 わたしの魔法の羽』、『どうぶつのかぞく/ホッキョクグマ ちびしろくまのねがいごと』『おしごとのおはなし/まんが家 ゆめはまんが家』(以上、すべて講談社)など著書は200冊を超える。 『デリシャス!』『恋人をつくる100の方法』など、漫画原作も多数手がけ、『キッチンのお姫さま』で講談社漫画賞受賞。

ふくだ りか

福田 里香

Rika Fukuda
菓子研究家

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。大学の同級生だった小林深雪さんの書籍に携わったことから、この道に入る。これまでに小林深雪さんの4冊のレシピブック『キッチンへおいでよ』『ランチはいかが?(編集)』、『デリシャス! スイート・クッキング(スタイリング)』、『児童文学キッチン(共著)』(以上、講談社)に携わる。 単著に『民芸お菓子』(Discover Japan)『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)、『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『フードを包む』(柴田書店)、『まんがキッチン』(文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)、共著に『R先生のおやつ』(文藝春秋)がある。

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。大学の同級生だった小林深雪さんの書籍に携わったことから、この道に入る。これまでに小林深雪さんの4冊のレシピブック『キッチンへおいでよ』『ランチはいかが?(編集)』、『デリシャス! スイート・クッキング(スタイリング)』、『児童文学キッチン(共著)』(以上、講談社)に携わる。 単著に『民芸お菓子』(Discover Japan)『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)、『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『フードを包む』(柴田書店)、『まんがキッチン』(文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)、共著に『R先生のおやつ』(文藝春秋)がある。