2021.05.22

空前の猫絵本ブームに、なぜかあえての「ナマズ」絵本

地味すぎるキャラクターばかり、けれど愛らしい絵本『なまずにいさん』

著者:幼児図書編集部

猫絵本ブームに物申す!?

このところの猫人気も相まってか、絵本の世界でも『100万回生きたねこ』などのロングセラーの人気はもちろん、新しい猫絵本が次々生まれています。もちろん、猫に限らず、クマ、ウサギ、パンダ、リス……など、やはりモケモケ・フワフワの動物が主人公の絵本は人気ですね。

そんななか、あえて“ナマズ”を主人公にした絵本が登場しました。絵本『なまずにいさん』は題のとおり主人公がナマズ。ナマズといえば……地震を予知する言い伝えとか、秋篠宮皇嗣殿下が研究されているとか、そのくらいしかイメージが湧かない人も多いのでは。

さらに、脇役として登場する動物も、ウシガエル、ヘビ、ワシ、と、なかなかメインキャラになりにくい、バイプレーヤー的な動物ばかり。ウシガエルに至っては、日本にははじめ食用として輸入されたにもかかわらず、今では在来種に害をおよぼすとして、特定外来生物に指定されてしまっているのです。

ちょっと情けない表情のナマズと、けわしい形相で獲物を奪い合うヘビとワシ。

そんな地味なキャラクターばかりの絵本の絵を担当したのが、西野沙織さん

「ひげがあってうろこがない独特な姿をしたナマズと、おたまじゃくしでも10cm以上になり牛のような声で鳴くウシガエル。可愛いなと感じる方もいる一方でギョッとされる方も多い生き物なので、何となくユーモアがある表情にし、親しみを感じてすんなりとお話に入ってもらえるように心掛けました。」(西野沙織さん)

西野さんは、サンリオキャラの「シャケのきりみちゃん」の絵本も手がけ、ひとクセあるキャラもかわいく描き出せる作家さんです。彼女にかかれば、ナマズがこんなにも愛らしく描かれ、その喜怒哀楽が読んでいるこちらにしっかり伝わってきて、きゅーんとしてしまいます。

「違っていても仲間になれる」 今日的なメッセージ

さて、そんな地味な登場人物が繰り広げる絵本のあらすじは……。
ひとりぼっちでさみしかったナマズは、自分にそっくりのおたまじゃくしたちから「にいさん」と慕われるようになります。一緒に助け合いながら、たのしいひと時を過ごしていたのですが……。

かわいいおたまじゃくしたちを引き連れて、うれしそうに泳ぐナマズ。

文章を書かれた穂高順也さんは、このお話を作ったきっかけを、こう語ります。

「童謡『お玉杓子は蛙の子』の歌にもあるように、大型のカエルのおたまじゃくしの姿形がナマズに似ているなぁと思った時、卵からかえったおたまじゃくしがナマズを見て勝手に親だと思い込み、慕ってあとを追い、ナマズも子育てを愉しむと言う様な話を描いてみようかと。
ただ、その場合おたまじゃくしが変態したらどうなってしまうのだろう?とか考えているうちにこうなりました。」
(穂高順也さん)

サンシャイン水族館(東京・池袋)の二見さんにお話を聞いたところ、現実世界では、ナマズとウシガエルは、もし同じ沼や池にいたとしても、お互いが食べたり食べられたりする可能性がある(!)ため、それを避けるために卵を産む場所や暮らす場所をすみわけているそうです。

画家の西野さんはこんな場面に遭遇したそうです。

「ある日散歩をしていたら、たまたま近くの川にいたウシガエルのおたまじゃくしに会うことができました。
おちょぼ口で、小さな足が生え始めたおたまじゃくしでした。同じ川には小さなナマズもいて、人間でいうと小学5年生くらいのナマズだと、そこにいた方に教えてもらいました。メダカを捕りにきたら、偶然おたまじゃくしやナマズも網にかかったのだそうです。
あのナマズとおたまじゃくしは、今頃どうしているのか気になります。」
(西野沙織さん)

おたまじゃくしと、同じ川にいたナマズやドジョウたち。相模川にて西野沙織さん撮影。

絵本の中で、ナマズとおたまじゃくしは、その姿が似ていることから仲良しになります。

きむらゆういち×あべ弘士の名作『あらしのよるに』では、狼と羊の友情が描かれました。もちろん、あくまでお話や絵本の中でのファンタジーですが、同じ種でなくても仲間になれる、というのはとても今日的なメッセージに思えます。

そして、ナマズとおたまじゃくしに、別れがおとずれます。

孤独のなかにあっても

冒頭も最後も、ナマズはひとりぼっち。孤独です。作者の穂高さんは、「孤独が愉しめず、膝を抱えてうつむいている様な時に、この絵本をめくってもらいたいです。」と言います。絵本の最後のページに添えられた文章は、

でも、すこしも さびしくは ありません。
すがたかたちが ちがっても、
はなれた ばしょに くらしていても、
なまずには たくさんの きょうだいが いるからです。


今、会えなかったり一緒にいられなかったりすることも多いけれど、まずできることは心で想い、つながること。そんなことをこの絵本は教えてくれているのかもしれません。
蛇足ですが、英語でナマズはcatfish。もしかしたら、猫絵本ブームの大本命だったりして……。

『なまずにいさん』
穂高順也・文 西野沙織・絵 講談社
<あらすじ>
ひとりぼっちのなまずに、姿形がそっくりの、ちいさくてかわいい弟や妹たちがなついてくれました。でも、別れのときがきて……。

著者紹介

穂高順也
1969年、愛知県生まれ。保育専門学校卒業後、幼稚園・保育圏勤務を経て絵本作家・童話作家に。主な絵本に『さるのせんせいとへびのかんごふさん』『へびのせんせいとさるのかんごふさん』(絵・荒井良ニ ビリケン出版)、『ぼくのえんそく』『ちゅうしゃなんかこわくない』(絵・長谷川義史 岩崎書店)、『どろぼうだっそうだいさくせん!』(絵・西村敏雄 偕成社)、文・絵を担当したものに『あおいでんしゃにのって』(日本標準)などがある。

西野沙織
1977年、静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。広告会社勤務ののち、イラストや絵本を描く。手触りが感じられるような温かみのある作品づくりを目指している。絵本に『プンとフォークン』(教育画劇)、『えほんKIRIMIちゃん.わ たしシャケのきりみちゃん』(岩崎書店)がある。神奈川県在住。

著者紹介

幼児図書編集部

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