2022.01.07

ブックマーク

担任が生徒と給食を食べないフランス「子どもに関わる大人を増やす」極意

フランスに学ぶ、子育て安心社会のレシピ#1 社会の意識

在仏ライター:髙崎 順子

日本と比較して、社会全体での子育て支援が手厚いフランスの取り組みを、在仏ライターの髙崎順子氏が紹介。

フランスの実情に加えて、日本社会が抱える問題点や、日本での新たな取り組みも紹介し、「子育て安心社会のレシピ(=秘訣)」として解説します。

不安を感じることが少ない、フランスの子育て生活

不安を感じることが少ない、フランスの子育て生活。日本との大きな違いは?(写真:アフロ)

読者の皆さん、こんにちは。フランス在住ライターの髙崎順子と申します。25歳でフランスに移住して、かれこれ22年。その間に結婚、妊娠、出産を経て、現在はサラリーマンの夫と共働きしつつ、12歳と​9歳の二人の息子を育てています。

子育てを通して見えたフランスの良いところや、日本で参考になりそうな点を文章で伝えるのが、私の仕事です。

「フランスで子育て」というと、みなさんはどんなイメージを抱くでしょう?

夜泣きをしないおしゃまな子どもたちとの、シックで穏やかな暮らしを思い描かれる方もいらっしゃるかもしれませんね。かくいう私も子育てが身近でなかった独身時代、そうしたきれいな想像をしていた時がありました。

が! 実際はもちろん、違います。

フランスで生まれる子どもたちも、盛大に夜泣きをします。寝かしつけやトイレトレーニングに時間がかかる子がいれば、癇癪を起こす子もいて、親たちが苛立つ場面は多々見られます。

子どもの誕生をきっかけに不安定になる夫婦関係、女性の産後うつ……育児をめぐる問題は、日本と同じ。フランスの親たちも惑い悩み、寝不足の頭と体で子どもたちを抱きしめながら、慌ただしい日々を暮らしてしているのです。

ですがフランスの子育て生活には、日本と大きく異なる面があるとも私は感じています。

それは親として、子育てに不安を抱く場面が少ないこと。日本で”罰”や”無理ゲー”と呼ばれてしまうような「子を持つことの困難」が、フランスでは国や市町村や雇用先、周囲の人々によってカバーされているのです。

しかもそれは思いやりや優しさといった個人レベルの行動だけではなく、公的な制度やシステムとして整えられています

親と子どもの困りごとができるだけ少なくあるよう、より安心して子育てができるよう、たくさんの工夫がされているフランス。そのなかでも日本にとって参考になる、子育ての無理ゲー度を下げられるポイントが3つあると、私は思っています。

これから全3回の連載で、その3つのポイントをご紹介していきましょう。

まず一つ目は、「子育てに関わる大人の数が多いこと」です。

連載
フランスに学ぶ、子育て安心社会のレシピ

#1・社会の意識
担任が生徒と給食を食べないフランス「子どもに関わる大人を増やす」極意
↑今回はココ

#2・親支援の制度
育児時間が社会に制限される日本…親の「子育てタイム」確保に必要な事
2022年1月9日公開

#3・女性の健康と権利
子育ては大変だから支援【妊娠・出産の費用をゼロ】にしたフランス

2022年1月11日公開

担任は生徒と給食を食べない

分かりやすい例として挙げたいのは、3歳から5歳の子どもが通う義務教育施設「保育学校」です。これは日本の幼稚園に相当する場所で、フランスの子どもたちは平日ここに通学し、週24時間の授業を受けます。

1クラスの平均生徒数は24人、都市部では30人と多めですが、この人数を見る大人は、国家資格を持つ担任の先生1人だけではありません。加えて各クラスに1人ずつ、市町村が雇用する専任の学級補助員が配置され、授業の補佐やトイレの指導など、生活面のフォローも行います。

また担任の先生は、生徒と一緒に給食を摂りません。昼食タイムは、先生たちにとっても貴重な休憩時間だから。

生徒の食事の世話は、学童保育チームが担うことになっています。こちらも市町村の職員で、配置基準は指導員一人につき子ども8名まで。この給食監督と同じチームが、16時〜16時半頃に学校の授業が終わった後の放課後学童も担います。

給食と放課後学童に、希望者全員分の受け入れ体制を整えるのは、自治体の義務です。

全ての子どもが学童保育付きの公立学校に通える環境

小学校では学級補助員はつきませんが、希望者全入の学童保育が自治体によって設けられていること、その学童保育チームが昼食と放課後の生徒たちを監督する原則は同じです。

またフランスの学校は2ヵ月に1回、2週間の季節休みがあり、この休みの間も市町村の学童保育チームによる終日保育が実施されています。

フランスではすべての家庭が、3歳以上の子どもを、夕方までの学童保育付きの公立学校に通わせることができる。そしてその運営に十分なだけの大人が、国の制度として配置されているのです。

子育ては大変、親だけではできない

子育てはアクシデントや悩みの連続。親だけで解決することは困難だ(写真:アフロ)

このように自治体が人手を割き、学級補助員や希望者全入の学童保育を整える背景には、フランス社会に通底する2つの考え方があります。

1つ目は「子育ては大変」、もう1つは「大変な子育ては親だけではできず、社会が助けるべき」ということです。

この2つの考え方に基づく配慮は、親だけではなく、子どもと関わる職種の人たちにも向けられます。

たとえば保育士の働き方はIT化が進み、オムツ換え台や食事の段取りで、肉体的な負担を減らすよう考慮されています。毎日記録する連絡帳はなく、保護者との連絡は口頭が基本で、スマホの専用アプリを使う園も増えています。

また保育施設や学校には、自治体から心理カウンセラーが定期的に派遣され、子どもとの関わり方やストレスコントロールについて、助言を受けられるところもあるそうです。

フランス政府が子育て支援に充てる公的資金

これだけの人数の大人を子どもの周りに配置し、その大人たちの働き方にも配慮するには、当然お金がかかります。

フランス政府が子育て支援に充てる公的資金の規模は、対GDP比の3.6%(2017年)。

これは並みいる先進国でもトップクラスの数字です。そして教育と青年育成を担う教育省の予算はフランス国家全体の9%と、国防や保健、労働などの他省庁より多く分配されています。(出典:budget.gouv.fr)

このフランスの制度のもとで子育てをしながら、私はいつも「一人ではない」と感じてきました。

私と一緒に子育てをしてくれる、我が子の生活に関わってくれている大人の顔が、いくつも思い浮かぶ。困ったときに相談できる人がいる。それは言葉で表す以上の安心を、もたらしてくれたように思います。

日本にも、明るい変化が起こっている

一方の日本では、子育て支援の公的資金規模はフランスの約半分(対GDP比1.8%)。

教育を担う文科省への支出は国家歳出全体の5%(出典:国税庁)と、フランスに比べて潤沢ではない状況が、残念ながら数字に表れています。

保育士や教師の過重労働、学童保育の指導員不足は、数年来の社会問題でありながら、なかなか改善が進んでいません。保育枠の不足から家庭内でのワンオペ育児を余儀なくされ、「子育て」を「孤育て」とする、悲しい当て字も目にします。

ですが今の日本には、これから先の子育て環境に希望を抱けるニュースや出来事も、見え始めています。

たとえば今年2021年に就任した岸田首相は総裁選に際し、子育て関連予算の倍増を掲げました。子育て当事者である野田聖子氏を大臣に起用し、子どもを軸に各種政策を実行する「こども庁」(※)創設の議論を進めています。野党側も子育て支援を重要公約として掲げ、政府への提言を積極的に行なっています。

(※編集部注:日本政府は、2021年12月21日に「こども庁」の、2023年度創設を閣議決定。2023年度早期の設置に向け、2022年の通常国会に関連法案を提出する。また政府は、組織の名称を「こども庁」から「こども家庭庁」に改める方針だが、本稿では「こども庁」と表記する。)

また社会全体を見れば、学校や保育園、幼稚園とは別の形で、子育て支援の選択肢が徐々に増えています。自治体が管轄し地域の住人が援助を提供する「ファミリーサポートセンター」の制度や、大学生によるシッターサービスなどは、読者の方もご存知ではないでしょうか。

子育てに関わる人が多くなるほど、社会は子どもに優しい場所になる

日本政府は増額する予算で、どんな子育て支援策を拡充していくのでしょう。私は是非それを、子どもたちの生活を支える人々のために、その人々の数を増やすために使ってほしい。

子育てに関わる人が多くなるほど、社会は子どもに優しい場所になるからーーフランス生活で得たその実感を、ぜひ日本でも、多くの人に感じてほしいと願っています。

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連載:フランスに学ぶ、子育て安心社会のレシピ
#1・社会の意識
担任が生徒と給食を食べないフランス「子どもに関わる大人を増やす」極意
↑今回はココ

#2・親支援の制度
育児時間が社会に制限される日本…親の「子育てタイム」確保に必要な事
2022年1月9日公開

#3・女性の健康と権利
子育ては大変だから支援【妊娠・出産の費用をゼロ】にしたフランス
2022年1月11日公開

たかさき じゅんこ

髙崎 順子

Junko Takasaki
ライター

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文...

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