2020.12.17

子どもと親を育てる「本のある暮らし」 世代で変化する父親たちの意識

寄稿家:治部れんげ

ジャーナリストの治部れんげ氏はビジネス、政治、教育や家庭におけるジェンダーとダイバーシティなどを取材してきた。仕事先で出会う男性たちの「子育て」の意識には確かな変化があるという。本とのふれあいを交えつつ記す、「育児のニューノーマル」とはーー。

クリスマスが近づくと思い出すのは、2008年の今ごろのことです。当時、経済雑誌の編集部で働いていた私は、物流業界に詳しい方にインタビューをしました。海外留学、取材経験もあるフリーの男性ジャーナリストで、丁寧に時間をかけた取材と独自性の高い著作を尊敬していました。

取材が終わった時「お子さんに」と手渡されたのは、意外なものでした。酒井駒子さんの絵本『よるくま』。小さなくまと一緒にお母さんを探しに出かける男の子のお話です。くまの子が目覚めたらお母さんがいなかったそうで、あちこち探し回ります。見つかった母ぐまは、魚取りの「仕事」に出かけていた、という設定で、さり気なく働く親の視点が入っています。

『よるくま』(著:酒井駒子 偕成社刊)

子ぐまと再会した母ぐまが「お前はあったかいねえ」「今日はこのまま、抱っこして帰ろう」というセリフは、当時、0歳児を育てていた私の心に真っすぐ響いてきました。

既に抱っこは無理な年齢になりましたが、子どもに対する親の気持ちが短く簡潔に書かれていて、何十回読み返しても、いいなあ、と思います。子どももこの絵本が大好きで、ページが破れるほど読みました。

この絵本をプレゼントしてくれた方にも、息子さんがいます。仕事で社会・経済の深刻な問題を扱う一方、親として子どもを見る暖かな目線を選書から感じました。

学齢期、子どもに勧められて読む本で世界が広がる

あれから12年が経ち、乳児だった息子は小学6年生に、その後、生まれた娘は小学3年生になりました。我が家では子どもが読む本のほとんどを父親が選んで買っています。子ども達それぞれの関心や心の発達を見ながら「次はこれ?」「これはどう?」と買い集めた本は千冊近くなりました。

19年の秋、小学校の保護者ランチ会が開かれました。平日昼間ですが、母親だけでなく数名の父親も参加しました。この席で、当時2年生だった娘が読んだら面白そうな本情報を聞いた夫が買ってきたのが、青い鳥文庫の『黒魔女さんが通る‼』(著:石崎洋司/絵:藤田香&亜沙美)です。小学5年生のオカルト好き少女の家に、突然、黒魔女が現れ、主人公に黒魔女トレーニングを施すお話です。

『黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻』(著:石崎洋司 絵:藤田香 講談社 青い鳥文庫刊)

人間界と魔界を往復する構成、個性豊かなクラスメートたちの世界観に魅せられ、今年始めの休校期間中に、娘は毎日1冊ペースで「黒魔女さん」を読み続け、シリーズ30冊以上を読破しました。「すごく面白いから、ママも読んでみて!」と強く勧められたのを機に読み始めたところ、大人の世界を批判的に見るギャグ、ユーモアと多様性受容の価値観に共感しました。

可愛いけれど大変、大変だけれど可愛い赤ちゃん時代が終わると、子どもとの日々は、違うステージに入ります。最近は、子どもに勧められて読む本や漫画から、異なる視点を知ることが多く、それは自分の人生を豊かにしていると思います。

データで見る父親の希望と現実のギャップ

私が現在住んでいる東京郊外では、もともと日中、親子の姿をよく見かけました。公園、道ばた、お店で、おとなしくベビーカーに座っている赤ちゃん、だだをこねて泣いている子、遊んでいる子に毎日出会います。

娘が3~5歳の頃、園にお迎えに行った後、スーパーで買い物をしていると、その日、習った歌を歌い始めることがありました。お店の人、通り過ぎる人が男女問わず笑顔が多く「上手ねえ」と声をかけてくれる、子育てしやすい環境です。

そんなのんびりした街ゆえか、最近、スーパーでも公園でも、子連れの父親を見かけることが増えています。彼らの多くは手慣れた様子で、小さな子をあやしながら買い物したり、楽しく会話をしながらお弁当を食べたり、遊具で遊ばせたりしています。その様子は実に自然で、もしかしたら、特別意識は持っていないかもしれません。

マクロな視点で男性の育児参加を見ると、当事者の希望と実態の間には大きなギャップがあります。

積水ハウスの調べによれば、男性の育休取得に賛成する人は84.8%(男性の回答。女性は82.4%)、取得したい男性は60.5%(配偶者に取得させたい女性は51.1%)に上ります。一方、実際に育休を取得した男性は12.8%に留まります。多くの男性は希望するような形で育児に関わることができていません。

調査を手掛けた積水ハウスは、2018年9月から3歳未満の子どもを持つ男性社員全員に1ヵ月以上の休暇を与える「男性育休完全取得」に取り組んでいます。2020年8月末時点で期限を迎えた男性社員670人全員が取得しました。きっかけは仲井嘉浩社長のスウェーデン出張で、公園でベビーカーを押すのが全て父親であることに驚いたことだと言います。

こうした経緯を踏まえ、スウェーデン大使館で19年に開催した男性育休推進のイベントで仲井社長から「社員の幸せのため」にこうした制度を作った、という話や、育休取得で子どもとの何気ない日常の大切さに気づいた、という男性社員の話を聞きました。ちなみにペールエリック・ヘーグベリ駐日スウェーデン大使自身も、育休取得経験があります。

写真:アフロ

世代で変わる、父親にとっての当たり前

私がイベントでモデレーターを務めて驚いたのは、男性の参加が多かったことです。話をしてみると、自分自身が育休取得を考えている・予定している30代の男性記者に複数出会いました。

彼らは40代半ばの私世代と比べると、ごく自然に「育児に関わりたい」「育休を取りたい」と話します。上司の理解や職場の雰囲気といったハードルはありますが、5年、10年単位で見ると意識は確実に変わってきています。

それを最も実感するのは、息子と話している時です。12歳になった息子は、赤ちゃんや小さい子がとても好きで、あやすのが上手いです。一緒に遊ぶ時は、転ばないようにさりげなく手を添えたり、目を見て話したりしています。

ある時、学校にクラスメートのお母さんが赤ちゃんを連れてやってきました。赤ちゃん好きの息子が喜んで近くに寄っていったところ、ひとりのお友達からこう言われたそうです。

「赤ちゃんのお世話は女の人がやるものだよ」

このジェンダーバイアス丸出しの発言に息子は答えました。

「それ、誰が決めたの?」

僕が言い返したら、その子は、黙って下向いてたよ。こうあっさり言って、全く気にしていない様子です。

きっと彼は、自分の父親や、徐々に増えてきている子育てにコミットする男性たちのように、将来、子どもを持ったなら、当たり前のこととして子育てに関わることでしょう。自分が読んでもらった『よるくま』や、今、読んでいる『三国志』(著:吉川英治)を子どもに読んであげる様子が目に浮かびますーー。

寄稿家紹介

治部れんげ じぶ れんげ

ジャーナリスト。 1997年一橋大学法学部卒、日経BP社にて経済誌記者を16年間務める。2006~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。ビジネス、政治、政策、教育、家庭におけるジェンダーとダイバーシティの課題についてウェブメディアに執筆。2018年一橋大学大学院経営学修士課程修了。現在、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員、東京大学大学院情報学環客員研究員。日本政府主催の国際女性会議WAW!アドバイザー、東京都女性活躍推進対象審査会委員、東京都豊島区男女共同参画審議会長など行政のジェンダー平等政策に関わる。朝日新聞論壇委員。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)など。