2021.07.23

日本人ママが驚いた! イギリスの小学校で「キャラ弁がNG」なワケ

世界de子育て日和 〜イギリス イースト・サセックス州編〜

寄稿家:江藤亜由美

聞けば聞くほど、びっくりな海外での「子育て」! ここではイギリスの南東部に位置するイースト・サセックス州での子育てをレポート。日本での“当たり前”が海外で通じないのは、よくある話。イギリスの常識を知ることで、日本の子育ての常識が見えてきますーー。



日本での結婚・出産を経てイギリスへ移住し、現在はドーバー海峡へと続く海沿いの町で2人の子どもを育てる美咲さん。中学生のオリバーくんと小学生のフレッドくんは、共に元気な食べ盛り。ですが2人ともなぜか学校給食がちょっと苦手です。その国の料理を楽しむことは、その国の文化を知るきっかけにもなります。ここではイギリスの食文化を通じて、日本の食べ盛りの子どもを育てるヒントについて考えていきましょう。
(記事中の人名は全て仮名です)

イギリスのランチボックスは「素朴」が決め手

イラスト:Ayumi Eto

「イギリス料理はおいしくない」と聞いたことありませんか? イギリス料理と聞いて真っ先に思い浮かぶ料理はなんでしょう? フィッシュ&チップスやイングリッシュ・ブレックファスト、ローストビーフなどなど、色々あるのではないでしょうか。

またブリティッシュパイなどのパイ系も種類が豊富です。これはスイーツのパイではなく、ひき肉などが詰まった伝統的な家庭料理のこと。ほかにもイギリスには、スコッチエッグ、サンデーロースト、ヨークシャー・プディングなど代表的な料理がたくさんあります。

これらの伝統料理を育んだイギリスには長い歴史があります。その間、ずっと国民に親しまれてきたのですから、「イギリス料理がおいしくないわけがない!」 それにも関わらず、インターネットで『イギリス料理』と検索すると、最初に出てくるキーワードは『まずい』です。これはいったいどういうことなのでしょうか。

「ヨーロッパでは古くから『The French live to eat whereas the British eat to live.(フランス人は食べるために生き、イギリス人は生きるために食べる)』と言われてきました。今でもイギリスにはこの感覚が残っているんですよ。そのため、『料理はお腹を満たせればいい』と考える人も実は結構多いんです」(美咲さん)

つまり食事は味わったり楽しむためというよりも、生きるために必要なもの、というわけです。この『生きるため』を『働くため』に置き換えて解釈する場合もあります。

現在では都市部を中心に、こういった食に対する考え方は大きく変わり、おいしいレストランもどんどん増えてきています。しかし地方の学校給食ともなると、まだまだ味気ない料理が出てくることも……。

「都心部や私立の学校では、もう少し手の込んだ給食が出てくるのかもしれませんね。ですが、うちの子たちが通う学校ではピザやソーセージ、チップスなど、わりと簡単な料理が多く、パスタもトマトソースをかけただけといったシンプルなもの。子どもたちには少し味気ないんですよ」(美咲さん)

ここで言うチップスとはイギリスではフレンチフライのことです。日本食に比べ、油っこい料理が多く、味付けも大雑把と言われるイギリスの学校給食……。イギリスに移住する前は日本で生活していた子どもたちの口には、ちょっと合いません。

「ですから、うちの子どもたちは断然ランチボックス(弁当)派。ところがイギリスの子どもたちが持ってくるランチボックスの中身が日本のものとはだいぶ違うんですよ。これはもうイギリスの国民性と言った方がいいかもしれませんね。とにかく息子たちから『マミー、凝ったメニューは絶対やめてね!』と強くリクエストされてしまいまして……」(美咲さん)

ちなみにキャラ弁(キャラクター弁当)などを作ったわけではなく、持たせたのはおにぎりや唐揚げなど、日本人ならごく普通の弁当メニューでした。しかしそれらがNG扱いに……。

「とにかくイギリスのランチボックスは素朴がベスト。いかに力を抜いて飾らないかがポイントなんですよ」(美咲さん)

周りのクラスメートたちも野菜やパンなどを特に味付けするでもなく、ただ火を通しただけ、切っただけの状態でランチボックスに詰め込んで持ってきます。食後のスイーツにリンゴやバナナなどのフルーツを丸ごと食べるのも、ごく当たり前の光景です。

「ですから、うちもきゅうりやプチトマト、チーズやサラミなどを特に調理もせず、ただ切っただけの状態でランチボックスに詰めています。もはや料理というよりは食材に近いですけど、他の子のランチボックスも同じような内容です。だからキャラ弁なんてとんでもないんですよ」(美咲さん)

日本で大人気のキャラ弁……。おいしいのはもちろんですが、その見た目からも作り手の愛情が伝わってきますし、ランチタイムのテンションも一気にアップします。いかにも万人ウケしそうなアイテムですが、悲しいかな、イギリスの子どもたちには通用しません。

「ためしにツナサンドを持たせたら、『そんな凝ったものは誰も持ってこないよ!』と息子たちにブーイングされました。ツナサンドですよ。全然凝った料理に入りませんよね」と、思わず苦笑いの美咲さん。

とにかくお腹を満たせればOK、見た目は全然気にしないイギリスのランチボックス事情……。お国変われば常識も変わるものですね。

こんなに大雑把で大丈夫? 日本➡︎イギリス 小学校の編入手続き

イラスト:Ayumi Eto

イギリス人の夫の仕事の関係でイギリスへの引っ越しを決意した美咲さんファミリー。移住する前は日本に住んでいました。

「パパがイギリス人ということもあり、普段わたしたち一家はイギリス英語と日本語で生活しています。ですから言葉に関しての心配は特にありませんでしたね。ただ現地での転校先がなかなか見つからなくて……。あれには本当にヒヤヒヤでしたよ」(美咲さん)

ここイースト・サセックス州の小学校は1クラス30名までと定員数が決まっています。ですから日本の学校のように転校生が来たからと学校側の都合でクラスの生徒数を31名に増やすことはできません。そのためクラスに空きが出るまでは、転校先が決まらないといったケースが生じてしまうことも……。

「イギリスの学校は9月1日からスタートするので、引っ越しは8月中の予定で準備を進めていました。当時、オリバーは小学生でフレッドはまだ保育園児でした。そこで、まずはオリバーの転校先を確保しようと年明け早々から申請を始めたんですよ」(美咲さん)

ところが現地での空きが全くないまま、日本ではゴールデンウィークを迎える時期に……。さすがに焦りを感じた美咲さんはインターネットやスカイプを使って、連日のように現地の市役所や学校に問い合わせ、空きが出ていないか聞いて回りました。

「現地の学校や市役所の業務が終わる頃を見計らって連絡していたので、日本は夜中の1時頃。家族みんなが寝静まった後に眠い目をこすりながら、毎晩あちこち連絡して回ったのを覚えていますね。その甲斐あって、やっと小学校が見つかったときには本当にホッとしましたよ」(美咲さん)

ハンガリーに帰国する生徒が1人いる、との情報を小学校からキャッチした美咲さん。「そのまま、その空きをキープしといてください!」と言い残し、すぐさま現地の市役所へ編入手続きの連絡を入れます。

「その情報が手に入ったのは、なんと現地の小学校の夏休み前日。イギリスでは長期休暇に入ると、先生たちの当直などありませんから、学校からは誰もいなくなります。ですから先生たちがいるうちに、とにかく日本から入学希望者がいることだけでも伝えなければと焦りました。あれは本当にギリギリセーフでしたね」(美咲さん)

どうにかオリバーくんの転校先を確保し、ホッとしたのも束の間、肝心の情報が学校側から一向に送られてきません。転校の際に必要な書類やスクールユニフォーム(制服)、授業スケジュールや持って行くもの、教科書やランチに関する情報など、どうすればいいのか、さっぱりわかりません。

「そりゃ、そうですよね。だって翌日から夏休みに入ってしまい、現地の小学校内には誰もいないんですから。結局、学校側から何の連絡もこないまま、とりあえずイギリスへ移住し、引っ越し先の近所の住人にスクールユニフォームの種類と売っている店を教えてもらいました」(美咲さん)

登校初日を迎えても学校側からはなんの連絡もなく、仕方がないので自分たちで登校時間を確認し、息子を連れて小学校へ。おそるおそる校門をくぐり、事情を説明したところ、名簿を手にしていた先生がようやく「あら! いらっしゃ~い!」と笑顔で出迎えてくれました。

「本当にうちの子は編入できるのかな、と登校初日までドキドキでしたけど、今となっては笑い話ですね」(美咲さん)

日本の場合、夏休みとはいえ校内の動植物の世話などもありますし、毎日でなくとも当直の先生がいます。ですから長期の休み中でも学校側とコンタクトを取ることはどうにかできますが、海外では事情が違います。

異国の地で、まさに手探り状態だったオリバーくんの初登校……。美咲さん一家がイギリス英語を話せたからよかったものの、言語が苦手な家族の場合、ちょっとパニックになりそうなシチュエーションですね。

小学5年生まで保護者の送迎は当たり前 送迎専用のシッターも!

イラスト:Ayumi Eto

さて、どうにか無事に登校初日を迎えたオリバーくん。当時、彼が通っていた小学校を含め、イギリスの小学生たちはそれぞれ学校指定のスクールユニフォームを着ています。

「学校にもよりけりですが、うちの子どもたちのスクールユニフォームは学校指定のトレーナーやフリースです。下は長ズボンや短パン、女子の場合だと、さらにワンピースやスカートなどのチョイスもありますよ」(美咲さん)

こういった素材のスクールユニフォームは家庭でも洗濯でき、とても便利です。またスーパーでお手頃価格で売られているので、破れたり汚れたりしたら、すぐに買い換えることができます。近所には複数の小学校があり、各学校でスクールユニフォームを色分けしているので、一目でどこの学校の生徒か、見分けがつくようになっています。

さて、イギリスでは小学5年生ぐらいまでの児童の登下校時には、必ず保護者が同行しなければならないルールがあります。(州によって、生徒ひとりでの登下校を禁じている年齢は違います)。さらに先生たちはこの保護者が、学校側に登録済みの人物なのか、きちんと確認しないと生徒を引き渡してくれません。

とはいえ登録されている保護者が送り迎えできないことだってありますよね。そんなときには別の人が代理で迎えに行くことを、あらかじめ学校側に伝えておけばOK。これを伝え忘れると、やはり学校側から引き渡しの許可が降りません。

「この登下校時の保護者同伴に関して、イギリスはかなり徹底していて最初は驚きました。小さな子どもがひとりで登下校している姿は、まず見たことがありませんし、こういった事情からイギリスの小学生にはカギっ子が少ないと聞きますね」(美咲さん)

もちろん場合によっては送り迎えを頼める人が見つからないなんてことも……。

「そういうときは送迎専門のシッターに頼むといった便利な手もありますよ」(美咲さん)

こういった理由からイギリスでは子どもが小さいうちは、特に母親がフルタイムで5日間働くのは厳しいという現実があります。それでも働きたい場合は夫婦でなにかしらの時間のやりくりをしている家庭がほとんどです。

「たとえば月~水曜日まではパパが働き、木曜と金曜はママが働くとか。または朝はパパが子どもを学校まで連れて行き、帰りはママと一緒に帰るといったケースもよく見かけますね。祖父母が送迎を手伝っている家庭も多いですよ。とにかく家族同士がうまく連携を取り合っていますね」(美咲さん)

さらにイギリスにはジョブシェアというシステムがあり、ひとつの仕事を2人でシェアする仕組みが整っています。政府の後押しもあり、昨今では多くの企業がこのシステムを導入しています。

ペアとなった2人は、各自それぞれが自分の作業内容だけに責任を持つというよりは、2人で1つの成果に対する責任を負います。そのため同僚同士で、ときには臨機応変に協力し合いながら、互いに育児と仕事の両立を図ることができます。

美咲さんの子どもたちが通う学校でも、このジョブシェアのシステムを導入しており、先生たちがそれぞれの事情に合わせてペアを組んでいます。

たとえば小学生のフレッドくんのクラスでは、2名の担任教師たちが1つのクラスを曜日ごとに分担して受け持っています。

もちろん日本と同じく1クラスに担任教師ひとりの場合もあります。とはいえ小学校低学年をひとりで受け持つとなると、やはり色々と大変です。特に登下校時は大勢の保護者もいて大変混雑します。

そこで、この学校では低学年に限り、各クラスにひとりずつティーチング・アシスタント(副担任教師)を配属し、受け持ちの先生をサポートする体制を取っています。

このように学校や家族総出で子どもの登下校時をサポートするイギリスですが、この手厚い送迎もだいたい小学5年生まで……。中学校では一転、こういった送迎はしなくてもよくなります。

そうは言っても子どもたちにしてみれば、今まで何年も普通に行われていた送迎が一気になくなるのですから、環境の変化に備えた準備期間が必要になります。それが小学6年生からの、子ども同士の登下校です。

「こちらでは小学生同士で登下校している子どもたちを見かけたら、『ああ、小学6年生の生徒たちなんだな』とすぐに分かります。中学からは親などによる送迎がなくなるため、その前の1年間は自分たちだけで登下校の練習中というわけです」(美咲さん)

1年生のうちから子ども同士で学校へ通うことに慣れている日本の小学生たちとは、だいぶ様子が違いますね。

さて文化や国民性の違うイギリスでの子育て、いかがだったでしょうか。お弁当は簡素、登下校は同伴が原則。力を抜く部分、手厚い部分の割り切りがスゴいですね。

そして教師も保護者もジョブシェア。日本でも働くママが年々増加している反面、都心部などでは託児サービスが足りないといった問題も浮き彫りとなっています。

そんな中、今回のジョブシェアのようにヨーロッパで見られる社会全体が子育てに協力するシステムは、時代に合った合理的な雇用施策と言えます。今後、日本でもこのような柔軟な働き方が普及すれば、働くママを取り巻く環境も大きく改善されていくのではないでしょうか。

寄稿家紹介

江藤亜由美 えとうあゆみ

愛知県生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーター、エッセイスト。アメリカ、カリフォルニア州にあるアカデミー・オブ・アート・ユニバーシティのグラフィックデザイン科を卒業後、シリコンバレーにて就職。約8年半のアメリカ生活後、日本へ帰国。広告、雑誌、書籍などのデザイン業や編集業務およびイラストレーターを経て、現在に至る。近著『母乳を捨てるフランス人 ヘソの緒に無関心なアメリカ人』(雷鳥社)は世界10ヵ国、総勢16名の日本人女性に取材した1冊。日本人目線による、目からウロコの“ココが変だよ! 世界の海外出産話”がてんこ盛り。トイプードルの「もふ」をこよなく愛する。東京都在住。
Twitter
主な著作
『母乳を捨てるフランス人 ヘソの緒に無関心なアメリカ人』
『波乱爆笑 留学&就職物語―そんなこんなで仕事してました イン サンフランシスコ』
『CRAZY HALLOWEEN NIGHT in SAN FRANCISCO』(七草一月 名義)