「手を洗う習慣づけは、どのようにしたらよいでしょうか?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第18回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

子育て中は、日々、悩みや困りごとがありますね。そこで、「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いしました。ちょっとした工夫で、子どもたちに大きな変化が起こるモンテッソーリの考え方は、目からうろこが落ちることがいっぱいです。子育て中の人、必読です!

※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。

(イメージ写真/photoAC)
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手を洗う習慣づけは、どのようにしたらよいでしょうか?

​3歳の女の子です。トイレのあとや、外から帰ってきた時に、手を洗うのを忘れ、ぬれた手を拭くのも忘れがちです。言えばやるのですが、洗っているうちに、水や洗面台についている鏡で遊んでしまいます。
毎日、何度も言い続けているのに疲れてしまいました。手を見ても明らかに汚れているわけではないので洗わなきゃ、と思えないのでしょう。つらいけれど習慣としてやらなければいけないことに興味を持ち、自主的にしてもらうにはどうしたら良いでしょうか。

手を洗うべき場面というのは、一日のうちに何回もありますから、そのたびに同じ言葉を繰り返すのは、本当にお疲れだと思います。それでも、言えばやるならまだいい方です。なかには断固拒否する、親が無理やり洗ってしまう、毎回バトルになる、というご家庭もあります。

一方で、子どもは水が大好きです。いつまで経っても、水に触っているという子どもも多く、手を洗うのをやめさせるのにひと苦労というお悩みもよくいただきます。今回のご質問にも水で遊んでしまうとありましたね。

モンテッソーリが1907年に、最初の子どもの家をローマで開いたときにも、次のように書いています。

子どもたちは清潔であることに強い関心を示しました。彼らは手の洗い方を私たちから習いましたが、それからはどこであれ、それができないかを探すようになりました。この手を洗うことへの執着は驚くべきことでした。」(『子どもから始まる新しい教育 モンテッソーリ・メソッド確立の原点』マリア・モンテッソーリ著 風鳴舎)

このあと、洗濯に使っていた当時は貴重な石鹸を、子どもたちがみんな手を洗うのに使ってしまった様子なども描写しています。

手を洗う理由を伝える

このモンテッソーリの言葉の中に、問題を解決するヒントが隠されています。モンテッソーリは子どもたちに手の洗い方を教えたと述べていますが、それがすなわち「提示」です。

子どもに手の洗い方を念入りに教えたことなどない、という方がほとんどだと思います。大人の感覚からすると、そこまで難しいことではないと思っているからでしょう。でも、運動を分析してみますと、蛇口をひねる、手をぬらす、石鹸をつける、手をこする、すすぐ、拭くなど、実に多くの動きがあります。こうしたやり方を、子どもたちはきちんと学びたいと思っています。

質問者さんは、「手を見ても明らかに汚れているわけではないので洗わなきゃ、と思えないのでしょう」と、お子さんが手を洗わない原因について推測していらっしゃいますが、それは大人が手を洗う動機です。大人はトイレのあとや外から帰ってきた時には、目には見えないけれど細菌やウイルスがついているから、手が汚いと判断し、病気にならないために洗おうとします。 

子どもも、4、5歳くらいからは、論理的な思考が育ってきて、一定の因果関係を理解できるようになります。清潔にしておくことの必要性を伝えるために、ばい菌のお話をしたり、絵や写真を見せたりすることが、手を洗う動機付けに全くならないというわけではありません。私が監修した本『こどもせいかつ百科』は入学準備という位置づけもありましたので、インフルエンザウイルスの写真やそのイメージをイラスト化したものをのせています。

手洗いもお仕事になる

でも、モンテッソーリが目撃した子どもたちが手を洗う動機は、全く別のところにありました。子どもたちは手を洗うという活動を繰り返し行いました。つまり「汚れているから洗った」のではなかったのです。

モンテッソーリはこのように記載しています。

<このような子どもの活動への欲求が理解されないと、どんな母親でもこう言うでしょう。「さあ、もうきれいになったから、止めようね。」と。
 しかし、私たちの学校では、子どもたちが満足するまで、活動を続けることができたのです。>
(『子どもから始まる新しい教育 モンテッソーリ・メソッド確立の原点』マリア・モンテッソーリ著 風鳴舎)

子どもは手を洗ってきれいにするという大人の目的を達成するためではなく、自分自身の内面の発達のために、活動を繰り返すということを、モンテッソーリは発見したのです。ここが一般の考え方とモンテッソーリの考え方の大きな違いです。

手を洗うことは、一般的には質問者さんがおっしゃるように「つらいけれど習慣としてやらなければいけないこと」かもしれませんが、モンテッソーリ教育では、子どもたちが興味を持って自主的に、喜びに満ちあふれてする「お仕事」なのです。

子どもが自主的に取り組む環境づくり

もちろん、放っておけば勝手に手洗いをするようになるわけではありません。適切な時期に、モンテッソーリが提示をしたように、適切なやり方で伝える必要があります。提示についてはあとで述べますが、その前に大切なことがあります。「環境」です。
 
モンテッソーリは、同じ著書の中で、環境の重要性も述べています。魅力的な美しい小物が子どもの目に語りかけ、使うように誘いかけることについて、こんなふうに小物の声を代弁しています。

「ねえ、そのステキな手の人、ここに来て! 水に手を入れてから石鹸をつかんでみない?」

子どもが触りたくなるような環境を準備するだけで、教師が「手を洗いなさい」と言う必要がなくなるというのです。これがまさに、子どもが興味を持って自主的に取り組むようになるポイントです。

モンテッソーリ園では、簡単にはひっくり返らないような特別な洗面台に洗面器をはめこんだり、陶器の洗面器を使ったりします。また、一般の幼稚園でも子どもの背丈に合わせた洗面台が準備されていると思います。

もちろん、ご家庭にはこうした洗面所はなく、すべてが大人仕様になっていますね。高さもそうですし、蛇口もひねりにくいかもしれません。衛生面にも不安がありますので、ついつい大人が抱きかかえて、無理やり洗ってしまいます。これが、子どもが手洗いを拒否するようになる原因のひとつです。

踏み台くらいは準備している、という方も多いでしょうが、細かな配慮が必要です。安定していて滑りにくいものであることはもちろんですが、子どもが一人で持ち運べるものであることが重要です。

いつも洗面台の前にあると大人が使うときに邪魔ですから、普段は邪魔にならない場所に置いておき、使うときに子どもが持ち運んでくるようにします。それが手を洗う際のルーティンの始まりにもなり、手を洗うことを習慣づけるきっかけにもなります。
大人はいちいち持ってくるのは面倒だと思いますが、子どもは違います。手や体を使うことをいとわないのです。


3歳でしたら、置く場所にテープで印をつけておくと、いつも同じという知性の働きによって、好んでぴったり置くようになります。また、静かに音がしないように置くという提示も最初に見せておけば、忠実に真似をしたい時期ですから、乱暴に置くことがなくなります。もちろん使い終わったら、元に戻すことも提示しておきましょう。戻す場所にも同じ印を貼っておくといいですね。

踏み台と、置く位置の印の例

蛇口のタイプひとつで、準備が変わる

洗面台の蛇口はひねるタイプ、レバーのタイプなどいろいろありますので、子どもが扱えるか一概には言えません。

ひねるタイプならば、ふたを開ける、ネジを開ける、といったお仕事を準備して事前に練習しておくと、だんだんと開けることができるようになります。

レバーのタイプについては、私の勉強会の会員の方からこんなお写真を送っていただきました。

レバーをひとりでひねるための補助棒

レバーの部分が細くて、子どもが動かせなかったので、割りばしで補助を付けてあげたところ、簡単に自分で開閉できるようになったそうです。

また、蛇口から出す水の量を調整することは、大人が思う以上に難しく、どうしても最初は飛び散るほどジャージャー出してしまったり、少なくしようとすると止めてしまったりするものです。これも経験ですから、しばらくは見守ってあげたほうがいいのですが、いつまでも改善されない場合にはこんな方法もあります。

水道に貼ってあった絵を再現したもの

これは、あるモンテッソーリ園で、水道のところに貼ってあった絵を再現したものです。
子どもたちはみんな、「ちょろちょろ、出せるよ!」と適量を出すのがとても上手でした。
絵を描くのが難しければ、実際に勢いよく出して「これは、じゃあじゃあ」、適量を出して「これはちょろちょろ」といった具合に、提示をしてあげるといいでしょう。

石鹸の工夫

今はポンプ式の石鹸も多いですが、子どもには、うまく押すのが難しいようです。

モンテッソーリ教育では、普通の石鹸を半分に切ったサイズの固形石鹸をよく使います。子どもが一人でつかみ、つけるという作業を楽しみ、戻すことがたやすいからです。

また、石鹸が石鹸置きにくっついて取れにくかったという会員の方からは、こんなお写真を送っていただきました。

石鹸を取りやすくする工夫

輪ゴムをかけておくと、石鹸がくっつかず、子どもがとても取りやすく、そっとバランスを取ってのせることが面白かったそうです。泡の色が変化する石鹸や、紙石鹸なども、子どもが喜んで洗いたくなるといった報告もありました。

タオルに意識を向かせる

質問者さんのお子さんは、手を拭くことも忘れる、ということですが、お子さん専用の可愛いタオルを手の届くところに掛けておくといいでしょう。

モンテッソーリ教育では、タオルを掛けるのも、汚れたら交換するのも、子ども自身がします。第13回のトイレトレーニングの記事で、汚れたパンツを入れるバケツと、きれいなパンツを入れるカゴを準備しておくと書きましたが、タオルも同じように準備しましょう。

3歳ならば、大人と同じ洗濯かごに入れることにしてもかまいませんし、引き出しを開けられるなら、小さな引き出しに入れ、絵や写真で表示しておいてもかまいません。いつのまにか新しいタオルがぶら下がっているのではなく、子どものタオルは子ども自身に責任を持たせ、子どもが一人でできるような配慮をしておくと、タオルに意識が向くようになります。

こういったことが「一人でできるように手伝う」素敵な工夫です。

私のタオルは私がかける 1歳9ヵ月

手の洗い方

環境が整ったら、手を洗う提示をしましょう。あくまでもご家庭の洗面台向けのやり方です。(踏み台を持ってくるまでと、必要に応じて袖をまくる場面は省略します。)

 蛇口を開けて、少し水を出す。(事前に「ちょろちょろ」の提示をしておけば、うまくいきます。)

 両手を水の下に出して、手の平、手の甲と返してぬらす。
 (くるっと返すと、興味を持ちます。)

 一度、水を止める。
 (出しっぱなしにしないことがポイントです。水はとても大切なもの、という提示です。)

 石鹸を取り、手の平にこすりつけ、元の場所に戻す。

 手をこすって泡立て、「泡が出たね」と泡に注目させる。
 (厚生労働省の「正しい手の洗い方」のイラストなどを参考にしながら、手の甲、指の間などもしっかり洗うところを見せます。「手の平」「手の甲」「親指」といった名称も一緒に伝えると言語の敏感期には興味を持ちます)

 蛇口を開けて、少し水を出す。

 両手を水の下に出して、こすりながら、泡がなくなるまでよくすすぐ。

 蛇口が泡で汚れていたら、最後に水をかけてから止める。

 両手を合わせて指をまっすぐに伸ばし、下に向けて、水滴を指先から落としていき、落ちなくなるまでじっと待つ。
 (ここが子どもにとって興味を惹きつけるポイントです)

指先からしずくが落ちるのを見せる提示例

10 タオルを取って、両手ではさみ、手の平、手の甲の順で拭く。
  (さらに指を1本ずつ拭くところを見せてあげても面白いのですが、長くなり過ぎないように注意しましょう)

11 タオルを掛ける。汚れていたら、交換してから掛ける。
  (汚れたものを入れる場所、新しいものが入っている場所を教えてあげましょう)

水や洗面台で遊んでしまうのは、こうした一連の手順が理解できていないということがひとつの原因ですから、しっかりと提示しておくことで、洗うことそのものに興味を持たせることができます。
それでも遊んでしまうという場合には、水を使うお仕事をさせてあげると、心が満足します。

水を使うお仕事例 スポンジ絞り 3歳3ヵ月

環境を整えたり、提示をしたりといったことは、とても面倒に思えるかもしれませんが、子どもの人格と知性の発達という大切なことにつながっています。
また、最終的には子どもが自主的に動くようになりますから、お母様も楽になり、きっと幸せな毎日が過ごせるようになると思います。

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たなか まさこ

田中 昌子

Masako Tanaka
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。  

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。