動かない鳥として有名なハシビロコウの驚きのひみつとは? 日本全国の12羽をご紹介!

クイズや動画、コラムで『鳥 新訂版』の表紙を飾るハシビロコウづくしのスペシャルページ!

MOVE編集部

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累計570万部突破! 子どもに大人気の「講談社の動く図鑑MOVE」から、2023年11月28日に『鳥 新訂版』が発売。2011年以来の大幅リニューアルで、新しい写真やイラスト、最新研究、深掘りコラムで知的好奇心をさらに刺激します。監修の川上和人先生(鳥類学者)のミニ講義動画も同時に楽しめ、鳥の知識をグッと深めることができます。

表紙を飾るのは動かない鳥として有名な「ハシビロコウ」。MOVEの公式サイトでは、動物園の人気者ハシビロコウをさらに深掘り! 専門家による生態コラムや、ハシビロコウクイズ、実は「動きまくる」という姿を集めた動画、図書カードが当たる「ハシビロコウSTOPチャレンジキャンペーン」など、あらゆる角度からハシビロコウの魅力をお伝えします。

※ MOVE『鳥 新訂版』では野生のハシビロコウを掲載しており、動物園のハシビロコウは掲載しておりません。

ハシビロコウってどんな鳥? 動かないのにはわけがある

教えてくれたのは……

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。
ハシビロコウは、どこにすんでいる鳥か知っていますか?  じつはアフリカの鳥なんです。アフリカ大陸の中東部には大地溝帯と呼ばれる低地があり、そこに点々と広がる湿地がハシビロコウのふるさとです。背の高さが約120cmもある大きな鳥で、長い脚と名前の由来となった幅広い大きなくちばしが目を引きます。また、くちばしの形がクジラに似ているという発想で「クジラ頭の王様」という意味の学名がつけられています。
千葉市動物公園 じっと
とても独特な姿なので、長い間、どのなかまに属するのか研究者を悩ませた鳥です。かつてはコウノトリ目とされていましたが、現在は遺伝子の分析によってペリカンと共通の祖先から分化したことがわかり、ペリカン目の鳥とされています。とにかく、同じなかまが世界でもハシビロコウのただ1種しかいない、とても珍しい鳥なんです。

ハシビロコウといえば動かない鳥。ある研究結果では、日中の活動時間の約60%がじっと動かずに立っていたというくらい動きません。石のように動かないのに活動時間というのは、なんだか変な感じです。でも、これは怠けているわけではなく、ちゃんとした目的があって動かないので、堂々と活動時間と呼んでいいのです。

では、どうしてハシビロコウは動かないのでしょうか? それは、ある獲物を捕らえるためにはどうしても必要なやり方だからです。
ハシビロコウの獲物は魚です。しかもハイギョという特定の魚がターゲット。ナマズやテラピアなどの他の魚も食べますが、とくにハイギョがいいみたいです。ウガンダの湿地では、獲物の60%がハイギョだったという研究があります。
アフリカハイギョのなかま ©PIXTA
さてこのハイギョは、漢字では肺魚と書きます。ほとんどの魚は、エラから酸素を体に取りこむエラ呼吸をします。ところがハイギョは文字どおり、体に肺があり、エラ呼吸ではなく肺呼吸をする変な魚なんです。どうしてそんなことをするのか。それは、この魚が棲んでいる沼や湿地の水には、酸素があまり溶け込んでいないから。

また、乾季に水がなくなっても生きていけるように、肺で呼吸ができる体に進化したのです。とうぜん、肺呼吸ですから、ときどき水面に浮いてきて空気を吸います。人間の水泳でいう息継ぎですね。

じつは、これがハシビロコウの狙い。ハイギョが息を吸いに水面に近づいた瞬間に、体全体で飛び込むようにして捕らえるのです。
ハイギョを捕らえるハシビロコウ ©️aflo
ハイギョが息継ぎをする瞬間は、そうしょっちゅうありません。また、ハイギョも水面近くは危険だと知っているので警戒心はマックスです。その瞬間を狙うのですから、微動だにしないで忍耐強く待ち続け、数少ないチャンスをものにします。これが長時間、動かない理由なのです。もし、落ち着きなく動いていたら、ハイギョが近くに来ることはまずないでしょう。

トレードマークである巨大なくちばしも、じつはハイギョを確実にとらえるための重要なアイテムです。とにかくハイギョは40cmくらいある大きな魚。しかもヌメヌメして滑りやすい体をしています。それを一発でしとめるためには、くちばしでバクッとくらいつき、暴れる魚をしっかりと挟めなければなりません。それには、パワーが出る幅広の丈夫なくちばしが必要なのです。また、くちばしの先が曲がってフックになっているのも、滑りやすいハイギョをひっかけて捕るための形状です。
くちばしの先がフックになっている
もうひとつ、ハシビロコウがハイギョを捕まえるための重要な体の秘密があります。それは脚の指です。大きなくちばしに注目が集まりがちで、脚の指まで見る人はなかなかいませんが、びっくりするくらい長いんです。なにしろ一番長い指は、巨大なくちばしと同じくらいの約18cmもあります。
指が長いハシビロコウの脚
では、どうして脚の指が、ハイギョを捕ることと関係しているのでしょうか。それはハイギョがいる場所に理由があります。この魚がいる場所は、草がたくさん倒れて浮いているような湿地です。それを踏みしめて体を安定させるには、長い指でないとダメなのです。もし指が短ければ、草のあいだに刺さってしまい、うまく立つことができないでしょう。4本の長い指をしっかりと開くことで体重を分散させ、不安定な草の上でも立っていられるわけです。雪の上を歩くときのスノーシューと同じ原理ですね。

ハシビロコウは、ハイギョという特殊な獲物を捕らえて生きる道を選んだ鳥です。大きくて食べ応えがある魅力的な魚ですが、それほど数は多くありませんし、捕らえるチャンスも一瞬しかありません。ハシビロコウは徹底して動かないという戦略で忍耐強く待ち続け、巨大なくちばしでチャンスを確実にものにする。そんなすごい鳥なのです。

でも、こんな獲物を捕らえる暮らしは、たくさんの鳥がいては成り立ちません。ですから、ハシビロコウは広大な縄張りをもち、夫婦でさえも並んで獲物を捕ることはまずないのです。このことから、ハシビロコウがどうしても数が多い鳥にはなれないため、開発や密猟があると数を減らしてしまいます。

この世界で1種しかいないユニークな鳥がずっと暮らしていけるためにも、世界中の人々が協力して守っていく必要があるのです。
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