驚きの研究!絶滅した生きものが何を食べていたかどうやってわかるの?

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

② 胃の中や糞を調べる

現在の生き物でも、生きている様子を観察することが難しい場合には、死んだ物の消化管の中を調べたり、糞に何が含まれているかを調べたりして食性を推測します。たとえば、マッコウクジラの胃からはイカが多く見つかり、イカが好物であることがわかりました。クマは雑食性ですが、糞を調べることで季節ごとに食べ物が変化することがわかっています。

絶滅生物の場合も、この手法が使えることがあります。最近では、ティラノサウルスに近縁なゴルゴサウルスで、幼体の胃の中に小型の肉食恐竜が未消化のまま残っている化石が発見されました。この発見から、ゴルゴサウルスの子どもは、手軽に捕らえることができる小さな恐竜を食べていたらしいことがわかりました。胃の中に食べ物が残っている化石は非常に珍しく、見つかることは稀です。見つかったら大発見、古生物の食性を知る上で非常に重要な証拠になります。
図2:ゴルゴサウルス(幼体)の胃内容物の化石。スケールバーは50cm。(©Therrien et al., 2023)
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胃内容物の化石と比べると、糞の化石の方が多く見つかります。糞の化石からも食性を推測することができますが、少し難しい点があります。それは、そもそも糞がどの古生物のものかを特定するのが難しいということです。同じ地層からどんな生き物の化石が見つかっているか、ということや糞のサイズなどを元に誰が出した糞かを推測しますが、それでも多くの場合は誰の糞か正確にはわかりません。
図3:ジュラ紀の糞化石。植物食恐竜が排出したものと考えられるが、恐竜の種類は不明。(©James St. John; Wikimedia commons)

③ 歯に残った傷を調べる

最近では、歯に残った細かい傷を調べて食性を推測する方法も注目されています。獲物を食べると、歯にその硬さに応じた傷がつきます。この方法により、歯の形だけではわからなかったことが明らかになってきています。

例えば、植物食と考えられている恐竜では硬い植物を噛んだことによる傷が確認されたほか、肉食と考えられている恐竜では傷の深さが成長に伴って変化し、成長の中で食べていたものが変化したことなどがわかったそうです。歯の形だけでなく、歯に残る傷という物的証拠から食性の裏づけができるようになったわけです。
図4:ティラノサウルス類の歯に残った細かい傷。スケールバーは1 cm。(©Winkler et al., 2022)

④ 体の大きさ・胴の長さから推測する

この他に、決定的なものにはなりませんが、体の大きさや形からも食性が推測できることがあります。草食動物の体は、一般に肉食動物と比べて体が大きく、胴長です。たとえば、ゾウやウマ、ウシなどがその例です。植物は肉よりも消化が難しく、時間がかかるため、消化管が長く、それを収める体が大きく、胴長になるのです。

恐竜にも同じことが言えます。歯の形から植物食と推測されるブラキオサウルスなどの竜脚類は、他の恐竜と比べて胴長で大型です。この体の特徴からも植物を食べていたことが推測されます。

おわりに

このように絶滅生物の食性を明らかにする方法はいくつかあり、それらを組み合わせることで、少しずつその謎が解けるのです!また、食性に限らずですが、絶滅生物の生態を解明するためには、今現在生きている生きものの生態も知る必要があるんですね。
ちなみに、恐竜は現在生きている哺乳類や鳥類、爬虫類などさまざまな脊椎動物が比較対象になるので、実は食性の推測がしやすいほうです。近いものや似ている現在の生き物があまりいない絶滅生物(たとえば、アノマロカリスやオパビニアなどのバージェスモンスターなど)の食性を知るのはさらに難しくなります。

僕も最近、アンモナイトの食性について研究をしています。アンモナイトの食性は、他の古生物と同様に、歯にあたる部位の形や胃の化石などから推測されていますが、まだほんの一部の時代の、ほんの一部の種類しかわかっていません。アンモナイトは3億年もの長期間生存していたので、その間に周りの環境や生態系も変わったはずです。その時々で何を食べていたのかを詳しく明らかにして、大繁栄の秘訣を明らかにすることが研究の目標です。
画像出典元文献
Therrien et al., 2023: Exceptionally preserved stomach contents of a young tyrannosaurid reveal an ontogenetic dietary shift in an iconic extinct predator, Science Advances, 9, eadi0505.
Winkler et al., 2022: First application of dental microwear texture analysis to infer theropod feeding ecology, Palaeontology, e12632.
画像提供/相場大佑
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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。