なぜ子どもは「怖い話」が好きなの? 『学校の怪談』~『おばけずかん』“心の成長を促す”「怪談本」5選

出版ジャーナリスト・飯田一史のこの本おススメ! 第8回 「小学生向けの怖い話」 (3/3) 1ページ目に戻る

出版ジャーナリスト:飯田 一史

学校から「レストラン」へ! フィクションとして楽しむ怪談の進化

その『学校の怪談』ブームですが、一般的には2000年代初頭には終わったと言われています。ただ、全国学校図書館協議会「学校読書調査」で小学生が読んでいる本を調べてみると、2000年代もずっと上位にあり続けました。

また1996年から2007年まで、全50巻が刊行された『怪談レストラン』(怪談レストラン編集委員会・責任編集、松谷みよ子/絵:たかいよしかず)の各タイトルは、一時期は途切れつつも、なんと2020年代まで長くランキング上位に顔をのぞかせています。「怖い話」の需要は、ずっと途切れていないのです!

『怪談レストラン(1)幽霊屋敷レストラン』
怪談レストラン編集委員会・責任編集、松谷みよ子/絵:たかいよしかず(童心社)
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この『怪談レストラン』は、ポプラ社版『学校の怪談』を取り仕切っていた松谷みよ子さんが責任編集、講談社版『学校の怪談』をまとめてきた常光徹さんも編集委員会に参加して、解説も含めて執筆をしています。

ただ収録された怪談には、「学校」しばりがなくなり、レストランで料理として怖い話がふるまわれる、というコンセプトになっています。案内役として「お化けギャルソン」など、各レストランにはデフォルメされたかたちのおばけが(支配人として)登場します。

『学校の怪談』にあった「現実と地続きかもしれない」という感覚は少し薄れ、フィクションである前提のうえで楽しむものに近づいています。「リアルに起こった話かも」と思うと「怖すぎてムリ」だという子は、こちらのほうが好きかもしれません。

『黒魔女さんが通る!!』が登場

それから、怪談・怖い話を小学生が読む本として当たり前になったことを前提に出てきたのが、講談社青い鳥文庫で2005年から刊行された『黒魔女さんが通る!!』(著・石崎洋司)です。

『黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻』
著:石崎洋司/イラスト:藤田香

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『黒魔女』の第1巻第1話のタイトルは、「学校の怪談vs.黒魔女さん」なんです。オカルト好きな主人公の少女チョコが、まちがって呼び出してしまった黒魔女のギュービッドのもとで、黒魔女修行の一環として学校の怪談を解決するというストーリーになっています。

このシリーズも青い鳥文庫のサイト上で読者からキャラクターや魔法を募るという読者参加企画で好評を博しました。

低学年から大人気! 『おばけずかん』に学ぶ「怖くて安心」な絶妙ルール

では2010年代~現在の怖い話はというと、小学校低学年~小5くらいまで広く読まれているのが『おばけずかん』シリーズです。

『がっこうのおばけずかん』
著:斉藤洋/イラスト:宮本えつよし(講談社)

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1話につき1体の恐ろしいおばけや、妖怪などが登場するオムニバス形式。毎話必ずおばけに対する対処法が書かれて「怖いけど、大丈夫」と、読者を安心させるのが特徴的です。

大人はおばけに食べられてしまうこともありますが、子どもの登場人物は被害に遭わないよう作られています。

『学校の怪談』『怪談レストラン』『おばけずかん』を並べると、『おばけずかん』の絵が一番ポップでコミカルですね。おばけなのに、どこかかわいらしい。このあたりの加減が絶妙で、「怖いものを読みたいけど、怖すぎるのはちょっと……」という幼い子どもの気持ちにも合っているし、大人からしても安心して手渡せるのではないでしょうか。

オリジナルのおばけを考えて編集部に送ってくる読者も多く、何度も公式でおばけ募集企画を行い、『しょうがくせいのおばけずかん』にもなっています。

『しょうがくせいのおばけずかん かくれんぼう』
著:斉藤洋/イラスト:宮本えつよし(講談社)

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語り手・作り手にまわるクリエイティブな面白さ

高学年くらいになると1編を3分や5分で読める、朝読向きの怪談集やホラー、サバイバルものが人気になりますが、こちらでもよくショートショートや、体験談を募集するコンテストが行われています。

「怪談」は自分の体験を語るか、体験者から聞いたものをさらに人に伝えていくものです。一方で『おばけずかん』やショートショートは基本的に「創作」ですから、力点は少し違います。

ただ、怖さをまわりの人たちと共有し、自分も参加する楽しさが支持されているという意味では変わっていません。

受け手としてだけでなく、語り手、作り手にまわるクリエイティブな面白さもあるのが、子どもたちにとっての「怖い話」の魅力といえるのではないでしょうか。

文/飯田一史

【好評連載】出版ジャーナリスト・飯田一史のこの本おススメ! 過去記事はこちら

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飯田 一史

Ichishi Iida
出版ジャーナリスト・ライター

青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp

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青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp