「こんにちは、予約していた磯崎です。」と名乗った男性は気の向くまま全国を旅行中という。
磯崎
「8年間勤めた会社をやめまして。再就職する前に1年くらいバイクであちこちを旅しようと思ったんですよ。」
マッキー
「へぇ、うらやましい。優雅ですねぇ。」
マッキーが言うと、磯崎さんはニヤッと笑う。
磯崎
「貧乏旅行ですよ。そろそろ貯金も残り少なくなってきたし。まぁ、学生時代にもよく放浪旅行をしてたんで、旅は慣れたもんです。」
磯崎さんがいろいろな旅の経験談を話し、キリさんも越川くんにせがまれて事件解決の裏話を披露する。
越川くんが用意した鍋をつつきながらしゃべっているうちに夜はふけていった。こうして初対面同士、リビングルームで交流できるのがゲストハウスの良さである。
越川
「さあ、みなさんを部屋に案内しなくっちゃ。今、使える部屋は3つしかないんです。2階はこれから改装するんで。こちらへどうぞ。」
ろうかがギシギシと音を立てるあたり、だいぶ古い家のようだ。
越川
「全室2段ベッドですけど、桐久さんと牧野さんは同じ部屋がいいですか?」
キリさん
「いや、マッキーの顔は見飽きてるから。別々にしてもらえるならありがたいね。」
マッキー
「けっ、そりゃあこっちのセリフだぜ!」
越川
「わかりました。せまい部屋もあるんで……公平にくじ引きで決めますね。」
越川くんはポケットからあみだくじが書かれた紙切れを取り出した。
越川
「牧野さんはこちらの1号室です。一番せまい部屋で申し訳ないですけど。」
マッキー
「全然かまわないですよ。」
しかし、部屋をのぞきこんだマッキーは「うっ。」と小さくうめいた。
越川
「あ……これ、気になりますか?」