マッキーが好奇心をあらわにすると、バーテンダーはうれしそうに話し始めた。
バーテンダー
「大谷寺(おおやじ)って知ってますか? 高さ27メートルの平和観音や、大谷観音が有名なんですけど。」
マッキー
「知らないなぁ。」
バーテンダーは驚いたように目を見開いてみせ、自慢げに説明する。
バーテンダー
「大谷寺の御本尊(ごほんぞん)の大谷観音は日本最古の石仏といわれていてね。平安時代に弘法大師(こうぼうだいし)が作ったものと伝えられているんですよ。高さは4メートル。岩の面に直接彫られた千手観音で……。」
キリさん
「で、それがミイラとどう関係が?」
話がかなり長くなりそうな気がしたので、キリさんは先を急かした。
バーテンダー
「そうそう、この大谷寺には宝物館があるんですよ。なんといっても人気なのが、1万1000年前のミイラです。」
キリさん
「ミイラって日本にもあるんですか?」
バーテンダー
「ありますよ。エジプトのミイラみたいに包帯を巻いた姿ではないですけど。ミイラは、かんたんにいうと死体を乾燥させたものです。干物みたいなイメージですね。ふつうに死体を放置すれば、やがて骨だけになってしまいます。乾燥しても人間の原形をとどめているのがミイラです。」
日本は湿気が多いためミイラ作り、および保存に適さない。
だが、いろんな条件が重なってぐうぜんにミイラができることがあるという。
バーテンダー
「まぁ大谷寺のミイラはだいぶ人骨っぽいけど……ミイラと呼ぶ人が多いからミイラと認定してもいいでしょう。」
バーテンダーは自分の前にグラスを置いてビンからビールを注ぎ、キリさんとマッキーのグラスにも注ぎたしてくれた。
バーテンダー
「さて、ここからが本題です。あれは……8月も終わりに近づいた蒸し暑い夜のこと。大谷寺の宝物館に、何者かが侵入したんです。物音に気づいた警備員がすぐにかけつけたところ、ミイラの展示ケースにひびが入っていた。何者かが盗み出そうとしたんです。」