「わが子はよその子と違う」子どもを比べ不安な親に 専門家が薦める絵本3選
大人に効く絵本〔15〕『ちっちゃなねずみくん』『まっくろ』『ぼくは川のように話す』がおすすめ
2023.11.20
絵本コーディネーター:東條 知美
美しい絵に癒やされたり、ハッと気づかされたりと、絵本は大人にとっても感動がいっぱい。
そんなパパママにこそ読んでほしい作品を、“絵本のプロ”がテーマに合わせてピックアップする企画『大人に効く絵本』。
今回は、絵本コーディネーター・東條知美さんに、「わが子はよその子と違うかも」と不安になったときにおすすめの3冊を紹介していただきます。
絶対的な味方の存在が心の支えになる
親御さんにとって子育て期は、園や学校で、大勢の子どもたちと過ごすわが子を見守る時期ですよね。
同じ年齢であっても、体の成長も発達も凸凹があり、ひとりひとり違います。個人差だとわかってはいるけれど、つい気になり心配してしまうのが親心です。
でも、よその子と比べるのをやめて、子ども自身としっかり向き合ってみると、初めて気づくわが子のよさがたくさん見つかるものです。
「それでもどうしても比べてしまう」という親御さんへ、優しく導いてくれる絵本があります。1冊目にご紹介したいのが『ちっちゃなねずみくん』(文:なかえよしを、絵:上野紀子)です。
タイトルどおり、小さなねずみくんが主人公の物語です。ねずみくんが、ガールフレンドのねずみ・ねみちゃんと歩いていると、石につまずいたぞうさんが、ねずみくんのしっぽを踏んでしまいます。
ぞうさんは巨体の持ち主ですから、ねずみくんはさぞ痛かったことでしょう。でも、ねずみくんは、謝るぞうさんに「それより ぞうさんの あし だいじょうぶ?」と相手を気づかいます。そして、「ぼくが めだたないから いけなかったんだ」と、しょんぼりしてしまうのです。
そこへプードルさん、パンダさん、クジャクくん、ライオンさんと、目立つ動物たちが次々と現れて、「いいなあ」とうらやましがるねずみくん。ねずみくんの素直な性格が表れていますね。
そうして、最後にライオンさんが連れてきたのが、なんと最初のぞうさん。「りっぱな はなを もっているんだ」と、ほめたたえるライオンさんに対して、ぞうさんはどこか居心地が悪そうです。
なぜなら、ぞうさんはわかっているのです。自分のことより相手を思いやれるねずみくんのほうが、実は立派だということを。それをみんなの前で口にできるぞうさんも、さすがねずみくんのお友達、すてきですね。
私は、ねずみくんがコンプレックスを抱えつつも、縮こまることなく、思いやりを持って相手に接することができるのは、ねみちゃんの存在が大きいのではないかと思っています。
傷ついたねずみくんのしっぽに包帯を巻いてくれるねみちゃん。みんなの前で、ねずみくんの心はぞうさんよりも大きいのだと、しっかりと伝えてくれます。
誰にでも、自分を守ってくれる絶対的な味方の存在が必要なんだと、この絵本を読んで改めて思います。小さなお子さんにとって、それはきっと、いちばん身近なお父さん・お母さんなのではないでしょうか。
大切なのは《子どもを決めつけないこと》
次にご紹介するのは、『まっくろ』(文:高崎卓馬、絵:黒井健)です。2002年にオンエアされ、衝撃の展開で話題となった公共広告機構(現ACジャパン)のテレビCMを原案とする絵本です。
『まっくろ』の舞台は、学校の教室です。図工の時間でしょうか、「みんなのこころに うかんだことを かいてみましょう」という先生の声掛けを合図に、ひとりの男の子の不可思議な行動が始まります。
来る日も来る日も、ただ画用紙を黒く塗りつぶす男の子に「ちゃんとした えを かきなさい」と先生は言いますが、やめません。家に帰っても、何日経っても、黒く塗ることをやめません。
大人たちは、理由もわからずオロオロするばかり。クラスメイトも男の子を怖がって近寄らず、遠巻きに眺めています。
そんなある日、ついに男の子は、いたずらに黒く塗っていた手を止めるのですが、そこに現れたのは何だと思いますか──?
わが子のことは、親の自分がいちばんよくわかっている。それは間違いなく、そのとおりです。「もしかしたら、心の病気じゃないか」「黒は、心の闇を表しているのではないか」「何かおかしいのではないか」。そう心配するのも無理はないと思います。
でも、「少しだけ待ってみましょう」と、この絵本は呼びかけます。
黒、黒、黒……で塗りつぶした先には何があったのか。大人が思うよりもっともっとずっと大きなもの、想定外の世界を男の子は心の中に思い浮かべていました。
大人にできるのは、とにかく決めつけないこと。自分の型に押し込めないこと。そして、見守ることなのです。
ちなみに、この絵本の原案となったCMでは、最後に「子供から、想像力を奪わないでください」というメッセージが流れました。これは、すべての大人たちが心したいことではないでしょうか。