【発達障害・発達特性のある子】「こだわり行動」とは? 種類・原因・対応を「療育の専門家」が解説

#5 こだわりが強く延々とミニカーを並べています〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

「こだわり行動」への対応

ここまでの基本的理解をもとにして、「こだわり行動」に対しては次のような対応を考えます。

①「こだわり行動」を誘発する要因を排除する
水道の蛇口を見ると水遊びをしてしまう「こだわり行動」であれば、蛇口を見えないようにする、などです。

②「わからなさ」や不安や不快をできるだけ減らす
安心を求めて「こだわり行動」をしているなら、生活の中のストレスをできる限り減らすことを考えます。日常生活を注意深く観察し、感覚的に嫌な刺激を取り除く、イラストを使うなどの視覚的支援によって「わかる」を増やす、子どもが脅威に感じるような関わりはしないなどの工夫をすることで、子どものストレスや不安を減らし、安心できるような工夫をします。

③「こだわり行動」が定着しないようにする
例えば、車のドアの開閉ボタンを押したいと子どもが泣き叫んだとき、「急いでいるから騒がれたくない」と、「今日だけだよ」とボタンを押させたとします。すると、車に乗るときはボクがボタンを押すとドアが開くという一連の行動が記憶に定着してしまい、その後、「車に乗るときは開閉ボタンを自分が押す」ことが「こだわり行動」になってしまうことがあります。

子どもは「今日だけ」「〇〇な時」はやっていいという条件が理解できないことが多いので、困った「こだわり行動」を防ぐには「この行動を毎日要求されたら困る」行動は最初からさせないことが大事です。もしさせてしまったら、その行動ががっちりと定着してしまわないように、意識して、同じ状況を作らないようにしましょう。

④ わかる刺激、楽しめる刺激を探す
「楽しめる刺激がないからこだわり行動をする」場合は、その子がわかる刺激、楽しめる刺激を探します。特に知的な発達がゆっくりであったり、比較的重度の自閉症スペクトラム障害の子どもの場合、意思疎通が難しいこともあって、わかる刺激、楽しめる刺激が見つかっていないことは往々にしてあります。

子どもがわかる刺激、楽しめる刺激を探しながら子どもに関わる中で、それが見つかったら、その刺激を受けられるような環境や関わりを用意します。例えば風のそよぎを心地よさそうにしていたら、そよ風が吹いているときは窓辺に連れていく、団扇で風を起こしてみるなどです。

⑤ 代替行動を提案する 
「こだわり行動」は子どもにとって意味があるので、これをただ「ダメ!」と禁止すると、彼らは時にパニックに陥ったりしますし、親子の関係が悪くなります。

そうならないためには、できる限り、「代わりになる行動」を提示することを考えます。例えば、蛇口を見ると水遊びを始めてしまう子どもには、風呂掃除の手伝いをお願いする、箸を持つと茶碗を叩いてしまう子どもにはおもちゃのドラムや和太鼓を用意する、などです。

代替行動をするようになると、それまで一つの「こだわり行動」に向けられていたエネルギーが減ります。代替行動の定着を図り、それまでの強いこだわり行動を減らすことを意識しながら関わることで、徐々に「こだわり行動」が減っていくようにします。

⑥「こだわり行動」を大切にする
「こだわり行動」はどんな原因によるものであっても、基本的にその子の「好きなこと」です。それはやがて趣味や特技へと育つかもしれません。また、「好きなもの」は人生を支えます。だから子どもの「好きなこと」を大切にして、子どもが「好きなこと」を持てるようにしてあげたい。

「こだわり行動」はその子の「好き」を見つけるヒントと思って、「こだわり行動」を見守り、時に一緒に楽しむ、という視点を持ちたいと思います。

ミニカーを並べ続ける「こだわり行動」について

さて、では今回のご質問の「ミニカーを並べ続ける」「こだわり行動」にはどう対応したらいいでしょうか。

(1)修正する必要がない場合
「ミニカーを並べ続ける」だけであれば、本人や周囲の人たちの生活を脅かすことはないので、あえてやめさせなくてもいいと私は思います。

やってみていただきたいのが、「この子はこれの何が好きなのかな」という目でじっくりとその行動を見ることです。じっくり見て、数多のものや出来事の中からその子がその「こだわり」のものやことがらを選んだその理由を、例えば整然と並んだ秩序の美なのか、並べるときの緊張感なのかなど、あれこれと考えてみてほしいのです。

自分の「好きなこと」に親が興味を持ってくれる、それは子どもにとってうれしいことです。そのような良い関わりを続ける中で、いつか、子どもと一緒に別の新しい遊びや行動を見つけられるかもしれません。

(2)修正が必要な場合
ただし深夜まで「ミニカー並べ」をやる、他の遊びや活動に一切参加しない、ミニカーを際限なく買ってほしがるなどの場合は、「こだわり行動」を修正する必要があります(『変えなくてもいい「こだわり行動」と変える必要がある「こだわり行動』参照)。

ただし、無理にやめさせることはせず、代替行動を探します。子どもの側の事情がある中で無理にやめさせようとしてもうまくいきませんし、子どもとの良好な関係が維持しにくくなるからです。

「並べる」ことに「こだわり」があるのであれば、代わりの行動として、玄関の靴をきちんと並べる、キッチンのスパイス容器を並べる、といったことをお手伝いとしてお願いするのもひとつの方法だと思います。

最後に

「こだわり行動」については、①原因を探る、②その子にとっての「こだわり行動」の意義を知る、③変える必要があるかどうかを判断する、④根気よく代替行動にシフトさせていく、ことが対応の基本になります。注意深く、子どもの様子を見ながら、これらを検討してください。

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今回は「ミニカーを並べのが好き」という「こだわり行動」のお悩みを取りあげました。「こだわり行動」には変える必要のあるものと変える必要のないものがあり、どちらにしても子どもの「好き」を見つけていくことが大切だということを教えていただきました。

次回以降も原哲也先生が「発達障害・発達特性のある子」の子育てのお悩みにお答えしていきます。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」