生徒が校則を作る 子どもに「自力で変革する能力」を授けるルールメイキングとは?

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#6~中学生編その2~

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

全国に広がりつつある「自分たちで校則を見直して守る」ルールメイキング

子どもたちの「エージェンシー」を育てる際に、日本の大人たち、保護者や教員も成長していかなければなりません。率直に言って、先進国の中で、日本の大人は子どもの意見や声を聞くスキルや尊重する態度が下手な国だからです。

いっぽうで、いま日本では、子どもと一緒に考え、進もうとしている大人たちも増えているのです。

熊本市以外にも、NPO法人カタリバが、全国の教育委員会や学校と「ルールメイキング」(※2)というプロジェクトを2019年から進めておられます。実践した学校は全国で162校(2022年10月時点)に及びます。

〈「ルールメイキング」は学校の校則・ルールの対話的な見直しを通じて、みんなが主体的に関われる学校をつくっていく取り組みです。校則を変えることが目的ではなく、生徒や先生同士で対話を重ね、みんなの納得解をつくっていくプロセスを大切にしています。〉
※「ルールメイキング」(カタリバ)のHP「ルールメイキングとは?」より引用

実は熊本市でも、カタリバの「ルールメイキング」でも、生徒と教員だけでなく、保護者も対話しながら校則の見直しを進めています。

多数派の大人が生徒たちの意見をつぶさないように、熊本市は教育委員会の作った学校管理規則で、生徒代表・保護者代表・教員代表の定数を決め、最終判断と決定は校長がするという決まりにしています。

カタリバの「ルールメイキング」でも、専門家をまじえてワークショップをしたり、学校や生徒とコーディネーターが相談できる体制を作りながら、生徒の意見表明や尊重を支える「こどもまんなか」の取り組みを重視しています。

中学生あるいは高校生という「自立した個人」に向けて伸び盛りのお子さんを育てておられる保護者も、いま日本の学校で進んでいる子ども・若者の意見表明の取り組みを知ることで、お子さんと一緒に考えたり行動したりするスキルを成長させていくことができると私は考えています。

保護者も自分自身の「エージェンシー」を子育てで発揮してみませんか?

※1=『みんなの「今」を幸せにする学校 不確かな時代に確かな学びの場をつくる』(著:遠藤洋路/時事通信刊)

※2=カタリバの「ルールメイキング」

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※この記事は子どもたちと夫の同意を得て執筆・公開されています。また記事の執筆にあたって友人の木野雄介さんとの対話にたくさんのアイディアをいただいたことに感謝申し上げます。

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すえとみ かおり

末冨 芳

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授

日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。

日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。