
『あらしのよるに』【全7巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー 20年ぶり“奇跡“の新シリーズが3月12日スタート! 『あるはれたひに』を全ページ無料公開!
「あらしのよるに」シリーズより『あるはれたひに』を全ページ無料公開!
2025.02.18
「やっと つきましたよ。てっぺんです。」
にっこりと ふりむいた ヤギを、オオカミは まぶしそうに みあげた。
「やっぱり ながめが いいですね。ほら フカフカだにまで よーく みえますよ。」
「ほんとだ、おいら、よく あのへんに……。」
えさを たべに いきますよと いいかけて、オオカミは あわてて くちを ふさいだ。
えさとは ヤギの ことだったからである。
「さあ、さっそく おべんとうに しましょう……あっ、しつれい、おとしちゃったんでしたっけ。」
「そうなんす……。」
オオカミは、なるべく ヤギを みないように して こたえた。
「なんだったら わたしの ほしくさ、はんぶん いかがです。やっぱり にくじゃなきゃ だめですか……。
あっ、もしかして、さっき おとした べんとうって、ヤギの にくだったりして……。」
「と、とんでもないっすよ。おいら、ほんとうに ヤギの にくだけは だいっきらいなんす。
そんなの、きまってるじゃないっすかあ。」
そういった オオカミだったが、なによりも ヤギの にくが だいこうぶつなのである。
「さ、おいらに かまわず たべて くださいよ。おいらは ちょっと ひるねでも しやすから。」
ごろっと よこに なった オオカミだったが、おなかが すいて とても ねむるどころではない。
「いやあ、こんな けしきを みながら たべる おべんとうって さいこうですね。
おや、もう ねちゃったのかな。」
ヤギの ことばを せなかで ききながら
『ちぇっ、おいらだって おべんとうが あると いえば、ちゃーんと うしろに あるんだい。でも、それが ともだちなんだよなあ、とほほほ。』
オオカミは ぎゅっと めを つむった。
「あー、くった、くった。もう おなかが いっぱいですよ。
どれ、わたしも ひとつ、ひるねでも しますか。」
ヤギは おおきく のびを すると、ごろりと オオカミの となりに よこに なった。
「はらが ふくれると、きゅうに ねむくなっちゃって……ムニャムニャ……。」
そんなことを いってるうちに、ヤギは もう きもちよさそうな ねいきを たてている。
オオカミは むくりと おきあがると、ねむりこんでいる ヤギを じっーと みつめた。
『こいつ、すごく いい やつなんすよねえ……たべても うまいけど……でも、いっしょに いると、なんだか ほっとするんすよねえ……ま、あじも いいっすけど……
でも……あっ、みみが ぴくっと うごいた。
ちょっとだけ かじってみようかな。
〝あなたは ともだちだから、かたっぽの みみぐらいなら、どうぞ。〟
なーんて、いうわけ ないか。
でも おいら、もう はらが へってさ……。』
オオカミは、そうっと ヤギの みみに くちを ちかづけた。
『やっぱり いたいだろうな。ちだって でるだろうし、
きっと おいらを みる めが かわっちゃうだろうなあ……。』
ふう~っと オオカミが ためいきを つくと、
「ウフフ、よして くださいよ、くすぐったいじゃないですか。」
ヤギが めを さました。
「わたし、くすぐったがりやでしてね。みみは とくに だめなんですよ。
あ~あ、すっかり めが さめちゃった。どれ、そろそろ いきますか。」
のびを して、ヤギが たちあがる。
「え? あ、ああ。」
そう こたえた オオカミの めを みて、ヤギは はっとした。
オオカミの めが ひかっている。
『やっぱり こいつ、この わたしの ことを……。』
けれど ヤギは、すぐに プルプルと くびを ふった。
『ああ、わたしは なんて やつだ。たとえ いっしゅんでも ともだちを うたがうなんて。』
ヤギは じぶんの あたまを ポコポコと たたいた。
二ひきが いわやまを おりはじめて まもなく、そらが きゅうに くらく なりはじめた。
「あめでも ふりだしそうでやんすね。」
「ま、ふっても ゆうだちでしょう。」
「あれ? いま なんか ひかりやしたよ。」
「え!?」
「わあ!!」
「ひゃあ!!」
二ひきは どうじに はしりだした。
おおつぶの あめも、バラバラと ふりはじめる。
二ひきは、あわてて ちかくの どうくつに とびこんだ。