
もえぎ それは読者です。児童書なら一人称の方が読者は感情移入しやすいので、盛り上がるパートでは地の文をニナの話し言葉のようにしたりしています。
これなら、頭の中で小説に書かれたシーンを思い浮かべることができそうですね。絵がなくても文字を読み進める練習になりますし、なによりも子どもの想像力をぐんと広げてくれます。
また、今どこにいるのか。朝なのか、昼なのか、夜なのかなど、漫画では背景を見れば特に説明しなくてもわかる状況も、小説では詳しい説明が必要になります。逆に小説を読んで「なんとなく見ていた風景だけど、こんな風に言葉で表現するんだ」という良いお手本になるので、語彙力や表現力を育てるのにも役に立つでしょう。
例えば、風景や場所の説明についてもこんな工夫が。
もえぎ 基本的には、漫画に描かれていないことは書かずに、コマにある情報をふくらましていく感じです。宮殿の描写では、原作の絵に大理石と書いてるわけではないけれど、大理石でも違和感なく、豪華なイメージが伝わるので「大理石の床」と書いています。
ただ、物語導入部分だけは、貧富の差を描写しないとニナの状況が説明しづらいので、「高い場所にはお金持ちが住み、低い場所には貧乏人が住む」など、原作にないことを書いています。でも、それも原作の町の描写を見るとたしかにそんな感じなので、やはり原作からふくらませていきます。
そんなもえぎさんが、『小説 星降る王国のニナ』の執筆で苦労したこと、楽しかったことは?
もえぎ 『小説 星降る王国のニナ』はキャラクターもストーリーもすばらしいので、そのすばらしさをどれだけ青い鳥文庫の読者に伝えられるか、です。まずは「読みやすく」、その先のキャラクラターたちの細やかな表情、美しさ、迫力、そういった奥行きがどこまで文章で出せるか。とても難しくて試行錯誤の連続でした。また本作はとてもロマンチックなシーンがあり、書きすぎても書かなさすぎても、原作漫画が放つせつなさや尊さが伝わりづらくなります。今でも「もっと伝えられたのではないか」と反省するくらい難しかったです。
逆に、徐々に表情を豊かにしていくアズールの変化を書くのは楽しかったです!
原作漫画2巻からの、お互いを思い合うニナとアズールのすれ違い。自分の命にかえてお互いを守ろうとする2人が尊いです。ニナがアズールからもらった髪飾りを、嫁入りを決意したときに外し、ラストに握りしめながら号泣しているのは……せつない! このせつなさをぜひ、文章でも味わってほしいです。
本は娯楽! 子どもには好きな本を読んでほしい
『小説 星降る王国のニナ』は、もえぎさんが原作漫画を読みこんで小説の形にしたので、物語の内容は漫画とまったく同じです。
一方、〝青い監獄(ブルーロック)〟入寮前の、最強ストライカーたちの物語をつづった「小説 ブルーロック 戦いの前、僕らは。」シリーズは、「公式スピンオフ小説シリーズ」と銘うたれているように、原作漫画本編には描かれていないエピソードが小説になっています。もえぎさんが小説のあとがきに記していますが、「小説 ブルーロック 戦いの前、僕らは。」シリーズは、漫画の原作を書いている金城宗幸先生が、物語の筋を決めるプロットを書いています。原稿を書き上げた後も、セリフのひとつひとつを細かく確認してOKをいただいているので、まさに「公式」。
もえぎ 私自身も漫画をたくさん読みこんで、キャラクター性の把握に努めていますが、やはりキャラクターを生み出した金城先生はすごいなと、返ってきたチェックを見て思います。
もえぎさんがいつも行っている「キャラクター性」の把握は、どんな方法でやっているのでしょうか。
もえぎ 「小説 ブルーロック 戦いの前、僕らは。」シリーズでいうと、馬狼照英(ばろう しょうえい)であれば、原作漫画の馬狼のセリフすべてに付箋をつけておいて、そのセリフを言ったのと同じようなシチュエーションのシーンに当てはめていくような感覚です。だから執筆のときには、とにかく原作漫画を開き、逐一見ながら書いています。
漫画『ブルーロック』は、苛酷な状況に置かれたキャラクターたちが、どんどん変わっていく様子がおもしろいと思います。本編でも過去の出来事が断片的に描かれていますが、人間ひとりひとりに、それまで生きてきた記憶や絆、思いがあります。金城先生はそれをとても大事にしていて、過去の経験があるからこそ今があり、今の変化が未来につながるんだ、というメッセージを強く感じます。
もえぎさんの書くことへのこだわりと、読者に届けたい想いは?
もえぎ 子どもたちにはぜひ「自分が読みたいと思った本」を選んでほしいです。
大人は「ためになる本」「勉強になる本」「将来の役に立つ本」をすすめがちですが、娯楽のひとつなんだから、「おもしろそう! 読んでみたい!」と思った本を読んでいいんじゃないと。
読まされると読書嫌いになってしまうので、自分が選択する、その行為がとても大事だと思います。そのときに選んでもらえるような、おもしろい本を書きたいですね。ハラハラドキドキ、キュンキュンするエンタメ作品を書いていきたいと思っています。

もえぎ 桃(moegi momo) 小説家。青森県出身、仙台市在住。
第3回青い鳥文庫小説賞金賞を受賞し2020年『両想いになりたい』でデビュー。代表作は「トモダチデスゲーム」シリーズ、漫画公式スピンオフ小説「小説 ブルーロック 戦いの前、僕らは。」シリーズ、ebookjapanマンガ大賞2023大賞を受賞した大人気漫画のノベライズ『うるわしの宵の月』シリーズなど。
もえぎ桃先生の漫画ノベライズ作品
もえぎ桃先生の漫画ノベライズ作品を一気に紹介します。
「小説 ブルーロック 戦いの前、僕らは。」シリーズ
“ブルーロック(青い監獄)”に来る前の、それぞれの足跡を記した公式ノベライズ。




「小説 ブルーロック EPISODE凪」シリーズ
映画化もされた公式「スピンオフ」! “天才”凪 誠志郎を主人公に据え、本編とは別の視点で描く。


『小説 星降る国のニナ』

「うるわしの宵の月」シリーズ
原作の漫画が、TVアニメ化決定! TVアニメ『うるわしの宵の月』は、2026年1月からTBS系全国28局ネットにて放送開始。


中村 美奈子
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。