「子どもの発達障害」 “個性の凸凹“と何が違う? 第一人者が回答

【セミナーレポート】榊原洋一先生【正しく知って安心! 「子どもの発達障害」】#2(Q&A前編)

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

Q4 グレーゾーンは変わらない?

グレーゾーンだと言われました。グレーゾーンは白黒になることはなく、ずっとグレーゾーンなのでしょうか。

A4 はっきりした診断をお願いしましょう

「グレーゾーン」という言葉は、本来は医学的に存在しません。

ただ、診断基準に照らした場合に障害なのか定型発達なのか、または障害の症状なのか気質なのか判断がつきにくいケースがあります。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断基準9つのうち6つ以上が認められるときに注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されますが、5つだった。そのようなときに、どっちつかずの状態とみなして「グレーゾーン」と表現する医師がいるのだと思います。

私自身は「グレーゾーン」という言葉を使うことはありません。もし5つだったら、「注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状は見られますが、基準を満たしていないので注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断はしません」とはっきりお伝えします。

「グレーゾーン」と言われた場合に、ではそれは一体いつまで続くのか? という疑問が残ると思います。症状は見られるものの、診断基準を満たさない状態は長く続くかもしれません。または、症状が軽くなっていくかもしれません。これはなんとも言えません。

しかしながら、私の意見としては、医師として白黒はっきりつけるべきで、グレーゾーンというあいまいな表現をするべきではありません。診断がつかない限り、ずっとグレーゾーンにあるということになってしまいますし、そのように分類することに意味が感じられません。

Q5 薬は飲んだほうがいいのか?

注意欠陥多動性障害(ADHD)の薬はどのようなものですか? 早くから飲んだほうがいいですか?

A5 早くから飲むことをおすすめします

注意欠陥多動性障害(ADHD)の薬は、頭痛薬のように飲んでいる間は症状がおさまり、薬をやめるとまた症状が現れるタイプの薬です。

薬には大きく、病気を治すタイプの薬と、症状を抑えるタイプの薬に分けられます。注意欠陥多動性障害(ADHD)の薬は症状を抑えるタイプの薬で、頭痛薬や解熱剤のように飲んでいる間だけ効果があります。いずれ薬をやめられる人もいますが、多くの人は長く飲み続けることになります。

飲み始める時期は、早いほうがいいです。早くから飲むと、それだけ早くから症状を抑えることができるからです。

注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)があると、二次障害のリスクにさらされます。社会のルールを守ることができない素行症が出やすいために、大人からきつく叱られたり、お友達とうまくいかずいじめられたり、といった危険性が高まります。

それにより、うつや不安障害などの二次障害が発生することがあるのです。服薬によって、うつになりやすい人がうつになる確率が6分の1になるというデータもあります。それだけに、早く飲んだほうがいいと考えています。

Q6 言葉の遅れはいつまで様子を見ればいい?

声をかけても反応してくれません。言葉の遅れはいつまで様子を見ればいいですか?

A6 言葉の遅れは長い目で見て

言葉の遅れは自閉症スペクトラム障害(ASD)で顕著です。

しかし、かつては言葉の遅れも自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準に入っていたのですが、言葉の遅れが伴わない場合もあることがわかり、項目から外されました。

また、言葉の遅れは自閉症スペクトラム障害(ASD)に原因があることもありますが、知的障害に起因していることもあります。また、いろいろな発達の中で言葉だけがゆっくりしている子どももいます。言葉の発達はとても個人差が大きく、1歳前から意味のある言葉を話す子がいる一方、3歳になって初めて言葉を発する子もいます。

言葉の発達はとても判断が難しいのです。それだけに、私たちのような専門家に頼るのが得策だと思います。医師は、言葉だけが遅れているのか、他の発達も遅れているのかを見極めることができます。

物事を理解した上でしゃべらないのと、物事を理解せず行動も遅れていてかつしゃべらないのでは、意味がまったく異なりますから、不安なようでしたら悩まずに専門家に診てもらいましょう。

言葉の発達のために家庭ではどのように声がけをすればいいですか? という質問もよく受けます。子どもは自然に言葉を覚えていくものです。自分から身につけていくものであって、親のしゃべり方によって早い遅いという差は生じないと考えています。

4歳のお子さんでどうも言葉が遅いような気がするという方には、なるべく早くお子さんを園に入れるように勧めています。周りのお友達の言葉を聞くことで、早く言葉を身につけていくことができるからです。おうちでどのような工夫をするかを考えるよりも、他の子どもたちがいる環境に入れるのが手っ取り早いと思います。

言語聴覚士は、言葉の発達の専門家として、子どもたちをサポートしてくれます。  写真:アフロ

Q7 療育には言語聴覚士が必要?

療育を考えています。言語聴覚士がいる環境のほうがいいですか? 

A7 言語聴覚士がいれば積極的に相談を

言語聴覚士がいる環境のほうがベターです。理由としては、お子さんの言葉が遅い状態を、言葉だけが遅れているだけなのか、何か障害と関係のあるものかを的確に見極めてくれるからです。

とはいえ、言語聴覚士は言語療法も行いますが、言語聴覚士に関わるか関わらないかの違いは、子どもの言葉の発達に直接的には大きくは影響しないと考えています。

それよりも子どもたちが大勢いる環境に置くなどの、言葉の発達につながるコツを教えてもらえる意義のほうが大きいです。言語聴覚士がいるなら、積極的に相談してプロの目で見てもらいましょう。

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発達障害の診断は、身体の病気のように検査や測定で診断できるものではなく、診断基準に当てはまるかどうかを見極めることが大切だと、と榊原先生は言います。

受診を迷ったときにまず保護者としてできることは、3つの障害それぞれの診断基準を把握したうえで、子どもの様子をよく観察したり、子どものことをよく知っている園や学校の先生に聞いてみる、ということでした。

次回のレポート第3回では、引き続き、Q&Aの後編をお届けします。

#3に続く)

構成・文/渡辺 高

参考)発達障害の診断基準(DSM-5)

注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断基準

(1)以下の注意欠陥の症状のうち6つ以上が少なくとも6ヵ月以上続いており、そのために生活への適応に障害をきたしている。またこうした症状は発達レベルとは相容れない。成人では5つ以上を満たしていればよい。

注意欠陥 
※原文ではすべての症状には、“しばしば”という表現がついているが省略

・細かいことに注意がゆかず、学校での学習や、仕事その他の活動において不注意なミスをおかす。
・さまざまな課題や遊びにおいて、注意を持続することが困難である。
・直接話しかけられたときに、聞いていないように見える。
・学校の宿題、命じられた家事、あるいは仕事場での義務に関する指示を最後まで聞かず、そのためにやり遂げることができない(指示が理解できなかったり、指示に反抗したわけではない)。
・課題や活動を筋道を立てて行うことが苦手である。
・持続的な精神的努力を要するような仕事(課題)を避けたり、いやいやおこなう(学校での学習や宿題など)。
・課題や活動に必要なものをなくす(おもちゃ、宿題、鉛筆、本など)。
・外からの刺激で気が散りやすい。
・日常の活動のなかで物忘れをしやすい。

(2)以下の多動・衝動性の症状のうち6つ以上が少なくとも6ヵ月以上続いており、そのために生活への適応に障害をきたしている。またこうした症状は発達レベルとは相容れない。

多動
・手足をそわそわと動かしたり、いすの上でもじもじする。
・教室やその他の席に座っていることが求められる場で席を離れる。
・不適切な場で、走り回ったり高いところへよじ登ったりする(青年や成人では落ち着かないという感覚を感じるだけの場合もある)。
・静かに遊んだり余暇活動につくことが困難である。
・じっとしていない、あるいはせかされているかのように動き回る。
・しゃべりすぎる。

衝動性
・質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう。
・順番を待つことが困難である。
・他人をさえぎったり、割り込んだりする(会話やゲームに割り込むなど)。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準

A:さまざまな場面における社会的コミュニケーションと社会関係の障害で、以下に掲げる特徴が現在ある、あるいは過去にあったことがある。なお、以下の例は典型的なものであり、必ずしもなくてはならないものではない。

・社会的・情緒的相互作用の障害で、例えば異常な対人的接近や通常の会話のやり取りができない。関心や情緒、愛情を他人と共有できない。社会的相互の関係を開始、応答することができない。

・社会関係において使用する非言語的コミュニケーション行動の障害で、例えば貧弱な言語的あるいは非言語的コミュニケーション、異常なアイコンタクトやボディランゲージ、あるいは身振り手振りの理解や使用の困難、さらには表情による感情表現や非言語コミュニケーションの完全な欠如がある。

・対人関係の開始、維持と理解の障害のために、例えばさまざまな社会場面にふさわしく行動を調整することが困難なことや、想像的な遊びの共有や友人を作ることの困難や、友人への関心の欠如などがある。

現時点における重症度を明確にすること:重症度は、社会的コミュニケーションの困難の度合い、制限された反復する行動パターンによる。

B:制限されたあるいは反復する行動様式や関心、活動が、以下の例のうち2つ以上が現在ある、あるいは過去にあったこと。

・型にはまったあるいは反復的な動きや、物の扱い方、あるいは話し方(例:単純な常動運動、おもちゃを並べること、物をぺらぺらと振ること、反響言語、決まり言葉など)。

・同じであることへの固執、ルーチンへの頑なこだわり、儀式的な言語的あるいは非言語的行動(例:小さな変化による強い苦痛、行動を移行することの困難、固い思考パターン、儀式的な挨拶、毎日同じ道筋や同じ食べ物にこだわることなど)。

・非常に制限され、程度や対象が異常な関心(例:奇妙な対象物への強い愛着や執着、非常に限定された固執的関心)

・感覚刺激への過敏あるいは鈍感、環境への感覚面での異常な関心(例:痛みや温度への明らかな無関心、特別な音や手触りの嫌悪、物の匂いを過剰にかいだり、触ったりすること、光や動き回ることに視覚的に幻惑されるなど)。

現時点における重症度を明確にすること:重症度は、社会的コミュニケーションの困難の度合い、制限された反復する行動パターンによる。

C:症状は初期の発達過程で見られなければならない(ただし、社会からの期待が本人の社会能力を超えるまで、十分に症状が発現しないこともある。またのちに獲得された対応方略によって隠蔽されることがある)。

D:これらの症状によって社会生活、職場、あるいは現在の生活における重要な領域において臨床的に有意な機能障害を起こしている。

E:これらの障害は知的障害や全体的な発達の遅れでは説明できない。知的障害と自閉症スペクトラム障害は往々にして併存し、自閉症スペクトラム障害と知的障害の併存症と診断されるが、社会的コミュニケーション能力は、発達レベルから期待されるより低くなければならない。

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。