挑戦を厭わない心を育てるには?
実験者はグループ1の子どもたちについて、さらに次のような見方を示しています。
・「頭がいい」と褒められた子どもは、実際に悪い成績をとると、無力感にとらわれやすくなる。
・難しい問題に取り組む際、歯が立たないと「頭がいい」という外部からの評価と矛盾する。このとき、やる気をなくしやすい。
・「頭がいい」という評価を失いたくないために、確実に成功できるタスクばかりを選択し、失敗を恐れる気持ちが強くなる。
たしかに褒める教育で育てられたはずの若い世代は、もっと自信を持って積極的に困難に挑戦する人が出てきてもよさそうなものなのに、かえって慎重になり、上のどの世代よりも保守的になっているように見えることすらあります。
海外に出ることを好まず、リスクが高いので恋人もつくらない、経済的な不確実性を抱えることになるので結婚にも消極的である、といった傾向が強まっていることを指摘する声もしばしば耳にします。
一方で、「努力のかいがあったね」と褒められたグループ2の子どもたちでは、ふたつの課題を選択させる場面で、やさしい課題を選択した子の割合が10%でした。またそれに続く課題でも難しい問題を面白がり、家に持ち帰ってやりたがり、最後の課題では、どのグループの子たちよりも多くの問題を解いたのです。
褒め方には注意が必要で、その子のもともとの性質ではなく、その努力や時間の使い方、工夫に着目して評価することが、挑戦することを厭わない心を育て、望ましい結果を引き出す、と研究チームは結論づけています。
ただし、もともとの能力があまりに高くて、平均的な子にとっては難しい問題でも、努力をする必要もなく解けてしまう子もわずかながら存在します。「いつも優秀な成績をとっているために、この実験で言えば80点で『頭がいいね』と褒められても、『80点で優秀』とはなかなか感じにくい」という子どもたちのことです。
こういった例外的な子を、どう伸ばし、どう育てたらよいのか。安易に褒めて、ウソをつき続けるような人生を送らせてしまうのではなく、どうしたら高い能力を生かすことができるのか。引き続き論じていきたいと思います。
全3回の1回目
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◆今回ご紹介の書籍はこちら
『新版 空気を読む脳』
「なぜ、相手や周りの気持ちがわかりすぎる人ほど生きづらいの?」――。
職場で学校で「空気」という暗黙のルールの中で生きる私たち。本書は、中野信子さんが日本人の心性と強みを、脳科学・遺伝学・行動科学で初めてひもとき、多くの共感を呼んだ大ベストセラーの新版です。
「正義中毒」「バッシング」「サイコパス」から「運のいい人の法則」まで、人間を鋭く分析。対処法や人生への生かし方をわかりやすく教えてきた中野さん。日本社会の暗黙のルールを知ることは、より良く生きるためには必須のことでしょう。空気を味方につける方法や空気の中でしたたかに生きる方法を、本書で初めて中野さんが伝授しています。


































中野 信子
東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。 2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会に生じる事象を科学の視点をとおして明快に解説し、多くの支持を得ている。 著書に『サイコパス』(文春新書)、『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)、『咒の脳科学』(講談社+α新書)など多数。
東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。 2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会に生じる事象を科学の視点をとおして明快に解説し、多くの支持を得ている。 著書に『サイコパス』(文春新書)、『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)、『咒の脳科学』(講談社+α新書)など多数。