赤ちゃんの成長 子どもたちが「運動」「言葉」「社会性」を身につける方法とは? 発達研究の第一人者が解説
【セミナーレポート】「うちの子、遅れてる?」を専門家が解説! 「0・1・2・3歳児の発達を知ろう」#1
2023.11.13
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
なぜ赤ちゃんは自然と歩き始めるのか
赤ちゃんはなぜ自然と歩くようになるのでしょう?
じつは、科学的にもわかっていないんです。
我々のような専門家は、よくネズミや犬、猫を使って実験をします。猫をどんなに促しても二足歩行をするようにはなりません。
人間がなぜ二足歩行をするかは解明されていない謎なんです。なぜかはわからないけど、どんな子も自然と歩くようになるんです。
中には筋肉や神経の病気などのために歩くのが遅れる子もいますが、病気のない子であれば、放っておいても勝手に歩き出します。
日本では歩き出す時期は平均で生後1歳1ヵ月というデータがあります。これは世界どこでもだいたい一緒です。
ですが、これは平均値なので個人差があります。この差が実はとても幅広い。
歩き始める時期には幅がある
ひとりで歩くことを独歩とか立位歩行と言いますが、早い子で8ヵ月で独歩を始めます。遅い子で1歳6ヵ月くらいです。どちらの場合も異常ではなく、定型発達です。
これが親にとっては悩ましい。「あの子が歩いた月齢をとうに過ぎているのにうちの子は……」と心配になってしまうわけですね。
どんな子も首がすわり、寝返りを打ち、おすわりし、つかまり立ちをし、歩く、という順番で独歩へと自然に至ります。
ハイハイをしない子どもがいる
「あれ? ハイハイを忘れてない?」と思われた方がいるかもしれません。じつは、学術的にはハイハイは独歩までのプロセスに入っていません。
というのも、一定の割合でハイハイを一切しないまま立って歩く子がいるからです。“シャッフラー”と呼ばれる、おすわり姿勢のまま移動する赤ちゃんが、ハイハイをしない代表例です。ですから、ハイハイをし始めない、もしくはハイハイをせずにつかまり立ちをしようとしているとしても、ご心配には及びません。
それから、「もうすぐ1歳になるけど歩こうとしない」といった不安の声もよく聞かれますが、焦らずに見守ってあげましょう。1歳半くらいまでには自然と歩くようになると思います。
言葉の発達が遅い〔質問2〕
1歳0ヵ月ですが、喃語なし、模倣なし、指差しなしと、他の子ができることがまだ一切できていないので、発達障害ではないかと心配しています
もうすぐ2歳なのに、二語文が出ません。何かできることはありますか?
もう少し見守ってあげて〔回答2〕
言葉は自然と話せるようになる
言語を身につける能力も生まれつきのものです。
基本的に、日本で生まれ育つ子は日本語を話すようになり、イギリスなら英語、フランスならフランス語を話すようになります。
世界中にさまざまな言語がありますが、どんな言語であっても共通する構造のルールがあることを、アメリカの言語学者であるノーム・チョムスキーさんが発見しました。どの国の環境であっても、どんな言語であっても、子どもは言葉を教えなくても自然と話せるようになるということを明らかにしたのです。
もちろん、読み聞かせや語りかけることは大切です。それは言葉の発達を促すというよりは、親子の愛着関係をつくるという意味で大切だと言えます。
「おてて見せて」ができれば大丈夫
だいたい1歳になるころに初めての言葉を発するようになります。話し始めた子どもがどれくらい言葉を理解しているかを、心理の専門家が研究しています。
「おてて見せて」と語りかけて手を出してくれたら理解しているし、「ワンワンどこ?」と聞いて犬を指差してくれたら理解していることがわかります。
その研究により、初めて言葉を発するようになった時点で、子どもは約70個の単語を理解していることがわかっています。逆に言えば、およそ70個の単語を理解するようになった時点で話し始めるのです。
そして、2歳を過ぎるあたりで二語文が出るようになります。二語文というのは単語の組み合わせです。でも、「ワンワン、ニャンニャン」と言ってもこれは二語文には当たりません。「ワンワン、きた」とか、「ニャンニャン、あっち」とか、名詞、動詞、形容詞などを組み合わせて意味を持つ、いちばん短い文を二語文と言います。
約200個の単語を理解するようになると、言葉を自由に組み合わせてこのような二語文を言い出すことが研究によりわかっています。この二語文をつくる能力も人間にもともと備わっている能力です。