利き手が決まるのはいつ頃? 脳科学的に見る左利きの子どもの育て方とは?

脳内科医・加藤俊徳先生に聞く「左利き」の子どもの育て方#1 利き手が決まるタイミング

脳内科医:加藤 俊徳

――加藤先生は小児科医としてキャリアをスタートし、多くの子どもを見てきました。利き手は何歳ごろまでに、どのように決まっていくのでしょうか? 

加藤俊徳先生(以下、加藤先生):
利き手は、右手と左手の両方を使いながら、2歳ぐらいまでの間に徐々に決まっていきます。

我が家の例で言うと、長男は右利きなのですが、最初に使ったのは左手でした。その後、だんだんと右利きにシフトして、2歳ごろにはほとんど右手しか使わなくなっていました。
次男はというと、右手と左手の両方を使いながら、最終的には左利きになりました。

人間の脳は、右脳から発達していくと考えられています。また、右脳は左側の筋肉や動きに関係します。そのため、最初に左手を使う子どもが少なくないです。

人間の脳は、特定の機能を早く獲得したほうが育ちやすいので、右でも左でも、利き手が早めに決まったほうが、知的発達、運動発達などあらゆる面で成長する過程で有利です。

反対に、発達期に無理に矯正することによって、言語発達が遅れるなどの例も出ています。

発達期に利き手を矯正すると、利き手がなかなか決まらないということも起こりえますので、「左利きかな?」と気づいても無理に矯正せず、まずは様子を見守りましょう。

そして、利き手が決まるのには、生活環境も大きく影響します。例えば、左手が使いやすい状態に導かれた場合は左利きになることが多くなります。なぜかというと、脳からの指令で、使いやすい方、または使える方を使うためです。

また、右脳か左脳に何らかの不自由が生じて、片方の手が使えなくなった場合、使える側の手をがんばって使いますよね。もし右利きに矯正する場合は、右しか使えない環境に置くことで、右利きになっていくわけです。

――我が家は夫婦ともに左利きで娘は左利き、息子は右利きという家族構成です。利き手に遺伝は関係してくるのでしょうか?

加藤先生:利き手を決定づける遺伝子は見つかっていないものの、左利きのいる家族に左利きの子どもが生まれやすいというデータはすでにあり、利き手と遺伝子の関係性は少なからずあると言えます。

先ほどの話にも関係しますが、利き手を決めるのは遺伝の可能性と、生まれたあとの環境の影響があると考えられています。

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右利きと左利きでは、脳内で使う回路が違う

――無理に矯正はしなくてもいいとのことですが、少数派の左利きは、右利き社会で多少の不便を感じることがあります。また、特に右利きの親御さんだと、左利きは矯正したほうがいいのではないか、と思ってしまうのではないでしょうか。

加藤先生:右利きの親御さんだったらそう思うかもしれません。しかし最近は、左利き用のグッズがたくさんあって不便を感じることは少なくなってきました。

また、実際のところ、ハサミなどの道具は、多少不便でも右利き用を左手で使うことは可能です。僕たち左利きの人たちは、不便に慣れているので、実はあまり気にしていなかったりもします。

あえて左利きで困った点を挙げるとするならば、いまだに書道は右手で書かせる先生が多いので、苦手に思っている子が多いかもしれません。

また、脳科学的な点で言えば、左利きと右利きとでは、脳内で言語処理をするときに使う回路が違うので、言語への影響が多少あると言われています。だから、右利きに比べて、左利きは言語化が苦手な人が多いです。

実際に、2019年、英国オックスフォード大学の研究者ウィバーグ氏らは、利き手に関係する遺伝子座(※1)を発見し、人口の約90%を占める右利きとは異なり、左利きの脳では、言語野(※2)の右脳と左脳の結びつきが強いと報告しています。
(※1)染色体やゲノム上における、それぞれの遺伝子が占める位置。ローカスとも言う。
(※2)言葉の理解や表現を司る脳の部分。前言語野(ぜんげんごや)、後言語野(こうげんごや)、上言語野(じょうげんごや)の3つの領域から成り立っている。言語中枢とも言う。

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