利き手が決まるのはいつ頃? 脳科学的に見る左利きの子どもの育て方とは?

脳内科医・加藤俊徳先生に聞く「左利き」の子どもの育て方#1 利き手が決まるタイミング

脳内科医:加藤 俊徳

――左利きは言語化が苦手と言われると、我が家のような左利き一家は少し心配になってしまいます。

加藤先生:「言語化が苦手」と言うと不安に感じるかもしれませんが、言葉は徐々に育っていく部分なので、小さい頃から気にする必要はありません。

人間の脳には右脳と左脳があり、類似の脳細胞が左右対称的にほぼ均等に分布していますが、右脳と左脳では、同じ脳細胞であっても、それぞれに違う役割分担があることがわかってきました。

例えば、感情系の機能を持つ左脳の脳番地(※1)では、自分の感情や意志、右脳の脳番地では自分以外の人の感情を読み取ります。視覚系の機能を持つ左脳の脳番地では、文字や文章、右脳の脳番地では絵や写真、映像などを読み取るという違う働きをしているのです。

(※1)脳番地とは、加藤先生が提唱する、同じような働きをする神経細胞の集まり(部位)と、その神経細胞群と関連している機能の総称。8つの区分に分類される。詳しくは第2回で解説。

左利き(上)と右利き(下)の人のMRI脳画像。白線部分が手を動かす脳の部位で、右脳は左手を、左脳は右手を動かす信号を出す。この画像から、左利きと右利きとでは脳の使い方が違うことがわかります。  画像提供:ダイヤモンド社(『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』より)

その中で、運動系の機能を司る脳番地は左右対象で、右脳は左半身を、左脳は右半身の筋肉や動きをコントロールします。

ただし、言語処理に関しては、左利き、右利きを問わず、9割以上の人が左脳で行うため、文字を書く場合、右利きは左脳で手を動かしながら左脳で言語処理をして、左利きは右脳側で手を動かしながら左脳で言語処理をします。

このように、右利きと左利きでは、同じアウトプットでも使っている回路がまったく違い、左利きは自ずと左右両方の脳を同時に使う訓練をしているということになります。

右脳と左脳、両方の脳を使うチャンスが多い左利きは、知らず知らずのうちに脳を活性化させているので、実際、ひらめきや豊かなアイデアを生み出せる、「直感」や「独創性」のある人が多く、「左利きは芸術家肌の人が多い」と言われる所以です。

無理に矯正せず、見守ることが成長につながる

――加藤先生ご自身は、幼い頃に自ら右手も使えるようにし、子どもながらに大変だったとうかがいました。

加藤先生:本当は左手でやりたいと思う動作を、右手で行っていたので、「右手を使わなきゃいけない」と思えば思うほど迷いが出て、自分の中に違和感をすごく感じていました。
だから当時の記憶はわりと鮮明に残っています。

なかでも当時、一番つらかったのは、左利きだとわかると「左利きなんだ!」とわざわざ言われることです。今から何十年も前ですが、当時、左利きは肩身が狭く、僕は箸を持つ手も左だったので、気になって人前でご飯が食べられなくなるほどでした。

矯正して、今ではほとんどのことを右手でもできるようになりました。ですが、実際は左手のほうが楽だな、と思うことも多いですね。

僕もそうですが、実際のところ、右利きの親御さんが思っているほど、左利きの子は不自由しているわけではないと思います。

脳からの指令に素直に従ったほうが、ストレスなく生活できますから、多くの左利きのお子さんのように「直しなさい」と無理やり言われるほうが、戸惑ってしまうと思います。

子どもが左利きだと気づいても、無理に右へ矯正せず、見守ってあげることが、脳も身体もいろいろな面で素直に成長していきますよ。

――◆――◆――

以前はコンプレックスと捉えられていた左利きも、最近は個性として尊重されるようになりました。
無理に右利きに矯正せず、左利きだと気づいたら、まずはそっと見守ってあげることが大切のようです。

第2回は、子どもの左利きの良い点を活かし、才能を伸ばすためにはどうすればいいのか? サポートの仕方について教えていただきます。

取材・文/石本真樹

2回目 名医が脳科学でズバリ解決!左利きの子どもの潜在能力の伸ばし方と苦手克服法
3回目 行動で利き手を使い分ける「クロスドミナンス」を脳内科医がすすめる理由とは?

加藤 俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。

『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』
加藤俊徳著
ダイヤモンド社/1300円(税別)

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かとう としのり

加藤 俊徳

脳内科医

左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。 1991年に現在では世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。 1995年~2001年まで、米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病や、MRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など、発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。 帰国後は、「加藤式MRI脳画像診断法」を用いて、1万人以上の脳を診断、治療を行っている。 加藤プラチナクリニック https://www.nobanchi.com/ 主な著書 『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』/ダイヤモンド社

左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。 1991年に現在では世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。 1995年~2001年まで、米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病や、MRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など、発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。 帰国後は、「加藤式MRI脳画像診断法」を用いて、1万人以上の脳を診断、治療を行っている。 加藤プラチナクリニック https://www.nobanchi.com/ 主な著書 『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』/ダイヤモンド社