発達障害の母は子育てでも人一倍苦労している
私は発達障害を中心に診療していますが、クリニックでは主に大人の女性と、子どもを診察しています。女性の中にはもちろん、子育て中の方も多くいます。
発達障害を持つ女性は、まず自分の特性をよく理解することをおすすめしています。そうすると、仕事や人づきあいはもちろん、子育てをするうえでも、「自分はこういう特性があるから、これが苦手なんだ。じゃあ、こうしよう」と、対策が取りやすくなるからです。
お子さんがいる発達障害の女性は、自分のことも大変だけど、それ以上に子どものことでとても苦労しているという方が非常に多いです。子どもが発達障害であるか否かにかかわらず、です。
例えば、ASD特性が強い人は、相手との距離やコミュニケーションが苦手という面があり、「子どもとどう寄り添えばいいのか、どう力になってあげたらいいのか分からない」と悩んでいます。
ADHDの特性が強い人は、毎日コンスタントに宿題を見る、歯磨きをさせる、といったルーティーン(日課)がどうしても抜け落ちてしまいやすい。それも大きな悩みになります。
きちんとしたいASDの母親 真逆をいくADHDの子ども
患者さんの中には母子ともに発達障害で、違う特性を持つケースもよく見られます。その場合、さらに混乱が生じやすくなります。
対照的な例としては、母親が、段取りどおりに物事を進めることにこだわるASD特性が強い人なのに対し、子どもはきっちりしたルーティーンが苦手なADHD特性が強いケースです。
母親は「なぜ日々のルーティーンがいつまで経ってもできないのか。なぜこんな行動をとるのか」と理解できない。母親は段取りを決めてやりたいのに、子どもは常にイレギュラーな対応を取ってしまうことで摩擦が起きます。
ASD特性でもある「○○は絶対こうでなければいけない!」というこだわりが強いタイプの人は、家庭内にこだわりを持ち込むことで問題が生じがちに。
例えば、子どもは遊んだら散らかす生き物ですが、母親は散らかっている状態が耐えがたい。
すると子どもや家庭全体の規制が大きくなって、子どもたちは不満を持つようになります。母親がすべてを仕切っているからのびのび遊べなくなるのです。
母子ともに同じ発達障害でもトラブルは起こる
母子ともにASDのこだわり特性が強い場合、それぞれのこだわりがぶつかってしまうこともあります。
子どものこだわりを親や周りの大人が無理やり“普通”に戻そうとすると、子どものこだわりはもっと大きくなることが知られています。
例えば、冬でも半袖短パンしか着たがらない子どもに冬服を着させようとするケース。「直さなきゃ」「正さなきゃ」「これを克服しなきゃ」と、母親が躍起(やっき)になればなるほど、子どもに負荷がかかってしまう。
一口にASDといってもさまざまなタイプがあって、こだわりも得意なことも関心も十人十色。同じASDの母子といえども理解し合えるわけでもなく、親子でこだわりがぶつかると大変な衝突が起きてしまいます。
発達障害の母親の中には、子どもとどう遊んだらよいのかと悩む方も少なくありません。
家事は段取りのようにシステマティックに捉えると理解しやすいのですが、子どもとかかわる、遊ぶことは情緒的なものです。発達障害の方は情緒的な交流自体がすごく苦手で、その必要性すら知らない方もいます。
例えば、食事・着替え・入浴などをさせることは一生懸命だけど、「今この子はこうしたいんだな、ママを求めているんだな」といった子どもの気持ちを感じ取ることがどうにも難しい。
中には、目の前のわが子がなぜ泣いているのか分からない、いつもつきまとってくる困った存在だと感じる人もいます。
そんなこんなで、発達障害を持つ多くの母親が「子どもとどう関わればいいか分からない」という悩みに行きつきます。そんな状態が親子2人きりで続くと、どんどん煮詰まり、ますますつらくなるでしょう。