難病を抱えた“小さな哲学者”が放つ今を生きるための言葉とは
#2 子どもの強さを理解するために大人が観たい映画 病気の子どもたちを追ったドキュメンタリー『子どもが教えてくれたこと』
2021.07.22
映画評論家:前田 有一
子どもへの理解を深めるために大人が観るべき映画を、映画評論家の前田有一さんがピックアップ。
第2回は、重い病気を患った子どもたちのリアルな姿や心の内側を映し出した、フランスのドキュメンタリー映画『子どもが教えてくれたこと』について解説してもらいました。
難病を抱えながらも強く生きる子どもたちの姿が胸に響く
重い病気を患う5人の子どもたちの日常と家族の姿を見つめたフランスのドキュメンタリー。肺動脈性肺高血圧症や腎不全などの病気を抱え、治療を続けながら毎日を精一杯生きる彼ら。辛くて泣きだしてしまうこともあるが、人生に楽しさや喜びを見出すことを忘れない。自らの命と向き合う子どもたちが発するメッセージと笑顔に心を打たれる感動作。
監督のフランス人ジャーナリスト、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンは、自身の娘を病気で亡くした過去を持っています。自らの経験をもとに、子どもたちの“今、この瞬間”を懸命に生きる力を映し出したこの作品。フランスで2016年に公開され、23万人を動員する大ヒットを記録しました。
「難病を抱える子どもたちの闘病生活を丁寧に取材したドキュメンタリーです。大人が想像する以上の強い心を持つ子どもたちの姿に、驚かされます。どんなに辛くても笑顔を絶やさない子どもたちは本当にすごい。毎日を懸命に明るく生きる彼らの姿から、子どものたくましさを感じとることができます」
ポイント1 人生を達観した“小さな哲学者”の言葉にハッとさせられる
「この作品に登場する5人の子どもは、それぞれ深刻な病気を抱えています。腎不全で透析をしていたり、皮膚が弱くてちょっと擦りむいただけで深刻なケガになってしまったり。10歳にも満たない子どもたちですが、生まれてからずっと死と隣り合わせの病気と闘っているわけです。残酷な事実を伝える映像に、まず衝撃を受けます。
ドキュメンタリーということもあって、治療の様子や日常が淡々と映し出されるのですが、不思議と重苦しさはありません。そして何より哲学者のように含蓄のある言葉を紡ぎ出すところがすごい!
例えば、肺動脈性肺高血圧症という病気を患っているアンブルちゃんという9歳の女の子。軽い動作で息切れや呼吸困難を引き起こしてしまうため、毎日どこに行くにも肺動脈を広げるためのクスリを注入するポンプが欠かせません。友達と同じような生活はできませんが、『スポーツがしたい!』と主張。
身体を心配しながらも、娘のやりたいことを応援するお母さんにも胸を打たれます。そして、アンブルちゃんは観ている私たちにこんなメッセージを送ります。『子どもは自分でいろいろなことができる。それなのにやらせないのは、子どもの可能性と喜びを奪っていることだわ。もっと命を信じなきゃ』
これ、すごい言葉だと思いませんか? 親からすれば、我が子がものすごく大変で辛い思いをしているわけですから、何でもしてあげたくなるし、先回りして助けたくなるのは当たり前です。
しかし、子どもは子どもなりに、自分の境遇を受け入れて、人生を懸命に楽しもうとしている。そんなことに気づかせてくれるアンブルちゃんの言葉に、親はハッとさせられますよね。
続けてアンブルちゃんは、『確かに危ないことはあるけど、それをやり遂げたときの喜びこそが人生の喜びなの』と言います。9歳の子どもの発言とは思えないような言葉が、シーンの随所にちりばめられています」
ポイント2 子どもの幸せとは何なのかを深く考えさせられる
「テュデュアルという8歳の少年は、神経芽腫という神経細胞にできるがんで闘病しています。この子の病状は深刻で、大きな手術も経験。辛い治療をしていて、闘病中に涙を流すことも。
そんな彼ですが、病状が落ち着いて、庭の手入れをしているときやピアノを弾いているときはとても穏やか。あるとき庭の手入れをしながら、こんなことを言うんです。
『病気でも幸せにはなれる。友達が死んだら長い間悲しい気持ちになる。でもそれは不幸とは違う。自分次第で幸せになれるんだ』
テュデュアルは自分だけではなく、周りにいる友だちも深刻な病気を抱えていることを知っています。せっかく仲良くなった友だちが先に亡くなるということも経験するなかで、彼なりに幸せとは何なのかを考えているわけです。
そして出した答えが、病気でも幸せになれるということ。痛みや治療で辛い日々を送りながらも、自分次第で幸せになれると言い切る彼の姿に、人間の普遍的な強さを感じずにはいられません」