夜間に往診してくれる…飼い主の「想い」に寄り添う獣医・梅原英輝さん
高校中退・10年のバイト生活を経て獣医師なった『夜の獣医さん』
2021.07.15
病院に行けない時間帯に家族が体調を崩すと、不安なものですよね。
それは、ペットでも同じです。
人間でも動物でも、自分にとって大切な家族が病気・怪我で苦しんでいる時、何もできず見守るしかないのはとても辛いこと。
こんな時、お医者さんが家まで来てくれたら……。
そんな想いに応えてくれる獣医さんがいるのを、あなたは知っていますか?
「夜間の往診専門」の獣医さん
高校を1ヵ月で中退、10年のバイト生活を経て北里大学獣医学部へ入学した梅原英輝(うめはら・ひでき)さん。
大学卒業後は、大手の動物病院に勤務したのち、飼い主の自宅に「動物病院」を丸ごと持ち込んで治療ができる『モバイル動物病院』を目指し 、2011年に梅原動物病院を開業。毎晩、依頼主のもとへ駆けつけています。
梅原先生はたった一人で車を運転し、何軒もの依頼元へ駆けつけます。夜間の往診は、緊急性の高いケースが多く、時にはその場で手術を行うことも。
「旅立つ命の尊さは皆同じ」と語り、動物と飼い主さんのケアを何より大切にしている梅原先生。彼のスマホには、今夜も次々に往診依頼の電話がかかってくるのです……!
高校を1ヵ月で中退、10年のバイト生活を経て獣医師に
※記事の最後で、梅原先生が獣医師になるまでの過程(書籍『夜の獣医さん』冒頭部分)を試し読みできます
◆悩んだ末にたどりついた「獣医師」の道
現在は、往診専門の獣医師として活躍中の梅原先生ですが、その道のりは平坦なものではありませんでした。
高校入学後は、自分の人生になやみ、たった1ヵ月で中退してしまいます。その後、趣味の活動をつづけながらアルバイト生活をはじめ、自らが進むべき道を探しました。
19歳のころ独学で大学受験資格を得ますが、まだ踏ん切りがつかず、大学受験はしないまま。しかし、20代前半でハンセン病療養施設を訪れたことをきっかけに、医療の道へ進むことを考えはじめます。そして、27歳で大学受験にチャレンジし、北里大学の獣医学科へ入学することになりました。
卒業後は、24時間診療を行っている大きな動物病院に勤め、救急外来を担当。たくさんの患者に対応していくうちに、動物を治すことだけでなく、不安をかかえた飼い主の「心のケア」の大切さに気づきます。
また、夜間の受診は逼迫した状況も多く、飼い主たちが夜中にペットを連れて、動物病院までやってくるのは本当に大変です。
ーー飼い主たちのもとへ直接行くことができれば、この問題を解決できる。
そう考えた梅原先生は、勤めていた病院を辞め、独立して往診治療を始めることを決意しました。
こうして、夜間の往診専門である「梅原動物病院」はスタートしたのです。
「ペットに寄り添う看取り」とは
「往診専門の獣医師」とはどんな職業なのでしょうか。梅原先生の活動を取材した書籍『夜の獣医さん』著者の高橋うらら氏が、お話を伺いました。
◆往診では、さまざまな動物、さまざまなケースを診療
高橋:8軒の患者さんの家を回って取材しましたが、その時感じたのは、一晩に何軒もの家を初めて訪問するだけでも、どんなに大変だろう、ということです。
梅原:幸い今は便利なカーナビもあり、着けなかったことは一度もありません。自動車が修理中だと仕事にならないので、車は何台か持っています。
高橋:最近の患者さんは、どんな動物が多いですか?
梅原:犬や猫が中心であることに変わりはありませんが、このごろは、デグー(ネズミににた小動物)がふえてきました。ウサギの人気は安定しています。フェレットは、数が減ってきたように感じています。やはり流行はありますね。
◆つらさをうったえるのは、本人ではなく飼い主さんというむずかしさ
高橋:本当は、設備のととのった病院に連れていったほうがいいのではないでしょうか。
梅原:飼い主さんの中には、注射をいやがってあばれると、もう打たなくていいとおっしゃる方もいます。勤務医だったときは、レントゲンを撮るときに動物が大きな声をだしたとたん、虐待されたのではないかと心配し、そのまま連れて帰ってしまった方もいました。
高橋:そうなると、思うように検査や治療もできませんよね。飼い主さんとのやりとりで、ほかに苦労されたことはありますか?
梅原:ときどきテレビなどに出演させていただいているので、どんな病気も治せる名医だと誤解されている方もいます。病院から見放されたけど、診てほしいとか。こういう場合は、高度な医療を行う病院ではないことを説明して、おことわりしています。
高橋:基本的には、救急診療をする病院ですものね。
梅原:診療のとちゅうで、死んでしまう場合もつらいです。
◆旅立つ命の尊さは、みな同じ
梅原:動物が最期をむかえる場合、おだやかに逝くこともあれば、苦しむこともあります。しかし、旅立った命の、どちらが尊いかといったら、もちろん同じです。
たとえ最期はつらい思いをしても、それまで生きてきた時間が重要です。飼い主さんが愛情を注いで、お互いのきずなが深まる。それが動物を飼う喜びです。
(『夜の獣医さん』巻末に収録の、対談から抜粋)
「獣医師は、動物を相手にする職業であることに間違いはありませんが、獣医師と動物の間には、必ず人間がいます」と語る、梅原先生。紆余曲折を経て獣医師の道を選び、さまざまな人生経験を積んできたからこその実感なのかもしれません。
今日も梅原先生は「動物と飼い主の心のケア」を何より大切にしながら、夜の往診を続けています。
『夜の獣医さん』試し読みをぜひチェック
この記事では、青い鳥文庫『夜の獣医さん』より、梅原先生が獣医になるまでの道のりと、開業するまでをえがいた冒頭を試し読みできます。ぜひ親子で読んでみてください。
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夜の獣医さん 往診専門の動物病院
文:高橋 うらら
東京・世田谷区で往診専門の動物病院を開業する梅原英輝先生。梅原先生は高校を半年で中退。その後も進路に悩み、獣医大学に入学したのは27歳のときでした。そんな先生が夜間往診専門の獣医師になったのには訳があります。冒頭は先生が獣医になるまでのおはなし、後半は先生の患者8匹とその飼い主さんたちの物語です。
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