行動で利き手を使い分ける「クロスドミナンス」を脳内科医がすすめる理由とは?
脳内科医・加藤俊徳先生に聞く「左利き」の子どもの育て方#3 利き手を使い分ける「クロスドミナンス」
2022.06.15
脳内科医:加藤 俊徳
――最近では、箸は左手、文字を書くときは右手というように、行動によって利き手を変えることを「クロスドミナンス」と呼び、話題になっています。
加藤俊徳先生(以下、加藤先生):クロスドミナンスは、矯正やトレーニングなどで後天的になる人が多いですね。
私自身も、もともとは左利きですが、右手も使えるようにしたことで、今ではお箸は左、文字を書くのは右と、後天的なクロスドミナンスです。
このようにクロスドミナンスの良さは、自分で自分を育てられるところにあります。
また、脳科学的にみると、両手を使うことで左右両方の脳が発達していきます。
もちろん、無理やり左利きを右利きに矯正する必要はありませんが、左利きの子どもには、もっと積極的に右手も使ってみて欲しいと思っています。
右手を使って左脳を刺激することで、ものごとを対比して考えられるようになりますし、思考力もグンと深まります。
右利き、左利き関係なく、両手を使えるようにするトレーニングは、どんどんしていって欲しいと思いますね。
【クロスドミナンスと両利きの違い】
クロスドミナンスも両利きも、両方の手を使いますが、クロスドミナンスは、お箸と包丁は左、鉛筆は右といったように、行動によって右手と左手の役割が明確に違います。
対して両利きは、右手と左手の両方を同じように使うことができる人のことを言います。
クロスドミナンスは右脳と左脳のバランスが取れる10歳から
――なるべく両手を使ったほうがいいとわかりました。そのためのトレーニングは、いつ頃から始めればいいのでしょうか。
加藤先生:左利きの子が、右手を積極的に使い始めたほうがいいタイミングは、ズバリ10歳。小学4年生以降からです。
脳はまず、右脳から成長し、言語能力を持つ左脳は4歳頃から発達していき、そして4歳後半からグンと伸びていきます。この頃からおしゃべりになるお子さんも多いでしょう。
さらに7歳ぐらいから活発に言語活動をすることによって、右脳の発達に左脳の発達が追いついていきます。
脳はMRIの画像で見ると、離れた場所にある神経細胞同士を結ぶ神経線維の束がまるで木のように見えることから、私は、脳の神経線維ネットワークのことを「脳の枝ぶり」と名付けています。
個人差はありますが、10歳前後になると、この脳の枝ぶりが左右均等になってくるので、この時期に右手を使い始めるのがいいと思いますね。
右手のトレーニングについてですが、例えば歯ブラシを右手で持ってみるなど、簡単なことからスタートしてみてください。トレーニングをすることによって、脳の発達が個性化(※1)されていきますよ。
家事などのお手伝いをしてもらうのもいいと思います。お膳を運んだり、床掃除をしたり。これらは、両手、両足を使って行いますよね。お子さんの両手両足を使う頻度を上げるのに、お手伝いはおすすめです。
子どもに家の手伝いをしてもらうことが脳の活性化につながりますし、お手伝いを通じて注意力や気遣う心を持つことも生まれます。
親御さんが「自分でやったほうが早いから」、と手伝わせることを面倒がらずに、お子さんには、たくさんお手伝いをしてもらってください。
ちなみに、次に脳の枝ぶりが左右対称になるのは、40歳代後半から50代前半。ある程度脳が育ちきって老化の一歩手前のときに左右対称になるんです。僕はここが人生で一番脳の老化がない全盛期だと思っています(笑)。
(※1)ユング心理学の概念で、“本来そうなるであろう究極の自分”になっていくこと。
左利きにしかない個性を伸ばしてほしい
――今までのお話から、利き手は関係なく、右手も左手も使うことが、脳をフルに使えることと言えますね。
加藤先生:そのとおりです。ものすごく時間はかかりましたが、左利きの僕もほとんどのことを右手でもできるようになりました。
やればやるほど変わっていく実感があったので、人間の脳がどこまで進化できるのかを、僕自身、両手を使いながら追究してきました。10代、20代、30代、40代と、利き手の感覚がどんどん変わり、50代、60代になってもクロスドミナンスが進化している感覚があります。
子どもの頃は、字を声に出して読むことに困難がある「音読障害」でしたが、右手で習字を習い始めたのをきっかけに、少しずつ右手が使えるようになり、クロスドミナンスが進化していきました。そして、地道に左脳を刺激し続けた結果、国語と英語の成績がさんざんだった私が、脳内科医になれたのです。
「音読障害」とまではいかなくても、「言葉がとっさに出てこない」というコンプレックスを持つ左利きの人は少なくないでしょう。その悩みを解決するためにも、両方の手を使う訓練を左利きの方にはおすすめしたいですね。
――最後に、加藤先生から、左利きのお子さんを育てるお母さん、お父さんたちへメッセージをお願いします。
加藤先生:左利きの親御さんが左利きの子を育てるのは我が事のように思うでしょうが、右利きの親御さんたちは悩むこともあると思います。
少数派ということで孤立することもあるかもしれませんが、左利きは素敵な個性です。「左利きのうちの子すごい!」と、その子の持つ魅力のひとつととらえ、焦らず、左利きのよさを伸ばしてあげていってくださいね。
――◆――◆――
筆者は、夫婦そろって箸は左、文字は右のクロスドミナンス。しかし、今年小学校4年生の娘は、完全なる左利きです。しかも今年10歳を迎え、右手のトレーニングをするタイミングとしてもバッチリなので、意識して生活の中で右手を使うことを取り入れていきたいと思いました。
また、左利きの少数派ということをあえて強みにとらえ、個性を伸ばす子育てをこれからもっとしていきたいです。
取材・文/石本真樹
1回目 利き手が決まるのはいつ頃? 脳科学的に見る左利きの子どもの育て方とは?
2回目 名医が脳科学でズバリ解決!左利きの子どもの潜在能力の伸ばし方と苦手克服法
加藤 俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。
『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』
ダイヤモンド社/1300円(税別)
加藤 俊徳
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。 1991年に現在では世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。 1995年~2001年まで、米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病や、MRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など、発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。 帰国後は、「加藤式MRI脳画像診断法」を用いて、1万人以上の脳を診断、治療を行っている。 加藤プラチナクリニック https://www.nobanchi.com/ 主な著書 『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』/ダイヤモンド社
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。 1991年に現在では世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。 1995年~2001年まで、米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病や、MRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など、発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。 帰国後は、「加藤式MRI脳画像診断法」を用いて、1万人以上の脳を診断、治療を行っている。 加藤プラチナクリニック https://www.nobanchi.com/ 主な著書 『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』/ダイヤモンド社