子どもの水の事故は近所の河川がダントツ! 守らせたい2大原則とは

河川・海・ため池・プール「子どもの水難事故」回避マニュアル#1

戻ろうと思っても、逆向きに川の流れがあると簡単に戻れない

「2020年8月、宮城県柴田町を流れる白石川で当時、中学生2名が川遊び中に流されて亡くなってしまいました。事故があった1年後に水難学会で事故原因調査をしたのですが、浅瀬が急に深くなったところで川岸から川の中央に向かう流れにハマって、溺れたケースとわかりました」(斎藤先生)

前述の例は中学生の事故ですが、川遊びをした場合、年齢に関係なく、浅瀬が続いているなら浅瀬に沿って川の中央へと進んで行くでしょう。

素人考えだと元の方向へ戻ればいいと思ってしまいますが、斎藤先生はそんなことができれば水難は起こらないといいます。川の深さや流れの影響を考えると、そう単純ではありません。

浅瀬でも川を進んでいくと急に深くなることも。深みと流れにハマると事故は起こります。  写真:アフロ

「まず、川の中央に向かって浅瀬が続いているということは、川岸から川の中央に向かって流れがすでにできていて、川底もそれに伴って隆起あるいは沈降し、深さが変化しているということです。

白石川の場合、子どもたちが流され始めたとみられる地点では浅瀬が急に深くなっていました。

戻ろうと振り返った直後に川底の砂が崩れて体のバランスが取れなくなり、川の中央に押し流されて溺れたと考えられます。川は後戻りできないところに人を誘うのです」

1秒間に10cmや20cmの流れ(流速/水の移動する距離)を例にとると、膝下ならまだしも、太ももや腰に水位が上がると大人でも動けません。また、人が溺れるところは急に水深が深くなる場所のため、危ないと思ったときには流れにハマってしまうケースが後を絶ちません。

子どもの川遊び、なにを教えたらいい?

河川は誰でも近づける場所です。子どもに「川に近づいてはダメ!」と伝えることは簡単ですが、それでも遊びに行ってしまう子はいます。

「暑くなってくると、水がとても気持ち良く見えるんですよね。だから子どもたちは川に近づいたり、水に手や足を入れたくなるんです。でもその時点で、川に『おいで、おいで』って呼ばれているんです。

子どもにはむやみに川に近づかない、入らないと言い聞かせるのが大前提ですが、いくら危険なことを並べ立ててもわかってくれないことがあります。

また、『親が一緒だから、川に行っても大丈夫』『親が一緒だから、どこで遊んでも大丈夫』も根拠がありません。大人だからといって水難事故の対処に精通しているわけがなく、いったん事故が発生すれば親子ともども犠牲になりかねません。

それを踏まえると、子どもに言い聞かせるべきこと、親も知っておきたいことは次のとおりです」(斎藤先生)

子どもに言い聞かせるべきこと

1) 子どもも大人も、むやみに水辺に近づかない
2) 川遊びをするなら膝下の水深までで遊ぶ

川遊びは膝下までの深さで!

川遊びは、膝下水深まで

川を渡るのが危険な理由

水かさが子どもの膝上を超えたら、膝下の水かさになる場所まですぐに戻りましょう。  動画提供:斎藤秀俊

「最近では水難事故防止のためにライフジャケット(救命胴衣)のニーズが高まっています。ライフジャケットを着ていればどこで遊んでも安心と思われがちですが、そんなことはありません。着用をしていても川遊びは膝下までの深さが基本です」(斎藤先生)


ここまで昨年までの水難の発生状況をはじめ、子どもの水難場所として最も多い河川のケースを見てきました。

水辺でのトラブルというと旅行先やレジャー先のなど、遠い場所での事故をイメージしてしまいますが、実は家や学校など近所で起こっています。日常の延長線上なので、より一層、子どもには言い聞かせることと、遊ぶなら条件を伝えることが大切です。

第2回は、海でのケースについて紹介。また河川でも海でも使える、水難に遭った場合の万が一の対処法を紹介します。


取材・文/梶原知恵

24 件
さいとう ひでとし

斎藤 秀俊

Hidetoshi Saito
長岡技術科学大学教授・工学博士

長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会会長。工学博士。 「水難は神の領域」と考えられていた水域での事件・事故について、工学、医学、教育学、気象学などのさまざまな観点から検証及び研究を行っている。 テレビや雑誌、Webにて発表される記事やコメントは、風呂から海、水や雪氷まで実験・現場第一主義に徹したものを公開。全国各地で発生する水難事故の調査や水難偽装・業務上過失事件での科学捜査においても多数の実績を誇る。 【主な著書や監修書】 『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)など

長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会会長。工学博士。 「水難は神の領域」と考えられていた水域での事件・事故について、工学、医学、教育学、気象学などのさまざまな観点から検証及び研究を行っている。 テレビや雑誌、Webにて発表される記事やコメントは、風呂から海、水や雪氷まで実験・現場第一主義に徹したものを公開。全国各地で発生する水難事故の調査や水難偽装・業務上過失事件での科学捜査においても多数の実績を誇る。 【主な著書や監修書】 『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)など

かじわら ちえ

梶原 知恵

KAJIWARA CHIE
企画・編集・ライター

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。