「円形脱毛症」患者の4分の1は15歳未満 “頭部に円形”だけではない【子どもの脱毛症】 毛の抜け方と治療方法とは[専門医が解説]

子どもの円形脱毛症#2 タイプと治療法

攻撃を抑えて毛根を再び目覚めさせる

円形脱毛症のなかでもっとも多くみられる「単発型」は、「約8割の方が1年以内に治癒する」(齊藤先生)という比較的軽度のもの。

治療をしなくても自然に回復し、「気づいたときには毛が生えそろっていた」というケースも考えられるため、過度に心配しすぎないことも大切かもしれません。

一方で、「発毛しても再発してしまったり、症状が重い場合にはなかなか発毛せず治療も長引いて苦労することも多い」(齊藤先生)ということも忘れてはならない点です。

「円形脱毛症の治療は本当に多岐にわたります。治療は、脱毛範囲・進行状況・患者の年齢(大人か子どもか)の3つの指標をもとに進めていきます。

たとえば、1ヵ所だけ小さく脱毛している場合、広がりの傾向がなければ3ヵ月ほど経過を見ることもあります。

自己免疫疾患で攻撃にあった毛根は死んでしまうわけではなく、“休眠状態”となるのですが、そうなった場合、たとえ治療を始めたとしてもすぐには反応しません。おおよそ3ヵ月ほどは“眠ったまま”の期間が続くと考えられています。

これは、円形脱毛症に限らず、通常の髪の毛が抜けて再び生えてくるサイクルと同様です。

ただし、抜けた部分の境目にある髪を軽く引っ張ってみて、ポロポロ抜けてしまうようであれば、進行中のサイン。早めの治療介入が望ましいです」(齊藤先生)

治療は大きく2つの目的に分かれます。

「ひとつは毛根への攻撃を抑えること。もうひとつは、毛根を再び目覚めさせることです。まだ攻撃されているのか、攻撃を受けて眠っているだけなのか。その状況を見た目で見極めながら治療を選択していくわけです」(齊藤先生)

治療法には、以下のような選択肢があります。

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●内服薬と外用薬
もっとも基本的な治療法。生薬に近いセファランチンやグリチルリチン酸などの飲み薬や、毛根を起こす作用のあるカルプロニウム塩化物や、攻撃を抑えるステロイドなどの塗り薬を使用する。

●紫外線療法
皮膚に特定の波長の紫外線を当てることで、免疫バランスを整える治療法。

●局所免疫療法
薬剤を使って患部に人工的にかぶれを繰り返し起こすことで免疫バランスを変化させ、発毛効果を促進させる。「ちょっと特殊な治療ですね」(齊藤先生)
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ステロイドと聞くと、なんとなく抵抗のある親御さんもいるかもしれません。しかし、「局所的に作用するように設計されているため、全身への影響はほとんどありません。自己判断で薬の使用をやめずに、医師の指導のもと最後まで使ってください」と齊藤先生。

ひとくちに円形脱毛症といっても、症状の現れ方や治療法はさまざまなことがわかりました。約8割が軽度の単発型ですが、残りの2割は個人差があるものの、長期の治療になることもあります。

「重度の場合だと、なかなか発毛せず治療に苦労することも多く、10年以上かかるケースもあります。

また、5~6歳という幼いうちに広範囲に脱毛している場合は、治療によって仮に髪の毛が生えてきたとしても、再発してまた抜け落ちるというパターンを繰り返し、最終的にすべて抜けてしまうこともあるというデータも近年報告されました。

ですが、先述の治療以外にもいろいろ方法はあるので、まったく手がないと思わずに、まずは受診をしてください」(齊藤先生)

「髪が抜ける」という病状による変化は、不安やストレスを感じさせるものですが、仕組みや治療について知ることで、前向きな一歩を踏み出すきっかけになるはずです。

3回目は、円形脱毛症が子どもに与える影響などについて伺います。

取材・文/稲葉美映子

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●齊藤 典充(さいとう のりみつ)PROFILE
なごみ皮ふ科院長。医学博士。北里大学医学部卒業後、国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長、横浜労災病院皮膚科部長を経て現職。専門は、皮膚血管炎や血行障害、脱毛症。

連載は全3回 (※公開時よりリンク有効)

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さいとう のりみつ

齊藤 典充

Norimitsu Saito
なごみ皮ふ科院長

医学博士。北里大学医学部卒業後、 国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長、横浜労災病院皮膚科部長を経て現職。 皮膚血管炎や血行障害、 脱毛症を専門とし、臨床経験も豊富。医療的な治療だけでなく、患者や家族の不安に寄り添う姿勢を大切にしている。 ●なごみ皮ふ科(神奈川県海老名市)

医学博士。北里大学医学部卒業後、 国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長、横浜労災病院皮膚科部長を経て現職。 皮膚血管炎や血行障害、 脱毛症を専門とし、臨床経験も豊富。医療的な治療だけでなく、患者や家族の不安に寄り添う姿勢を大切にしている。 ●なごみ皮ふ科(神奈川県海老名市)

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。