「就職率99.2%」工業高校オドロキの実績・大手企業就職や大学進学も〔専門家が解説〕選択肢【中学受験】だけじゃない

中学受験する・しない? 親の悩み・子どもの進路を考える #4

小林 美希

「大学生の可能性」心から納得いく就活は自分のなかに「解」がある

すべての画像を見る(全12枚)

キャリアデザインスクール「我究館」では、「第1志望」の内定にこだわり、就職活動の支援を行う。ただエントリーシートや面接対策を行うのではなく、自己分析を深めて必要なスキルやメンタルをトレーニングする「コーチング」を特徴とする。「絶対に内定したい」と心から思える業界や企業が決まると納得いく成果が得られるという。「良い会社」とは、決して有名・一流企業だけではない。

キャリアデザインスクール「我究館」の杉村貴子館長(右)と吉田隼人エグゼクティブ・コーチ(左)

──中学受験では親が「良い学校から良い会社へ」というレールを敷いているケースもあります。最近の大学生の特徴は何かありますか?

吉田隼人エグゼクティブ・コーチ(以下、吉田):やりたいことが決まっているか、ぼんやりしているか2つに分かれます。総合商社やコンサルティング会社、外資系企業が人気ですが、本当に入社して活躍できるのはそこなのか。

自分の気持ちより親の意向の影響が強いケースが少なくありません。そこをコーチングで自分の思いを引き出していきます。

親は「良い学校から良い会社へ」と思いがちですが、就職活動をするなかで、腹を割って親子で話をする必要も出てくるかと思います。

そもそも「良い」とは何か。ホワイト企業のホワイトって何? 大手って何? どんなイメージなのか。我究館では学生たちに、普段なにげなく発している言葉を定義づけるよう、コーチングしています。

自分にとって「良い企業」が30歳で年収1000万円得られることなのかもしれないし、残業がなくワークライフバランスが実現できることかもしれない。自分が成長できるようなチャレンジをできる会社かもしれない。

学生たちが、自分にとって「良い会社」とは何なのか、自分の言葉で説明できるようにしていきます。

杉村貴子館長(以下、杉村):給与が高い、有名企業だという条件面だけで決めてしまうと、早期離職につながりやすい。本当にやりたいこと、できること、わくわくするかが重要です。心から納得いく就活は自分のなかに「解」があるものです。

親に言われたから一般的に一流と言われる企業に就職するのではいけないのです。その先にある自分のキャリアを心から楽しめるかどうか。一般的な就職支援会社は「内定率100%」をうたいますが、就職するための塾に通うなら内定が出て当たり前。我究館では「第1志望の内定率」にこだわります。

学生の間に自分の人生をどう生きたいか向き合いトレーニングすることは、社会人になってから走り続けるために必要です。

就職は「やりたいこと」「できること」が判断基準

──我究館の2024年卒の第1志望内定率は93.7%。過去30年間に約1万人の卒業生を輩出し、就職先には伊藤忠商事、キーエンス、アクセンチュア、NEC、三菱UFJ信託銀行など大手も多いですね。我究館では、ワークシートに基づいて自己分析を進める4時間の基礎講義が7回、マンツーマンでの面談は無制限で受けられ、我究館のOB/OGやゼミ方式によるグループ就活を行っています。

杉村:
絶対に内定をとりたいと思う企業や業界がないと納得いかない。まずは、自分の過去、現在、未来から自分を知る。自分を知る「我究」、社会を知る「社究」、伝える「挑戦」が納得する就職のために必要です。

「やりたいこと」「できること」を判断基準として考えます。「◯◯をするときだけは時間を忘れる」という「やりたいこと」は過去・現在・未来で一貫性があります。「困難な状況であるほど、やる気が出る」という「できること」は、自分の強みや活躍するパターンや状況のことをいいます。

過去に自分はどういうことにワクワクしたか、今はこれが好き、など「好きなこと」を振り返っていくと、そこには必ず理由があります。ワクワクすることを忘れているだけかもしれない。過去を振り返って現在を見つめ、未来にどうつなげるか。自分の価値を最大限に伝えるには、今までがあって今の自分があり、これからどうしたいということが大事になります。

吉田:大手企業に入社しても、成長している実感を持てない場合があります。給与が高くても、このまま人生が終わっていいのか疑問に思うことも。いわゆる「大手企業」が9割の人にとって「良い会社」でも、自分にとってはどうなのか。社会人訪問をして、現場の社員の本音の思いを知ることは重要です。

自己PRで「今の自分をいかに大きく見せるか」に学生は注力しがちですが、そうではありません。等身大の自分が5年後、10年後にその会社で何をしたいか。夢を語ることが重要です。Being(なりたい姿)、Having(得たいもの)、Giving(与えたい影響)が重なると、やりたいことにつながっていきます。この「BHG」を実現できる企業や業界を探す。

変化する社会のなかで対応していくことができる力が求められています。自己分析をして考える力をつける。これは何歳であっても大切なことです。

もし何をしていいのか分からなくても、それは自分が夢中になれることに気づいていないだけ。どこかで必ず頑張っていることがある。自己分析ができなければ、他者を通した「他己分析」で知っていく方法もあります。自分らしさ100%で生きられる、頑張れる自分軸が何かを意識する。最初のキャリアを最高のものにしてほしい。

学校名・学部に縛られなくていい「努力は夢中に勝てない」

杉村:我究館の生徒は大学3年生が約8割以上を占めますが、もっと早い時期から「我究」を始めてもいいと思います。高校で偏差値を基準に大学入試を受けるケースが多く、入学した大学の学部で学んで就活へと進んでいきます。

学部という入り口に入り、気づいたら就活が始まっていたという学生の方が多く、それでは遅いと感じています。途中で留学する学生もいると思います。しかしそういった一つ一つのアクションの前に、ライトな感覚でいいので、我究(自己分析)をしておいたほうがいいと思います。

吉田:中学、高校、大学と進んでやりたいことが見つかるわけではありません。大学名や属する学部に縛られなくていい。今、何に興味がある、何に夢中になれるのか。

我究館では「努力は夢中に勝てない」と考えています。夢中になれることは、誰にでも1つか2つはあるものです。それを言語化するために自己分析が必要なのです。自己を理解して面接でアウトプットする。

誰にでも輝く瞬間や何かに夢中になる瞬間があり、それを見つける。この自己分析は小学生でも大学生でも社会人になってからでもできます。たとえ10代、20代で失敗しても未来は変えられます。どうしたら明日が楽しくなるか。Wellbeing(幸福であること)が大事なのです。

子どもを信じる力が試されている

この連載では「中学受験」をテーマに、第1~3回にかけて「就職氷河期を経験した親世代の意識」「学歴別の生涯賃金」について解説し、「子どものメンタルへの影響・変化」について学校関係者に取材してきた。最後となる今回(第4回)では、「中学受験以外の進路とその先のキャリアデザイン」について「工業高校のもつ可能性」「大学生のもつ可能性」について取材した。

中学受験をするか、しないか。受験者が増えれば焦る気持ちになるかもしれないが、冷静に考えてみてほしい。

小学生の子どもの「今」が、本当に受験勉強に明け暮れる時なのか。その子にとって、中学受験が本当に必要不可欠なことなのか。もっと大切な何かを失いはしないか──。知らないだけで、もっと多様な道があるのではないか。

中学受験が過熱するなか多勢に流されず、その子を強く信じる力が親にあるのか、試されているとも言えるだろう。

【『中学受験する・しない? 親の悩み・子どもの進路を考える』連載は全4回。第1回では「中学受験ブームとその背景」を解説。第23回では「中学受験と学校の現状」を教師・学校関係者に取材、第4回では、「中学受験とそれ以外の進路、子どもの人生を豊かにする選択」について深掘りしました】

年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活
この記事の画像をもっと見る(全12枚)
45 件
こばやし みき

小林 美希

Miki Kobayashi
ジャーナリスト

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年、日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社)など多数。

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年、日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社)など多数。