「体験型学習」に設立100年超えの私立小学校「自由学園」が挑戦 五感を使って全身で学ぶ「授業」の全貌
【小学校教育2.0】自由学園の実践#1「体験からはじまる学び(前編)」
2023.06.08
さまざまな教科に「体験」をちりばめた授業
「体験」を学びの土台に据える自由学園の小学校教育。具体的には、どのような授業を行っているのでしょうか。
「自由学園初等部では、さまざまな授業に体験的な要素を組み込んでいます。
先ほども少し触れましたが、『野菜の栽培』というひとつの体験をとっても、理科の要素や算数の要素など複数にまたがっており、ひとつの教科に限定することはできません。
複合的な学習になると、総合的な学習の時間を活用することも多いですが、教科の授業でも、できるだけ『体験』を出発点に学びを展開するようにしています。また、総合的な学習の時間と国語や算数などの教科をリンクさせる授業もよく実施していますね」(高橋先生)
例えば、2021年度の1年生の総合的な学習の時間では、学園内の竹林にて、タケノコの観察を行いました。タケノコの横に棒を立て、そこにテープを貼って生育状況を毎日観察していきます。
「タケノコってとても成長が早いんですよ。1日に約20cmも伸びるので、子どもたちはとてもびっくりします。その驚きが学びの原動力になるんですね。『今日もこんなに伸びたよ~!』などと言って、毎日の観察を楽しんでいました。
その後は、タケノコを通して感じたことを元に詩を作り、『国語』の授業につなげました。
こうした体験がなく、教室のなかだけで『詩を作ってみよう』と言っても、子どもたちはピンときません。よくわからないことをやらされると、何だか面倒だな……という気持ちが先行してしまいます。
しかし、タケノコの成長への驚きから出発し、柔らかいタケノコがだんだんと固い竹になっていく様子を毎日観察して、実際に触って感触を確かめ、匂いを嗅いで……といった一連の体験をすると、自分のなかにあるタケノコに対する思いや発見を、『詩』という形で表せばいいのだとわかります。
体験が柱にあることで子どもたちに実感が伴い、どの教科の学習も理解度や定着度が上がると感じますね」(高橋先生)
4年生は、総合的な学習の時間を活用して蚕を育て、理科、算数、国語、美術(図工)にまで学習をつなげています。
理科では蚕の成長を観察し、算数では蚕の体長と体重の記録を活用してグラフを作成、国語では作文を書く。また、美術(図工)の時間には、繭から糸を紡ぎ、作品も作りました。
体験から学びを展開することで、子どもたちはさまざまなことを実感し、そして楽しみながら知識を深めることができるのです。
「よくみる、よくきく、よくする」で学びを深める
自由学園では、「よくみる、よくきく、よくする」という教育目標を掲げています。これは、体験を単に「おもしろかった」「やってよかった」などで終わらせず、学びを深めていくための方法でもあります。
「『よくみる』とは、細かく観察してみること。視覚的に見るだけでなく、触ったり、匂いを嗅いだりすることも含まれます。『よくきく』とは、自分の考えだけでなく他の人の話にも耳を傾けること、傾聴すること。『よくする』とは、自分なりに考え、選択していくことです。
先ほどの1年生のタケノコの授業でも、『よくみてみよう、よくきいてみよう』と子どもたちに呼びかけながら、授業を進めていきました。観察を通して、子どもたちはいろいろなことに気がつきます。
『動物みたいだった』『毛布みたいで一緒に寝てみたかった』『烏骨鶏(ウコッケイ)に似ていた』、これらはタケノコを観察した子どもたちから出された言葉です。
これだけ聞くと『どういう意味?』と思われるかもしれませんが、実はタケノコには、触ると柔らかくてふわふわしている部分があるんですね。子どもたちが興味を持って『よくみた』結果として、こうした言葉が出てきたのだと思います。
さらに、クラスで感想を共有すると、自分とは違う感じ方をしている子がいる、自分は気がつかないことに気づく子もいるんだ、と実感できます。そうすると、他の子の見方も踏まえた上で、さらに自分の興味や考えを深められます。
『よくみる、よくきく、よくする』を繰り返すことで、自然と学びを深めていくことができるんですね」(高橋先生)