
「遊ぶように学ぶ」を実践したら1年生の学ぶ意欲が爆増! 公立小学校・山田先生の取り組み
学校の「当たり前」を考える 山田剛輔先生の実践#2 教科横断型の「プロジェクト」を始めた経緯
2025.03.14
山田先生が「プロジェクト」型授業を始めた理由
山田先生が2022年から継続して実践する「プロジェクト」。生活に近いテーマに教科の内容を落とし込み、子どもたちが学校内外で行動しながら学びます(詳細は第1回参照)。

従来型の授業と比較すると、ずいぶん大胆な変革に感じますが、踏み切った理由を山田先生に尋ねると、「何か特別なきっかけがあったわけではないのですが……」と前置きしたあとに、「幼児教育を学んだ影響が大きかったです」と話します。
ご自身の子どもが生まれたあと、以前から関心のあった幼児教育の勉強を始め、その後も研究論文を読んだり、幼稚園や保育園などの現場を訪問したりしてきました。
そこで見た子どもたちの姿が、強く印象に残っているそう。
「未就学の子どもたちは、当たり前ですけど教科の学習などまったく関係なく、夢中になって対象と向き合って遊んでいます。でも、その活動を詳細に見ていくと、実は数や言葉、自然など、小学校でいう『教科』の学びが含まれています。
そんなふうに教科の枠を意識せず、『遊ぶように学ぶ』のが本来の姿であり、小学校でも目指すべき学びのかたちではないかと思いました」(山田先生)
幼児期は主体的に遊び、周りと関わりながら成長していく一方で、小学校入学後は選択できる範囲が少なく、基本的には教師が決めたことを学びます。しかも、その内容は「教科」という名前で分断されている。こうした違和感を、山田先生は目の前のコーヒーを手に取りながら語ります。
「カップに入っている量が何mlあるかなと考えれば算数だけど、コーヒー豆はどこで生産され、どんな人たちが栽培しているのかを追うと社会、そのおいしさをどう伝えようか、と思案すれば国語かもしれません。
ですが、小学校の学習は、コーヒーにあたる『具体的なもの・こと』がないまま、計算方法や文章の書き方などが、それぞれ独立して教えられるわけです。本来学びの対象になる事象は一つであり、教科はその『視点』や『見方』にすぎないはずなのに……」(山田先生)
小学校でも幼児教育のように、教科にとらわれず子どもたちが「夢中で」「楽しく」学ぶ環境をつくれないか。山田先生はこうした思いを強くしていきます。
そんな中、2022年度に念願だった1年生の担任をすることに。子どもたちが幼児期に遊びの中で学んできたことをいかしながら、小学校でも主体的に学ぶための授業を行う絶好の機会です。
そこで思いついたのが、「教科にとらわれないプロジェクト中心の授業」でした。
子どもの「やってみたい」から始める
小学校入学直後の子どもへの指導は、「自分の席から動かず静かにする」「先生に言われたことだけを黙ってやる」といったものが多く、子どもの主体性を抑える方法になりがちです。
1年生の担任になった山田先生はこれらを採用せず、まずは子どもたちの声を聞くことから授業を始めました。
「初めての小学校生活にドキドキしながらやってきた子どもたちに、『学校でどんなことをしたい?』と聞くと、たくさんの希望が出てきます。それらに応えていくと、自然に学習につながる活動が生まれてくるんです」(山田先生)
まずは4月、子どもたちが「学校のいろいろなところへ行ってみたい」と話したことから、学校探検に出かけました。校庭や体育館、特別教室などさまざまな場所に行きましたが、子どもたちは漢字が読めないために、何をするところかわかりません。山田先生が説明しても、ピンときていない様子でした。
そこで後日、先生は子どもたちに、どうしたら教室のことがわかるかを尋ねたところ、「ひらがなで書いてあればわかる」という子どもたち。その答えを受け、先生は過去に卒業生が漢字でつくった教室表示を示し、「これのひらがなバージョンをつくってみない?」と提案します。
子どもたちも「いいよ~!」「やりたい!」と応え、こうして「教室表示プロジェクト」がスタートしました。
入学後に生活科の授業で「学校探検」を行うこと自体は一般的ですが、「今から学校探検に行きます」と先生が決めるのがスタンダード。しかし、山田先生はまずは子どもたちに何をしたいか尋ね、その声を受けて実施しました。その後も対話をとおして気づきを促しながら、ひらがなを学ぶという学習につなげていきます。

「教室表示プロジェクトは夏休みを挟んで数ヵ月かけて実施しましたが、子どもたちは最後まで目的を忘れることなく、楽しそうに取り組んでいました。僕が勝手に決めて子どもたちにやらせていたら、同じ結果にはならなかったと思います」(山田先生)