「遊ぶように学ぶ」を実践したら1年生の学ぶ意欲が爆増! 公立小学校・山田先生の取り組み

学校の「当たり前」を考える 山田剛輔先生の実践#2 教科横断型の「プロジェクト」を始めた経緯

プロジェクトは、教科内容を自然な形で学べる

教科学習の観点から「教室表示プロジェクト」を見ると、組み込まれている教科・単元はすでに紹介した生活科(学校探検)、国語(ひらがな・カタカナ)にとどまりません。

教室表示の材料には、校内の木の枝(前年に倒れてしまったもの)を使用しましたが、切った木を数えるときに、算数の単元「20よりも大きい数」を学びました。さらに、完成した教室表示を飾るにあたって、校長先生や特別教室の先生に確認する必要がありました。このとき、国語の「聞く・話す」という単元を使って、教室表示をつくった理由をまとめ、伝えるための言葉を考えました。

子どもたちは教室表示を完成させたあとも、ポスターや校内放送、動画などを使ってその存在を全校児童に知らせるなど、想像以上に積極的に活動しました。

プロジェクトに取り組む子どもたちは、授業だから仕方ない……という『やらされた感』とは無縁のように見えました。『教室表示をつくる』という動機がなければ、ここまでモチベーション高く取り組めなかったと感じます。

やりたいことがあるから熱意を持って学ぶ、という当たり前のことを再確認できました」(山田先生)

次年度の一年生は、教室表示を見て「あっ、ここ保健室だ」と理解できました。教室表示は学習後時間が経過しても、その成果を実感できる活動となりました。  写真提供:山田剛輔氏
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子どもたちとつかんだ「確かな手ごたえ」

教室表示プロジェクトのあとも、山田先生は1年生とともに、さまざまなプロジェクトを行いました。どれも子どもたちの声を聞くことから始め、先生が提案しながら教科の内容を落とし込みました。

「最初は、『思い切ってやってみた』というのが正直なところです。うまくいくという確信があったわけではありません。

だけど、実践してみると、子どもたちはとても意欲的に、いきいきと学んでいました。

その姿を見て、確信を得たんです。小学校でも教科の枠にとらわれることなく、リアルな状況の中で学ぶことができると」(山田先生)

こうした1年生での経験が、第1回で紹介した4年生の実践につながっていきます。1年生と4年生では学習内容も量も異なりますが、工夫次第で「具体的な状況」の中で学ぶ授業は十分できる。山田先生はそう自信を持って、実践を継続しています。

4年生が地域の商店街でプロジェクトを行う様子。  写真提供:山田剛輔氏

「届ける先」がある学び

山田先生の実践に伴走し、年間50日以上(2022年度)も授業を見てきた幼児教育専門家の久保寺節子先生(青山学院大学教育人間科学部特任教授)は、「プロジェクト」の意義を次のように語ります。

山田先生の実践には、学んだことを『届ける先』があります。

教科書内の架空の世界ではなく、リアルな現実の中で学びが展開されているからこそ、その対象となる『人』や『こと』が存在する。そして、届けたあとには喜ばれたり、お礼を言われたりといった反応があり、子どもたちは学んだ意味を理解し、やってよかった、などと充実した気持ちを実感できるのです。

教科内容を『教える』授業をしていたら、子どもたちがこうした『手ごたえ』を味わうことは難しいでしょう。

また、山田先生が子どもの気持ちや行動にじっくり向き合い、受け入れ、よいところや成長を認める声かけをしていることも大きいと感じます。そうした環境で、子どもたちはのびのびと学び、臆することなくやりたいことを行動に移していました」(久保寺先生)

教科横断で身近なテーマから学ぶという授業形式だけでなく、子ども自身が感じたことや考えたことを大切に、子どもの視点に立って授業をつくる山田先生の姿勢が、充実した学びにつながっているのです。

第3回は、2024年度に担任した4年生のクラスで起こった変化、変わる子どもと教師の関係性などについてうかがいます。

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【山田剛輔 プロフィール】
茅ヶ崎市立香川小学校総括教諭。2005年に教員になり2024年で20年目。2018年から香川小学校に勤務。2024年9月『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版/共著)を出版。神奈川県「第1回いのちの授業大賞」優秀賞受賞。

山田先生の共著『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版)には、プロジェクトの実践内容が詳しく紹介されています。

取材・文 川崎ちづる

【学校の「当たり前」を考える 山田剛輔先生の実践】の連載は、全4回。
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※公開日までリンク無効

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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。