発達心理学者がすすめる! 小学校入学前にするべき幼児期の「語りかけ」

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#4「日常生活で育む生きた言葉の力」

「数の概念」も会話のなかで身につく

普段の会話の中で数や量について意識的に話すことも、効果的だといいます。

「『クッキーを2枚食べよう』『車が3台停まっているね』など、数を入れて子どもに話しかけるようにしてみるといいでしょう。また、一緒に歩いているとき、犬は何匹いたか、信号は何個あったかなど、ゲームのように数を数えていくのも楽しいですね。

たくさん話題にすることで、子どもは数や量について自然に注意を向けるようになり、『感覚的』に把握できるようになります。こうした生活体験を通して、子どもは『数の概念』を身につけるのです。

ポイントは、会話の中で、ちょっとしたコメント程度に触れることです。いつもいつも時間や数、量のことばかり話していると、子どもはうんざりしてしまいます。思い出したら口にしてみる、その程度で十分です」(今井先生)

「言葉の力」や「思考力」を育もう! と熱心になりすぎずに、対話を楽しみ、子どもの好きなこと、興味のあることを共有する。そうすることで、自然と会話が盛り上がり、そこから子どもはたくさんのことを学べるのです。

好きな絵本を何度も読もう!

幼児期の絵本の読み聞かせも、言葉の力を育てる上でとても有効です。

「絵本の読み聞かせは、子どもの語彙を豊かにすることが、多くの研究からわかっています。

日常生活で使う単語は意外と限られていますから、絵本に出てくる言葉を読んだり、そこからお話を広げていったりすると、自然とたくさんの言葉に触れることができます。

子どもの語彙は絵本でぐんと広がります。  写真:アフロ

どんな絵本を選んだらいいのか迷ってしまうかもしれませんが、基本的には子どもが興味を持った本を読んであげるのがいいでしょう。必ずストーリーがあったほうがいい、ということもないので、物語が好きな子は物語を、図鑑が好きな子は図鑑を読んであげればいいと思います。

図鑑などの資料的な絵本であれば、書いてあることをそのまま読むだけでなく、そこに載っている乗り物や動物の特徴や違いを話すことで、子どもはたくさんの言葉を使うことになります。絵本の中から動詞や形容詞をたくさん聞くことは、語彙を増やすだけでなく、#2で説明したような『コミュニケーションを取る以外の言葉の力=相対的な見方や自分で枠組みを探す力』を身につけることにもつながります」(今井先生)

いろいろな種類の絵本を読んであげたほうが、言葉の力は育つのでしょうか。

「読んだ本の冊数(種類)が多ければいい、というわけではありません。一番大切なのは、子どもが楽しいと感じることです。

子どもはお気に入りの本を繰り返し読むのが大好きですから、前に読んだ本をまた読んでほしいといったら、何度でも読んであげてください。人は『繰り返し』からたくさんのことを学びます。好きな本なら、10回読んでも20回読んでも、一回ごとに別の捉え方ができ、そのたびに楽しむことができるものです」(今井先生)

では、絵本を読んでくれる動画やデジタル絵本などでも効果があるのでしょうか。

「動画などを流すと、子どもは夢中で見ていますよね。でも、子どもはデジタルコンテンツからあまり多くを学べないことが、アメリカの研究者の実験から明らかになっています。

動画やデジタル絵本は、常に同じ情報を一方的に流しているわけですが、子どもはそれだと内容を消化できないのです。大人が絵本を読み聞かせるとき、いつも同じように読んでいるつもりでも、間合いや抑揚、イントネーション、表情など、実は毎回少しずつ違っています。そうした1回1回の変化こそが、子どもの言葉の学びに有効なのです。子どもは『生身の人』と関わる中で、言葉を発達させていきます」(今井先生)

そして、絵本の読み聞かせは、「小学生以降の読書習慣につながる」と今井先生は話します。

「幼児期に絵本でたくさんの言葉に触れた子どもは、もちろん語彙も豊富ですが、何より本がとても好きになっています。読書の楽しさを知っていれば、子どもは『自分で読めるようになりたい』と思い、知らない単語があってもまわりの大人に聞くなどして、読書を進めていきます。

読書を続けることで自然と語彙が増え、同時に『思考力』も鍛えられます。小学校以降で語彙がどれだけ育つかは、読書習慣があるかどうかに大きく関係しているのです」(今井先生)

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