「勉強しなさい」が子どものやる気を潰す…元マッキンゼーの教育者が指摘する「親の思い込み」

【今こそ学力観のアップデートをするとき】子どもの好奇心が爆発する親の接し方#1 子どものやる気を奪う大人の思い込み

大人が抱く「壮大な思い込み」とは?

子どもの好きなことを否定したり、逆に望まないのに与えすぎたりしているのは、家庭だけではありません。日本の一般的な小学校でも、子どもの好奇心を抑え込む学習を行っているのが現状です。

「小学校に入る前の年ごろには、それぞれ好きなことやお気に入りの遊びがあると思います。恐竜や魚が好きな子もいれば、ブロックで何かを作り出すのが好きな子もいるでしょう。そういった興味のあることを深めていく学びなら、子どもたちは喜んで自分から取り組みます。

でも、多くの小学校では、興味のあることは全然やらせてもらえません。『音読しなさい』『計算を覚えなさい』とやりたくないことを強制され、さらにテストでペケをつけられたりすることでやる気はどこかへ消え、勉強自体が嫌いになってしまうのです」(炭谷氏)

興味のないことばかりだと、授業や学習が嫌いになってしまいます。  写真:アフロ

これは、親が『宿題やりなさい』と強制するメカニズムとまったく同じ。どうやら、学校でも家庭でも、大人が無意識のうちに子どもの意欲を失わせてしまっているようです。なぜこんなことになってしまったのでしょうか。

子どもには、(本人の意志にかかわらず)知識や情報をたくさん与えたほうがいい。こうした“壮大な思い込み”があるからでしょう。

繰り返しになりますが、子どもにとってやりたくないことや興味のないことをいくら与え続けても、やる気は湧いてきませんし、主体的な子どもは育ちません。むしろ、無気力状態にして、子どもたちから学びや成長の機会を奪っているのです」(炭谷氏)

まだまだある 子どものやる気を奪う大人の言動

では、子どもの意欲を摘むことなく、勉強に前向きに取り組ませるためには、どうしたらいいのでしょうか。

「最初の話に戻りますが、子どもが本来持っている好奇心や探究心は、それぞれが好きなこと・やりたいことを追求するときに発揮され、集中力とともにぐんぐん伸びていきます。

みなさんお悩みかもしれませんが、ゲームをしているときや動画を見ているとき、漫画を読んでいるときなどは、子どもは時間を忘れて夢中になっていると思います。まずはこうした、好きや好奇心から生まれるプラスのエネルギーを止めないこと、それが何より大切です」(炭谷氏)

とはいえ、ずっとゲームや動画ばかりでは、結局やるべきことには手がつかない状態が続いてしまいます。放っておいて勝手に勉強するとは思えませんが……。

「もちろん、単に放任すればいいというわけではありません。子どもの好奇心や探究心を引き出し、自分の中の『やりたい』をエンジンに動いていけるようになるためには、大人の適切な関わり、サポートが不可欠です。

それにはまず、親御さんや周りの大人が、これまでの考えを大きく変えることが不可欠です。『子どもにはたくさん与えたほうがいい』という考えを捨てることは、その第一歩です。

その他にも、大人が子どもの成長のために必要と思っている常識の中には、実は子どものやる気を奪っているものがたくさんあるんですよ。

たとえば、競争がないと子どもの学力は伸びないと考える人は多いですが、そのデメリットは非常に大きいのです。テストでバツを付けられることで『自分はできない、ダメなんだ』という意識が高まり、やる気をなくしてしまう子どもがたくさんいます」(炭谷氏)

テストや成績で子ども同士を比較・序列化することは、劣等感を強調することにつながってしまう側面があります。自分は劣っていると感じるとますますやらなくなり、さらに苦手になる……。悪循環にはまってしまうのです。

こうしたマイナスの影響から、デンマークでは小中学校でのテストの実施を法律で禁止しています。炭谷氏はマッキンゼー時代にデンマークに2年間赴任し、そこで展開されている主体性を大切にする教育に感銘を受け、帰国後にラーンネット・グローバルスクール(以下、ラーンネット)を開校しました。

「日本では当たり前だったことが、デンマークではまったく異なる視点で捉えられていました。デンマークでは、『苦手』という意識があまりありません。テストなどで他人と比較されることが少なく、自分のペースでじっくり取り組むことができるため、最初はあまり得意でないこともだんだんできるようになるからです」(炭谷氏)

デンマークで出合った教育哲学をラーンネットに取り入れ、炭谷氏は一人ひとりの個性や違いを尊重し、良いところを伸ばしていく実践を行ってきました。

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