約20年ぶりの新設校は起業家を育てるために起業家が立ち上げた高専だった!

高専の知られざる魅力 #5 注目すべき高専6選「神山まるごと高専」「旭川工業高等専門学校」

最先端で活躍する起業家やアーティストを神山町に招いて講義をおこないます。時には学生とともにご飯を食べ、夜は焚き火を囲んで語り合うことも。  写真提供:神山まるごと高専
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未来のエンジニアを育てる、5年制の高等教育機関「高専」連載全5回。3~5回目は、特徴あるカリキュラムで注目される高専6選をピックアップしてご紹介。

5回目は、未来を見据えた教育に着手する高専2校です。2023年4月、19年ぶりの高専新設が話題を呼んだ「神山まるごと高専」では、クリエイティブ・ディレクターの村山海優さんに、「旭川工業高等専門学校」では人文理数総合科の松原英一先生にそれぞれ取材をし、具体的な取り組みについてお話を伺いました。

(高専連載は全5回。#1#2#3#4

テクノロジー×デザイン×起業家精神を主眼とした全寮制高専

神山町は四季折々の自然を感じられる山あいの町。寮と校舎の一部は旧神山中学校の校舎を改修して建てられています。  写真提供:神山まるごと高専

2023年4月、徳島県の山あいの町、神山町に開校した「神山まるごと高専」。文科省認可としては19年ぶりの高専の新設校であり、「テクノロジー×デザイン×起業家精神」をコンセプトに掲げ、話題を呼んでいます。

全校学生数は44名(2023年5月1日現在)。学科やコース別の選択制ではなく、全員がさまざまな分野を“まるごと”学ぶ方針がユニークです。

──2023年4月入学の1期生の入学志願者数は約9倍と注目を集めました。ほかの高専や教育機関と比べて、どんな特徴がありますか。

村山海優さん(以下、村山さん):「神山まるごと高専」は、人間の未来を変える起業家を育てるために、起業家たちが立ち上げた高専です。理事長はIT企業「Sansan」の創業社長である寺田親弘が務め、校長は自身も高専出身の「ZOZO NEXT」取締役・大蔵峰樹です。

講師陣にも、クリエイターや起業家がたくさんいます。たとえば、知的障害のある作家やアーティストと契約して、プロダクトを展開する「ヘラルボニー」代表の松田崇弥氏、東京2020パラリンピックの開閉会式のステージアドバイザーなどを手がけた「認定NPO法人スローレーベル」のクリエイティブ・ディレクター栗栖良依氏など。

また、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育だけでなく、優れたプロダクトやテクノロジーを支えるのは優れたデザインであるという考えから、デザインやアートの教科にも力を入れています。

アートを含めデザインを通して、社会のニーズや課題を本質的に捉えることを目的とした授業が取り入れられています。  写真提供:神山まるごと高専

授業料や全寮制の寮費が実質無料

──神山まるごと高専へは、日本の名だたる企業11社から、100億円の出資および寄付があり、授業料や全寮制の寮費が実質無料という点も驚きました。便利な町の中心ではなく、のどかな山あいにあえて学校をつくろうと思ったのはなぜですか。

村山さん:一つは自然の中で学んでほしいということ。これは、これから社会を動かす人は、自然や地球との共生が欠かせないという考えからです。神山町は、それを肌で感じてもらえる美しい里山です。

もう一つは、神山がイノベーティブな町であるということ。たとえば、サテライトオフィスという常識がまだないころから、全国の企業が集い、今や10社以上がここに拠点を構えています。

また「神山アーティスト・イン・レジデンス 」(※通称KAIR。国内外からアーティストやクリエイターを一定期間招へいして、滞在中の活動を支援する事業のこと)を行うなど、非常に柔軟で外に開かれています。町の人々と交流しながら共に学ぶ。これら2つのことは、未来の学びの舞台としてふさわしいと感じ、この地を選びました。

地元の人の困りごとを解決するのもカリキュラムのひとつ

──アントレプレナーシップ(起業家精神)教育について具体的に教えてください。

村山さん:起業家教育の第一歩として、私たちは「隣人と生きる」ことをすごく大事にしています。というのも、自分が何をしたいか、何を起こすかも大事ですが、その原点になるのは周りで暮らす人の話、困りごと、人生や体験談などをたくさん聞くこと。そこからインスピレーションを受け、自分のやりたいことを見つけ、人に施すといった実際の行動に繫がると思うからです。

わが校独自の起業家育成カリキュラム「ネイバーフッド概論」 では、地元の一般の方にも授業をしてもらいます。地域の企業が課題にしていること、町での困りごとなどを提案してもらい、解決に向けての話し合いをグループワークとして進めていきます。

ビジネスの基本や起業の仕方だけでなく、コトを起こす本当の力として、他者を巻き込む力やコミュニケーション力、失敗を糧に前に向かう力を、実践を通じて身につけてもらいます。

「基礎プログラミング」の授業風景。「テクノロジー」のカリキュラムではモノをつくる力の基礎をしっかりと身につけます。  写真提供:神山まるごと高専

最前線の起業家と食事をして焚き火を囲む

村山さん:もうひとつ、「Wednesday Night(ウェンズデー ナイト)」というのを設けています。これは、毎週水曜日、起業家2人をお招きし、講義をしていただきます。講義後は、学生と一緒に食事をし、焚き火を囲んで夜遅くまで語り合うこともあるんですよ。

「Wednesday Night」の焚き火の様子。  写真提供:神山まるごと高専

村山さん:これまで、「星野リゾート」代表の星野佳路氏、自然派コスメティックブランド「SHIRO」代表の今井浩恵氏。また、建築家や音楽家といったクリエイターの方など、2023年度は約60人の多彩な方に来ていただきました。

食事や焚き火を囲んで、ざっくばらんに話をすることで、「起業家」が当たり前に身の周りにいる環境を感じてもらうことを目指しています。学生も「高校生のときはどんな子どもだったんですか」というような質問や、悩みを相談することで、「起業家も自分と同じ一人の人間なんだと感じられてうれしかった」などたくさんの反応があり、手ごたえを感じています。

大人が大人にならないことが大事

──2024年4月から2期目を迎える「神山まるごと高専」のこれからの展望を教えてください。

村山さん:開設してからの1年間は、高専の「常識」を取っ払い、「まずはやってみること」を諦めずにくり返してきました。「大人も、もがきながら学校を作っているんだ」と学生たちも感じていたと思います。

失敗は誰でも怖いものですが、好奇心は恐怖に勝るものであると行動で伝えていきたい。「大人が大人にならないこと」を大事にしていきたいですね。

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