「さかなクン」が教授の「東京海洋大学」に潜入 幻の食材「うみがめ」の肉を食べてみた

学園祭で「かめ煮」を出店する「うみがめ研究会」をレポート

ライター:山口 真央

突然ですが、うみがめを食べたことはありますか。

じつは国内では、古くから食べる習慣のある小笠原諸島か、高級なフレンチレストランなど、限られた場所でしかうみがめを食べることができません。まさに「幻の食材」なんです。

しまの自然や文化、名産を紹介しているイラスト図鑑『しまずかん』で小笠原諸島では「ウミガメ寿司」が食べられると聞き、興味が高まりました。

東京海洋大学、うみがめ研究会の「かめ煮」。
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『しまずかん』(講談社より刊行)から引用
『しまずかん』(講談社より刊行)から引用

しかし、さかなクンが教授を務める東京海洋大学で、気軽にうみがめを食べられるとの噂が! 年に一度の学園祭で、うみがめ研究会が「かめ煮」を販売しているというのです。

はたして、うみがめはどんな味なのでしょう。また、うみがめ研究会とはどんな活動をしているのでしょうか。東京海洋大学の4年生で、うみがめ研究会の代表の岸本将光さんにお話を伺いました。

東京海洋大学ならではのルートでうみがめの肉を入手していた!

うみがめ研究会代表の岸本将光さん。うみがめの剝製とともに。

──本日はよろしくお願いします! 東京海洋大学の学園祭に初めて来ましたが、ダイオウグソクムシが食べられたり、「グッピーすくい」ができたりと、特殊な模擬店がたくさん見られました。

岸本:よろしくお願いします。東京海洋大学ならではのお店がいっぱいありますよね。僕は見慣れてしまいましたが、初めての方は驚かれます。

──うみがめ研究会ではうみがめの肉を使用した「かめ煮」を食べられると聞きましたが、本当ですか。

岸本:はい。食べられます! 僕たちうみがめ研究会では、うみがめを煮込んで作る「かめ煮」を販売しています。整理券を配布するほどの人気なんですよ。まずは召し上がってみてください。

うみがめ研究会の模擬店。「背中の甲羅以外全部入り!」とある。
模擬店のなかには、煮込まれたかめの肉が!

──これが噂の「かめ煮」ですね! 正直、素人にはドキドキするビジュアルですが、どんな味付けなのか聞いてもいいですか。

岸本:味噌と鶏がらスープの素を少しだけ入れていますが、あとはかめの出汁の味です。いつもかめの肉を譲っていただく、小笠原諸島の漁師さんに味の付け方を教わりました。はいどうぞ。

いよいよ「かめ煮」を食べてみる。

──ありがとうございます! では、いただきます。……んん! とっても美味しいですね! 豚汁のようにコクのある味がします。かめの食感はプルプルとしています。

岸本:そうですね、もつやホルモンの食感が近いかもしれません。かめ煮には、アオウミガメの甲羅以外の体の部位がほとんど入れています。これも、小笠原諸島から教わったやり方です。

──ごちそうさまでした。内側からポカポカに温まって、元気の出る味ですね。そもそも、どうして東京海洋大学で、うみがめが食べられることになったのですか。

岸本:うみがめ研究会でかめ煮を出し始めたのは、2014年からです。部員が小笠原海洋センターにうみがめの解体などを見学させてもらったとき、たまたま学園祭の話をしたら「かめ煮を作って出してみたら?」と教えてもらったそうです。

最初のうちは、部員が24時間かけて食用のうみがめ肉を船で運んできたり、小笠原諸島からうみがめの缶詰を買ってきて出したりしていたのですが、現在は、先ほどお話しした小笠原諸島の漁師さんが、肉を冷凍して送ってくれるようになりました。

うみがめ研究会が模擬店で配っているチラシ。かめ煮の肉が、どの部位なのかを調べながら味わうことができる。

──小笠原諸島秘伝の味付けだったのですね。しかしどうして、小笠原諸島ではうみがめを食べる習慣があるのでしょう。

岸本:諸説あるそうですが、昔ヨーロッパの船が小笠原諸島にやってきたとき、ヨーロッパの人が長い航海のタンパク源としてうみがめを食べていて、そこから伝わったのではないかという話があります。

僕らうみがめ研究会では、小笠原諸島の漁師さんが商業目的で獲ったうみがめから、いらない部位をもらって研究しています。うみがめの内臓の中にある海藻や生物を調べることで、うみがめがどんなルートを辿ってきたかを特定することができます。

じつは世界的に見ても、うみがめの体中を調べられる機会は少なくて、研究者のなかでは「すごいことやっているね」と驚かれることも多いんですよ。

ときどき、うみがめの体内から、プラスチックが発見されることがあります。これは人間が捨てたゴミを、うみがめが誤って食べてしまったということ。軽い気持ちで海に捨てたゴミが、海に住むたくさんの生き物を苦しめていることを、多くの人に知ってもらいたいです。

うみがめの腸から発見されたプラスチックゴミ。

──とても意義のある活動ですね。うみがめの肉を仕入れるルートにも納得しました。うみがめ研究会では、その他にどんな活動をしていますか。

岸本:小笠原諸島や屋久島、久米島に行ってうみがめの調査をしたり、うみがめのいる水族館を手伝ったりしています。2023年の夏には、高知県室戸市にあるむろと廃校水族館に2週間泊まり込み、水槽の掃除や餌やり、接客などの業務を手伝いました。

活動中には運がいいことに、定置網にかかってしまったうみがめを、現地の子どもたちと一緒に海に還す作業を行いました。研究だけでなく、さまざまな場所に出かけて生き物や人と交流して体験を積めるのも、うみがめ研究会の楽しいところです。

うみがめ研究会代表の岸本将光さんが、むろと廃校水族館で活動する様子。

──魅力的な活動がたくさんあるのですね。最後に岸本さんにとって、東京海洋大学はどんな大学だと思いますか。

岸本:海の生き物が好きな人にとっては、とっても楽しい大学だと思います。実際に海に足を運んで実習することも多いですし、海や海洋生物に興味のある人ばかり集まっているので、友達と話が合います。

僕のいる海洋生命科学部は、食べることのポテンシャルが高い人も多いですね。みんな漁師さんや漁協とのつながりがあって、珍しい生き物が手に入ると連絡が入り、みんなで料理して食べるんです。今までイルカやシイラを調理して食べたことがあります。かめの肉は、どて焼きやワイン煮込みにも挑戦しました。

学部生のうち約6割は大学院に進学するようです。卒業後は水産会社や食品会社への就職や、水産庁などの公務員になる人も多いです。魚が好きな子どもたちは、ぜひ一度、秋に行われる学園祭に遊びにきてください!

──ありがとうございました!

コロナ禍があけた2023年の学園祭は、制限がなく入場自由。興味深い模擬店がたくさん並び、魚好きの子どもは夢中になること間違いなしだ。
うみがめ研究会の模擬店では、うみがめの甲羅を背負って写真を撮ることもできる。

うみがめを食べる小笠原諸島も登場! 島のトリビアを集めた「しまずかん」

著/こにしけい、たきざわしょうたろう、しまもりなつこ 定価/1760円(税込)

日本にはおもしろい島、不思議な島がたくさんあります! うみがめの寿司を食べる小笠原諸島や、毎年7cm移動している南大東島、謎の仮面でお祭りする悪石島などなど。

そんなユニークな島々を、キャラクターにしてするのが『しまずかん』です。

島の慣習や名産、地形などをまとめた48島の「しまちしき」はトリビア満載! また温泉や神様、山など、様々な観点から島を比べた「しまくらべ」や、島の歴史を漫画にした「しままんが」など、島好きにはたまらない内容になっています。

読んだら絶対、島に遊びに行きたくなる! 好奇心あふれる子どもから、旅好きの大人まで楽しめる、まったくあたらしい島の図鑑です。

『しまずかん』(講談社より刊行)から引用
『しまずかん』(講談社より刊行)から引用
『しまずかん』(講談社より刊行)から引用
『しまずかん』(講談社より刊行)から引用

写真/児童図書編集チーム

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

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