内田也哉子「我が子と遊べない。子育てに向かない私を救った、母からのギフト」
子育てが苦手な内田さんと子どもをつないだものとは?【お試し読みきかせ動画あり】
2022.11.28
ライター:山本 奈緒子
言葉を削ぎ落としていった先にある世界
私は、絵本は子どもだけのものとは思ったことがなくて。だから絵本を卒業したことは一度もなくて、ずっと興味があるものなんです。今でも本屋さんに行ったらまずは絵本コーナーに行きますし。絵本って、存在が神々しいというか、発光していると感じません?(笑)
物体としての魅力もさることながら、パッと開けばどんなときでも一瞬でその世界に入れる。小説だと最初から読まないと、その世界にしっかり潜れないですけど、絵本はどのページを開いてもいい。そして詩集のように、そこで出会ったワンフレーズが自分だけのお守りになったりしますよね。
今回翻訳させていただいた『点 きみとぼくはここにいる』は、言葉を削ぎ落とすことで、一番伝えたいことを私たちの中にスッと落とし込んでくれる一冊だと思います。
この絵本は、移民・難民の問題を伝えているんですけど、これを全部言葉で説明していたら、それこそかなり難しい言葉になっていくはず。だけどとてもシンプルに、かつ温かく、私たちを取り巻く環境を浮かび上がらせている。これは絵本だからできたことなのかもしれないですよね。
言葉のないページが伝えてくるもの
この絵本の原作は、ジャンカルロ・マクリとその奥さんのカロリーナ・ザノッティの共著なんですが、ジャンカルロさんは絵本作家ではなく、もともとは役者さんなんです。あと、音楽活動もされているそう。だからなのか絵本の規格に捉われていない感じがあって、それこそ読んでいて音が聞こえてくるような気がします。
彼はこの、たった1枚の四角い紙の中にどんなふうに絵を、そして言葉を乗せると大切なことが伝わるかということをよく分かっていると思う。本とは異なる、別ジャンルの方ならではの破壊力なのか、瞬発力なのか。すごく緻密でありながら感覚的に、理屈抜きで作られた一冊じゃないかなと思っています。
そして究極の言葉の削ぎ落としと言いますか……。私はこの絵本ですごく気に入っているページがありまして、それはこれ。言葉を入れていないページなんです。
この前までは、決して多くはないけれど、わりと言葉で説明しているんですね。でもこのページには言葉がない。だけど、ある意味全てを表現している。全てのページに全て言いたいことが書き込まれているという絵本も、それはそれで完成されているかもしれないのですけど、そうではない、沈黙のページっていうのが……。
音楽でいうサイレントな「間」のように、急にハッと世界が変わる。これは演劇や音楽もされている方だからこその演出力なのか、すごくワクワクしましたね。
しかもこの絵って、ミケランジェロの天井画『アダムの創造』をモチーフにしているんですよ。このタイトルが持つメッセージも、もしかしたら絵本の物語への含みとしてあるのかもしれない。憎いですよね。ハッとする瞬間ってどんな表現においても必要だと思いますが、こうして絵本で実際に魅せられると、無限の広がりを感じてしまいますよね。
だからこの絵本は、子どもから大人まで是非読んでもらいたい一冊です。
なかなか現代に生きる私たちは、忙しくて腰を据えてじっくり本を読む時間がないと思うのですが、絵本なら時も選ばず、老若男女楽しめる。
この『点』は、白と黒のドットの絵や本自体の存在感が素敵なので、インテリアにもいいと思う。そして、デザインだけでなく、本を開けば私たちが共有できる大事なテーマがそこにある。個人的には、ギフトとして大切な人に贈りたいな、とも思っています。
取材・文/山本奈緒子
PROFILE
内田也哉子(うちだややこ)
1976年東京生まれ。エッセイ執筆を中心に、翻訳、作詞、バンド活動sighboat、ナレーションなど、言葉と音の世界に携わる。幼少のころより日本、米国、スイス、フランスで学ぶ。3児の母。
著書に『ペーパームービー』(朝日出版社)、絵本『BROOCH』(リトルモア)、樹木希林との共著に『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)など。絵本の翻訳作品に『たいせつなこと』(フレーベル館)、『岸辺のふたり』(くもん出版)などがある。季刊誌「週刊文春WOMAN」にてエッセイ「BLANK PAGE」、月刊誌「家庭画報」にて季節連載「衣だより」を連載中。Eテレ「no art, no life」(毎日曜 08:55~)では語りを担当。
内田也哉子 お試し読みきかせ動画 絵本『点 きみとぼくはここにいる』
山本 奈緒子
1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。
1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。