内田也哉子「我が子と遊べない。子育てに向かない私を救った、母からのギフト」

子育てが苦手な内田さんと子どもをつないだものとは?【お試し読みきかせ動画あり】

ライター:山本 奈緒子

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スイス、フランス、アメリカ、イタリア、中国……。世界中で翻訳され、ベストセラーとなっている『DOTS』は、黒いドットと白いドットが出会い、互いを思いやり、助け合って、より良い世界を築いていくというお話です。

その素敵な一冊の日本語版『点 きみとぼくはここにいる』が、このたび内田也哉子さんの翻訳で日本に上陸します。

人生で一度も絵本を卒業したことがないという内田さん。絵本の魅力、さらには絵本に助けられてきたという子育ての思い出など、絵本にまつわる全てを語ってくれました。


内田也哉子PROFILE
エッセイ執筆を中心に、翻訳、作詞、バンド活動sighboat、ナレーションなど、言葉と音の世界に携わる。幼少のころより日本、米国、スイス、フランスで学ぶ。3児の母。

母が私に与えてくれた不思議な一冊

私の幼少期はというと、オモチャらしいオモチャというものは与えられずに育ってきました。母はなるべく物を減らしていくという生活をしていたので、家の中にはお人形もなくて。唯一子ども寄りのモノというと、絵本だけだったんです。

それも大量にあったわけではなくて、誰もが読んでいるような、いわゆるバイブル的なものは一冊もありませんでした。そんな中で私が今でも大切に読み続けている一冊が、ウージェーヌ・イヨネスコの『ジョゼット かべを あけて みみで あるく』。もうタイトルからして意味不明ですけど(笑)。

これは詩人の谷川俊太郎さんが翻訳を手がけられていて。言葉も絵も美しいし、本としての存在感も唯一無二。私が人生で初めて、芸術作品として感銘を受けたものだったので、今でも私の中ですごく大切なものとして存在しているんです。

絵本というと、人それぞれに「こういうもの」というイメージがあると思いますが、私の中では絵本はもうアートの表現そのもの。子どものために大人が作ってくれた優しいもの、柔らかいもの、というイメージではなくて、むしろ斬新でトガッたもの、インパクトのあるもの、そして余韻のあるものなんですね。

だから『ジョゼット~』は、読者ひとりひとりにとっての真実を永遠に探し続ける物語というか。その“終わりのない旅”感というのが、私には絵本の世界ならではの表現だと感じられて、今も惹きつけられるんです。

人生で初めて自分が選んだ絵本とは…

大きくなって初めて自分で買った絵本はというと、外国の本屋さんで見つけた『The Important Book』。で、その後も「この絵本が好きだ、好きだ」と言い続けていたら、「自分で翻訳したらいいじゃない?」ということになって。これが、自分にとっての初めての翻訳のお仕事となったんです。

絵本じたいは驚くほど静謐な佇まいで、当時すでに半世紀近くアメリカで読み継がれている名作でした。日本語版を出させてもらったのはもう20年以上も前ですけど、いまだに毎月のように読書会や朗読会とか、小学校やラジオでも読まれていて、何だか本が一人歩きしている感じですね。

どんなお話かというと、たとえば、りんごにとって大切なのは丸いということ。リンゴは赤いとか、木からぽたんと落ちてくるとか、甘酸っぱい果汁が頰にはじけるとか、いろんなことがありますよね。でもやっぱりリンゴにとって大切なのはたっぷり丸いということだと。

同じように、風にとって大切なこと、スプーンにとって大切なこと、ひなぎくにとって、空にとって、最後に「あなたにとってたいせつなことは、あなたがあなたであること」……。

すごくざっくり説明するとそういう絵本なんですけど、一番大切なモノの本質というのを淡々と書いている。絵も古めかしくて厳かな世界観が好きで、よく原書を人にプレゼントしたりもしていましたね。

余談ですけど、後に絵本作家の荒井良二さんと対談させてもらったときに、「あの『The Important Book』を翻訳されたのはしまったな」と言われたんですよ(笑)。荒井さんも大好きな一冊だったそうで。

引き寄せの法則ではないですけど、やはり「好きだ、好きだ」と言うことって大事ですね(笑)。この絵本のおかげで、私は素養もないのに、その後も絵本の翻訳のお仕事をさせていただけるようになりましたから。

私と子どもたちをつないでくれた寝る前の読み聞かせ

反対に、私が子どもたちにどんな絵本を読んであげていたかと言いますと……。実は私、3人も産み育てておいて言うのも何なのですが、子育てがすごく苦手なタイプなんです。忍耐強くないところがありまして。

とくに難しかったのが、子どもたちと一緒に遊ぶことだったんです。私は小さいころ、母にかまってもらったことがなかったので、自分一人で何かをすることは得意というか、大好きだったんです。だから子どもたちとも、一緒になって元気よく何かすることが難しくて、それぞれに絵を描いたり何かを作ったり。同じ空間にいるけれども別のことをしている、というのを一応“遊び”としていましたね。

そんな中で唯一私が楽しみながら子どもたちと一緒にできたことというのが、絵本を読むことだったんです。毎晩寝る前に「1人2冊まで選んでいいよ」と言って、読み聞かせながら寝るというのが日課で。これだけは唯一、子どもたちと同じ景色を見ているというか、世界に向かって一つの窓が開いている、みたいな感覚がありましたね。

我が家の上2人の子たちは、12歳で留学しましたが、小学校高学年になってもルーティーンみたいに一緒に読んでいたんです。大きくなってきたら、子どもが私に読んでくれたり、パラグラフごとに代わる代わる読んだり。ポエトリーリーディングじゃないですけど、そうやって呼応するような感じで読んでいましたね。

面白いのは、子どもたち一人一人が選んだものというのは、その日のその子のムード、気配を表しているようなところもあって。そうすると、ちょっと自分の中で子どもたちの心情を思いめぐらせることができたり、察するヒントになったり。そんなふうに絵本にまつわる時間は、子育てにおいても純粋に楽しいという時間でした。

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