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2025.02.24
しかたなく、メイが たちどまる。
「しげみに かくれていろって いったじゃないか。
もし、ちかくに おそろしい オオカミが いたら、どうするんだよ。」
「い、いませんよ。ちかくに オオカミなんて。」
「メイ、おれはね、おまえの そういう のんきな ところが、すごーく しんぱいなんだ。」
メイは、いまにも ガブが、『おそいじゃねーですか。』と
はやしから とびだしてきやしないか、はらはらする。
「いいかい、もし オオカミが この はやしから とびだしてきたら、たいへんなことに なるんだよ。」
「はい、まったく、そ、そのとおりです。」
「そんなことに なったらと おもうだけで、おれは むねが いたくなるんだ。」
「そうそう。じつは、だいじなことを いいに きたんだ。
さっき、しげみに かくれろって いったけど、
あそこの キンモクセイの きの したの しげみが いいぞ。
キンモクセイは、とくべつ においが つよいだろ。
だから、ヤギの においも かくしてくれるって わけだ。」
「はいはい、すぐに そうしますから、タプも、きを つけて かえってくださいね。」
メイが その しげみに はいるのを みとどけると、
やっと タプは まんぞくして、とうげを おりはじめた。
メイが ほっと ためいきを ついて ふりむいたとき、
「おそいじゃねーですか。」
ガブが はやしから もどってきた。
「いやー、つめたくて なんともいえない くちあたりでやんしたよ。
ひとりで がぶがぶ のんじまったでやんす。で、どうしたんでやす?
おいら、ずーっと まってたんすよ。」
「ごめん、いま ともだちに あっちゃって。」
「ともだち? ……あっ、そういえば、ふとってて、すごく うまそ……いや、
きの よさそうな ヤギが はしってるの、みかけやしたよ。」
「そう、その ふとめの ヤギが、わたしの……ともだち……。」
と いいかけて、メイは いきを のんだ。
タプが また もどってくるのが みえたからだ。
「ガブ、はやく こっちに。」
メイは ガブの てを つかむと、しげみの なかに ひっぱりこんだ。
「やあ、メイ、ちゃんと しげみに はいってるね。」
タプが、もう めの まえに きている。
『どうしよう。』
メイが ふりむくと、ガブは おおきな ホオノキの はを
あたまから かぶり、うしろむきに すわっている。
「おや、おともだちも いらっしゃったようで。」
タプが そういった とき、あたりが きゅうに うすぐらくなる。
あつい くもが、たいように さしかかったのだ。
しげみの なかの ガブの すがたも、もう、ぼんやりとしか みえない。
「おれは メイの ともだちで、タプって いいます。」
タプも しげみの なかに はいってくる。
「お、おいらも メイの ともだちで、キャプって いいやす。」
ガブが いっしょうけんめい みを ちぢめ、はなを つまんで こたえている。
「メイとは ちいさい ころからの つきあいでね。
こいつって、すごく のんきものでしょう。
いっしょに いると、なんだか ほっとするんですよね。」
「お、おいらも おんなじでやす。」
「あ、そうそう、だいじなことを おしえに きたんだ。
きみたち、しばらく ここに かくれていないと、あぶないぞ。
あの はやしの なかに、ちらりと オオカミの すがたが みえたんだ。」
「わかった。ありがとう、タプ。」
「いや、もう この ちかくに きてるのかもしれない。
どうも、さっきから オオカミの においが するんだ。
メイ、ちょっと ようすを みてくれないか。」
タプに いわれて、メイは しかたなく、しげみのはしに いく。
しかし、うしろの 二ひきが、きに なって しようがない。
「やれやれ、さっきから この とうげを いったり きたり しててね、
さすがの おれも つかれちゃいましたよ。どっこいしょ。」
と、のばした タプの ふとい あしが、ガブの はなさきに おかれる。
ぐうううう~。
ガブの はらが なる。
その おとを きいて、メイは はっとした。
『そういえば、ガブは さっき、“イグスリの いずみ”の みずを、たらふく のんだんだっけ。』
「それにしても、ひどい やつらですよねえ。」
うしろむきの ガブに、タプは こえを かける。
「はあ?」
「オオカミですよ、オオカミ。あいつら、いつもおれたち ヤギばかり ねらってさ。」
「ええ、まあ、うまいんだから しかたねえす。」
ぐうう。
「え?」
「いや、う、うらむくらい しどいっす。」
ぐうう。
「でしょう。いきるためとはいえ、おいかけてくるときの
おそろしい かおと いったら。」
「そりゃあ、おいらも、くいたい きもちで いっぱいでやんすから……。」
ぐうう。
「は?」
「いや、おいらも、く、くやしい きもちで いっぱいでやんす。」
ぐうう。
「でしょう。だから、メイとも、よく はなしてるんですよ。
あんな やつ、いないほうが いいって。」
ぐううううう~。
「さっきから、ぐうぐうと へんな おとが きこえるなあ。」
タプが、ふしぎそうに しげみの そとを みまわした。
「そもそも、おれは あの オオカミの かおが きらいでね。
めは つりあがってて、くちが げひんで、はなは ぶさいくで、
とても、おなじ どうぶつとは おもえないですよね、ハハハ。」
メイが そうっと ようすを みると、ガブが、ひきつった かおで、
こぶしを にぎりしめている。