獅童「母の手紙に号泣した」 菊之助「子どものできることを見つけて伸ばす」実力派歌舞伎役者が家族との思い出を語る
歌舞伎『あらしのよるに』中村獅童×尾上菊之助特別対談
2024.11.20
ライター:山口 真央
菊之助「あるとき、息子を褒めなきゃいけないと気づきました」
獅童:2024年12月の歌舞伎座には、僕の息子である6歳の陽喜(はるき)と4歳の夏幹(なつき)(年齢は2024年11月時点)も出演予定です。長男の陽喜はメイの子ども時代を、夏幹はガブの子ども時代を演じます。配役は息子たち自身で決めました。揉めるかと思いましたが、意外にもやりたい役が別だったので、親心としてはホッとしましたね。年齢が近い息子たちが舞台にあがるので、お子さんも興味深く観てくれるのではないかと思います。
菊之助:ガブとメイの心情の変化を、子どもたちも一緒に旅してもらえたら嬉しいです。最初は狼と山羊の、食う食われる関係だったガブとメイが、ハラハラドキドキの展開で、最後は素敵なクライマックスが待っています。僕もお客様と一緒に、泣いたり喜んだりを共有できる時間を楽しみにしています。
──『あらしのよるに』では、主人公のガブが父親から「自分らしく生きろ」と伝えることが、ガブ自身の支えになるというシーンがあります。獅童さん、菊之助さん、ともに息子さんが舞台で歌舞伎を演じられていますが、普段からお子さんに投げかけている言葉やアプローチはありますか。
獅童:先日、長男の陽喜と一緒に、神奈川県と静岡県の県境にある金時山に登りました。6歳にはなかなか厳しい山で、陽喜が「無理だ」と弱音を吐くこともあって、そのたびに僕は「諦めるな」と声をかけました。夢を叶えるためには、踏ん張ることも必要だと伝えたかったんです。頂上について息子とふたりで富士山を拝んだときは、安堵と達成感がありましたね。下山しはじめると、陽喜はすれ違う人全員に「頑張ってください」「富士山が綺麗に見えますよ」と話しかけていて、調子のいい姿に笑っちゃいました(笑)。
菊之助:「諦めるな」と言う気持ち、わかるなぁ。僕自身が子どものころから厳い稽古を受けてきたので、最初は息子の(尾上)丑之助にも厳しく指導することがありました。でもあるとき、僕と息子では生きている時代も違えば、性格も、得意なことも違うと気づいたんです。それからは、まずは息子のできるところを褒めよう、そうすれば、できないところも自然とできるようになるはず、と考え方を改めました。どうしても歌舞伎の名を継がせようと考えると、息子を追い込みがちなので、気をつけています。
獅童:歌舞伎役者なら、息子にいい役者になってほしいとか、名前を継いでほしいとか、思ってしまうものだよね。僕も親のエゴを、息子に押しつけないように気をつけてる。舞台に出るかどうかの判断も、本人たちに任せています。歌舞伎でも、そうじゃなくても、やりたいことが見つかったときは、サポートは全力でするというスタンスです。
──素敵なお父様方です。逆に、ご自身の親御さんからかけられた言葉や行動で、印象深かった出来事はありますか。