獅童「母の手紙に号泣した」 菊之助「子どものできることを見つけて伸ばす」実力派歌舞伎役者が家族との思い出を語る
歌舞伎『あらしのよるに』中村獅童×尾上菊之助特別対談
2024.11.20
ライター:山口 真央
獅童「歌舞伎『あらしのよるに』は母の企画書がはじまりです」
菊之助:父の(尾上)菊五郎は、言葉で伝えるのではなく、背中で語るタイプです。これは僕の推測ですが、自分で考えることの大切さを伝えたかったんじゃないかな。父のその姿勢は、さまざまな先輩方に役を習いにいくきっかけにもなりました。なので、諸先輩方には頭があがりません。歌舞伎の家に生まれた身だからこそ、父はあえて僕を突き放すことで、謙虚な姿勢を忘れるなと伝えたかったのではないかと思います。
獅童:僕は、母の言葉が印象に残っています。20代のころ『盲長屋梅加賀鳶』の鳶役で、京都の舞台に立たせてもらったことがありました。そのころ、舞台の中心に立つ役者になりたいと思ったけど、上手くいかなくて、歯痒い思いをするばかりで。「一生、主役になれないかもしれない」という不安に押し潰されそうになっていました。わざわざ京都まで観にきてくれた母に、僕はつい母に八つ当たりをしてしまって、大げんか。京都に泊まる予定だったのに、母は怒って東京に帰ってしまったんです。
獅童:次の日、ホテルに帰ってきたら、フロントに置き手紙がありました。そこには母の文字で「あなたならできる」と。胸がいっぱいになって、部屋でひとり泣きました。歌舞伎『あらしのよるに』はその後、母が松竹に企画書を書いて、実現した舞台なんです。ガブが父親からかけられた「自分を信じろ」という言葉と、自分の状況が重なって、演じるときは胸が熱くなります。母は他界してしまったけれど、あなたが信じてくれたおかげで、こうやって座頭ができている、ありがとうと伝えたいです。
──感動的なお話をありがとうございます。『あらしのよるに』は獅童さんの家族の想いが、たくさん詰まった舞台ですね。最後に、舞台を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
菊之助:『あらしのよるに』の物語に触れると、ガブとメイの姿から、相手を思いやる優しい気持ちが生まれます。心のつながりの大切さや温もりを再確認できるので、未来を生きるお子さんに、ぜひ観劇してもらいたい作品です。歌舞伎入門にも打ってつけですので、気軽に楽しんでいってください。
獅童:僕は子どものころから、歌舞伎に限らず、ミュージカル、芝居小屋など、母と一緒にたくさんの演劇を観てきました。今でもありありと、舞台の様子を思い出すことができます。子ども時代の観劇は、一生の思い出になります。歌舞伎『あらしのよるに』をお子さんとご覧になって、特別な親子の時間を過ごしてもらえたら嬉しいです。
中村獅童
1972年、東京都生まれ。8歳で二代目中村獅童を名乗り、歌舞伎座で初舞台を踏む。映画「ピンポン」(2002年)では新人賞5冠を達成。2015年に絵本を原作とした新作歌舞伎『あらしのよるに』を上演以降、再演を重ねる。映画やドラマなど幅広く活躍する一方で、2016年には初音ミクとコラボレーションした超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』を発表。2024年12月、東京・歌舞伎座「十二月大歌舞伎」では、尾上菊之助を迎えて再び『あらしのよるに』を上演する。
尾上菊之助
1977年、東京都生まれ。1984年に「絵本牛若丸」の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。1996年に『弁天娘女男白浪』の弁天小僧ほかで五代目尾上菊之助を襲名。古典で幅広い役に挑むほか、2017年『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』、2019年に「風の谷のナウシカ』、2023年に『ファイナルファンタジーX』など、新作歌舞伎にも積極的に取り組んでいる。2025年5・6月歌舞伎座にて尾上菊五郎を襲名する。
原作情報
350万人が夢中になった「あらしのよるに」シリーズ。その7巻を一気に読める、完全版です。
歌舞伎の予習をしたい人も、舞台を見てガブとメイのその後が気になった人も。
全ての「あらしのよるに」ファンに捧げたい、特別な一冊です。
多くの賞を受賞。映画化・舞台化され、教科書にも掲載、学校の図書館でも大人気の「あらしのよるに」シリーズが、迫力の大判で登場。お子さんへの読み聞かせにぴったりです!
〈1〉あらしのよるに──奇妙な友情はなぜ生まれたか?
〈2〉あるはれたひに──友情は食欲に勝てるか?
〈3〉くものきれまに──秘密の友だちって、いろいろたいへん。
〈4〉きりのなかで──仲間か? 友だちか? それが問題だ。
〈5〉どしゃぶりのひに──生きるためには、うらぎりも必要なのか?
〈6〉ふぶきのあした──この友情は、もう誰にも止められない……。
〈7〉まんげつのよるに──2ひきの友情ははたして永遠?
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。