2人の子どもを育てながら、2021年5月に、二ツ目に昇進した三遊亭あら馬さんにインタビュー。
第3回は、二ツ目に昇進するまでの道のりや、昇進したことで新たに見つけた落語家としての夢。
そして、改革によって大きく変わり、今では「落語はSDGsの最先端」と言われる所以などについてお話いただきました。
娘たちにどうしても見せたかった晴れ姿
――2021年5月に二ツ目昇進、おめでとうございます。
「ありがとうございます! しかし、二ツ目に昇進できたことは嬉しかったのですが、昨年1年間で病状が悪化して、黄疸がひどくなってしまって。
さらに緊急事態宣言で、披露目前に寄席がすべて休みに。なんとか2021年5月の下席(21日から30日)からできることになったものの、宣言下『ぜひきてください!』とも、積極的に宣伝できないし。
お客さんが来てくれるかどうかが一番の不安でした。でも、PTAつながりの方や、町内会のお客さまがたくさん来てくださって。
今までやってきたことが無駄ではなかった、と感じましたね。本当にPTAさまさまです(笑)。
それに、子どもたちにもいろいろ苦労をかけましたしね。だから、二ツ目の披露目の勇姿は子どもたちに絶対に見てもらいたかった。……のですが、嫌がられてしまい(笑)。
先に家を出たので、来るのか心配で、出番前は受付にずっと立っていましたね。結果、見に来てくれました。
子どもたちは私の一番見せたかったお客さまだったので、嬉しかったですね。寄席の方や、知らないお客様に『うちの子です!』って、自慢したりして。
子どもたちからは、『高座では恥ずかしいから、子どもが来てるって言っちゃだめ!』と、釘を差されていたのですが、嬉しくてつい言っちゃいました(笑)」
――娘さんたちからはどんな言葉をかけられましたか?
「『ママが一番面白かった!』と、言ってくれました。
ただ、私は緊張して、羽織を脱ぎ忘れるほどボロボロだったんですけど(笑)、終わったあと娘たちと、『羽織を脱がないから教えようと合図を出したんだけど、見えた?』って(笑)。
まるで子どもたちが、私の保護者参観に来たみたいですね」
アラフォーでも初めての経験ができる面白さ
――二ツ目昇進までの道のりで、何が一番大変だったのでしょうか。
「やっぱり仕事や、しきたりを覚えるまでの1年目は、それはそれは大変でした。
私よりも先に入った前座は、全員兄さんですから。歳も違えば、考え方もこだわりも違う。人それぞれ、言うことが違っていても、先輩の言うことは絶対! の世界ですから。
20代の兄さんたちに、アラフォーの何者かわからないおばさんが、仲間と認識されるようになるまでの1年目は、本当にきつかったですね。
2年目あたりから、楽屋仕事が身に付いてきて、3年目からは、大きな仕事ももらえるようになり、南は沖縄、北は北海道まで。全国に行かせていただきました。
テレビで見ていた有名な師匠たちとご一緒できて勉強になり、とても楽しかったですね。おかげで、家を空ける機会は増えたのですが、その頃すでに子どもたちは、『ママがいないとゲームができる』と喜び、帰ると邪魔にされました。それも辛かったことのひとつです(笑)」
――辛くても続けられた理由は何でしょうか?
「辛いけど、社会科見学みたいな感じで、やっぱり面白いんですよね。
私は、今も東京はまだ観光で来ているような気分なんです。鹿児島からのおのぼりさんだと思っているので、何をするにも新鮮で、本当に楽しくて。それに、39歳で落語界に入ったので、『アラフォーで、こんなに初めてのことがあるんだ!』と、感動もして。
芸にこだわっているから、少し社会性に欠けて、理不尽なことがある伝統芸能の世界なので、20代の私だったら、すぐ反発して破門! となっていたと思います。
でも、子育てのおかげで、忍耐や人間の心理など学んだおかげか、素直に受け止められました。子育ても親形成のいい修業ですよね。
ただ、この4年で落語芸術協会もずいぶん変わりました。
現在は前座さんが半分ぐらい女性で、以前は『女性の芸人の後は、男性芸人で女性が重ならないように』と、言われていたのですが、いまや楽屋の運営をする前座さんとお囃子さんがすべて女性。
私の二ツ目の披露目も、女性芸人さんのあとに、私が出て、次に女性のマジシャンが出ていましたし。お客さまも、女性芸人にも寛容な方が増えたと思います。
女性芸人は見世物、と言われていた頃もありましたが、今では、ジェンダーフリーで、自由に芸を発信していけるようになりました。男社会と言われていた入門時が懐かしいです」
「落語は、1人でできるし、昔からある同じ話を稽古して上演しているので、ある意味、すごくエコだと思うんですよ。
笑いはその時代によって加えたり、リフォームしたりして、進化しています。しかも寄席は3000円で一日中いられますから。
だから、落語は、ジェンダーフリーでエコな、『SDGsの最先端』ではないかと思っています」
――落語界も変化しているんですね。そしてなにより、続ける上でお子さんたちの後押しは大きかったのではないでしょうか?
「そうですね。留守にする時間も多いので、寂しい思いをさせてはいけないと、帰ってからはいつも抱きしめまくっています。
子どもが寝るときには、『ちょっと稽古していい?』と、読み聞かせみたいに落語を聞かせたりして(笑)。
そうすると、『ママ、間違ってるよ』とか、『今、噛んだね』と、指摘が入るんです。
毎日、子守唄のように落語を聞かせていたので、娘たちがツッコミとボケを担当してくれて、笑いのセンスは培われたのではないかなと(笑)」