作家の「超リアルな生活」を大公開! “薬剤師と兼業“柏葉幸子と“アルバイトで崖っぷち“多崎礼 2人の共通点・ここが違う

ファンタジー好き必見! 作家のスペシャル対談 後編

柏葉幸子さんは、40年以上ファンタジー小説を描き続けるベテラン作家。デビュー作『霧のむこうのふしぎな町』は、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』に影響を与えたことで有名です。

柏葉さんは2024年1月『竜が呼んだ娘1 弓の魔女の呪い』を刊行されました。本作は人気シリーズ『竜が呼んだ娘』に加筆、修正を加えた新装版。竜や魔女が生きる世界を舞台にした、ハイファンタジー長編の第1巻です。

そんな柏葉さんと、同じく長編の幻想小説を描く多崎礼さんのスペシャル対談をお贈りします。多崎さんは2023年に大長編『レーエンデ国物語』を3巻立て続けに刊行。国を起こすまでの壮大で緻密な物語に胸を打たれると、高い評価を受けています。

後編では、柏葉さんと多崎さんの作家生活を大暴露! 小説家ならではの悩みや、作家になるまでの道のり、おふたりが共鳴する想いなど、ざっくばらんに語っていただきました。

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『竜が呼んだ娘1 弓の魔女の呪い』主人公ミア

多崎「ロフトベッドで日々が完結してしまうのが悩みです」

柏葉幸子さん(以下柏葉、敬称略):前半では、ともに架空の場所を舞台にした小説を書いていながら、書き方が多崎さんとは全然違うことがわかりました。後半ではもっと多崎さんの人となりを知れたらと思います。

多崎礼さん(以下多崎、敬称略):私も柏葉先生が、長年小説家として活躍されている秘訣を探りたいです。柏葉先生は、昼と夜、どちらに仕事していますか。

柏葉:圧倒的に夜が多いです。だいたい夜8時ごろから、深夜の12~1時ごろまで書きます。飽きたら韓国ドラマなどを見て休憩して、ちょっとしたらまた書いて、その繰り返し。長く集中するよりは、少しずつ書き溜めるのが性に合っているようです。多崎さんはいかがですか?

多崎:私も夜のほうが集中できます。深夜12時から書きはじめて、朝6時に洗濯機を回し、7時に出来上がったものを干します。締め切りが近いときは、そこからまた書きますし、ないときは朝4時に寝ることもあります。

悩みがあるのですが、相談してもいいですか? 机付きのロフトベッドで寝ているので、下で仕事して、上で寝て……と、そこだけで毎日が完結するんです。仕事が捗っている間は問題ないのですが、筆が進まなくなると、どうしようもない気持ちになるんです。

柏葉:よくわかります。私も自宅に仕事部屋があるので、すぐに休めるように、仕事部屋にベッドを入れました。多崎さんと同じで、忙しいときは1日中部屋に籠もっていると、どうしようもなく疲れるときがあります。

私は物語が行き詰まると、ミシンで雑巾を縫います。家族には「近寄ってはいけない」と言われるくらい、はたから見るとピリピリしているようですが(笑)。

柏葉さんが『ピリピリした』ときに縫った作品たち

柏葉:あとはもう、家から離れるのが一番です。私の住んでいる岩手には温泉がいっぱいあるので、気軽に旅行に出かけています。最近のお気に入りは、温泉付きの自炊宿。自分の食べたいものを作って食べて、温泉でくつろいで、最高ですよ。

多崎:やっぱり頭を空っぽにする時間って大事ですね。柏葉先生に触発されて、今すぐにでも温泉に行きたい気持ちになりました!

「くさくさするとミシンを出すので、家族には『くさくさ仕事』を呼ばれています。(柏葉)」

柏葉「自分が読みたいものを描いていたら40年経っていた」

柏葉:『レーエンデ国物語』は構想期間も含めて執筆に8年かかったと伺いましたが、多崎さんが小説家を目指した理由が気になります。

多崎:空想好きの子どもで、文章を起こせば自分の好きなシーンを何度も楽しめると思い、小さなころから短いお話を書いていました。物語をしっかり書いたのは、中学時代に小説を書く友人と出会って、お互いに見せ合うようになってから。そのときも、自分が楽しむために小説を書こうと思っていて、作家になりたいとは思っていませんでした。

大学卒業後に就職したのですが、居心地の悪さを感じ「自分には会社員は向かないかも」と思って退職。一人でできる仕事を考えて、小説家を目指すと決めました。作家になれたのは、それから10年ほどあとのこと。アルバイトをしながら、小説を書き続けました。柏葉先生は、どんなきっかけで作家になったのですか?

柏葉:薬剤師になるために、薬学部で大学生をしていました。3~4年生になると実験で忙しくなるため1~2年生のうちは、みんな好きなことをして遊ぶ習慣があって。油絵を描く人や山に行く人などさまざまいたなかで、私は物語を書きはじめました。

ファンタジーを書きたいと思ったのは、佐藤さとる先生の『だれも知らない小さな国』と、いぬいとみこさんの『木かげの家の小人たち』の影響です。海外のファンタジーが大好きだった私は、この2作品を読んで日本語でもファンタジーが成り立つことを知り、自分でも書いてみたくなりました。

大学1年生のときに応募した作品は、最終選考で落ちました。そのときの選考委員だった佐藤さとる先生が「この子、面白いから書くように言って」と言ってくださって。講談社の編集者さんにお手紙で知らせていただき、物語を書き続けました。2年生のときに書いたのが『霧のむこうのふしぎな街』です。

柏葉幸子デビュー作『霧のむこうのふしぎな町』

柏葉:作家になってからも、すぐには薬剤師の仕事は辞めず、二足の草鞋で続けてきました。本業があるので、物語を書くことは遊んでいる感覚。今はもう薬剤師は辞めていますが、楽しい気持ちはずっと変わりません。

多崎:よくわかります。私も作家を目指して、退路を断った崖っぷち時代でも、書いている間はずっとワクワクしていました。自分の好きなものを優先して書いて、新人賞の締め切りに間に合わないこともありました。

柏葉:デビューしてから40年以経ちますが、楽しくないと思ったら、作家を辞めていたでしょう。ずっと自分が読みたいものを書き続けています。そして、本を読んでくれた人に「あ~おもしろかった!」と思ってもらうことが、一番の幸せです。

多崎:今日、柏葉先生とお話しして、楽しむことが作家人生を長く続ける秘訣だと知りました。私も書くことに夢中になれるタイプなので、励みになりました。

柏葉:これからも素晴らしい作品を生み出してください。息切れしないように、たまには温泉で息抜きしてくださいね。

多崎:ありがとうございます! 柏葉先生の今後のお話も、楽しみにしています。

柏葉幸子著 『竜が呼んだ娘1 弓の魔女の呪い』

朝日小学生新聞の連載を、加筆・修正した大人気シリーズの新装版! 『霧のむこうのふしぎな町』の柏葉幸子が、本格ハイファンタジーを描きます。

「罪人の村」と呼ばれる谷底の村に暮らしていた少女・ミアは、竜に呼ばれ、初めて降り立ったのは瑠璃色の王宮でした。

ミアは「谷の子」と呼ばれ、姿を消した伝説の竜騎士の部屋子として働くことに。王宮で懸命に働くうちに、ミアは奇妙な運命に巻き込まれていきます──。

表紙イラストは、画家・佐竹美保の描き下ろし。挿絵も大きく掲載され、『竜が呼んだ娘』の世界を堪能できます。

多崎礼著  『レーエンデ国物語』

シリーズ累計13万部突破! 「レーエンデ国」が起こるまでの物語を複数の視点で描く、感動の超大作ファンタジー。

家に縛られてきた貴族の娘ユリアは英雄の父と、呪われた地・レーエンデ地方へと旅に出ます。そこで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手トリスタンでした。

はじめての友達、はじめての仕事、はじめての恋を経て、やがてユリアはレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていきます。

ユリアの視点で描かれる第1巻から、第2巻『レーエンデ国物語 月と太陽』、第3巻『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』へ──。レーエンデをめぐる、壮大な「運命」の物語です。

写真/児童図書編集チーム

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。