
ほのぼのイメージが裏切られるムーミン原作小説、大学生が読んでみた!
「トーベとムーミン展」が大賑わい! 大人すぎる原作小説、これが児童書?
2025.07.26

ムーミン全集[新版]講談社文庫全9巻BOXセット
著・原作:トーベ・ヤンソン
2025年7月30日発売
© Moomin CharactersTM
目次
ムーミン小説出版80周年! 現役大学生、初めて原作小説を読む
「ムーミン」といえば、白くて丸いフォルムのムーミントロールや、赤い服におだんご頭のミイ、緑の帽子のスナフキンなど、だれもがすぐに姿を思い浮かべる、フィンランド発の世界的キャラクター。
連日たくさんの人で賑わっている六本木アーツセンターギャラリーで開催中の「トーベとムーミン展」も、気になります!
展覧会の内容を見ていたら、ムーミン小説は、今年、出版80周年を迎えるとありました。
ムーミン小説? そういえば、ムーミンのグッズは持っているけれど、原作は読んだことがありませんでした。そこで、現役大学生である筆者が『ムーミン谷の彗星』を読んでみることにしました。
さて、どんなお話なんでしょう……?
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「ムーミン谷の彗星」あらすじ
暑い夏の日、赤く長いしっぽを光らせた彗星が地球に向かって進んできます。このままでは、地球がこなごなになってしまうかもしれません。ムーミントロールと友だちのスニフは、この危険な星について調べるため、たったふたりで遠い天文台へと出かけることになりました。スナフキンやスノークのおじょうさんと知り合い、友だちになる間にも、ぐんぐん彗星は近づいてきて……。

『ムーミン谷の彗星[新版]』
(著・原作: トーベ・ヤンソン 訳・解説:下村隆一 解説:山室静 解説: 冨原眞弓)
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「死んだ豚の昼寝の夢みたいなやつだな!」ムーミントロールの悪口に仰天
まず驚いたのは、ムーミントロールたちの性格! かわいい見た目から、純粋無垢で夢いっぱいのキャラクターたちなのだと思っていたら、そのイメージはがらがらと崩れ去りました。
例えば、ムーミントロールがアンゴスツーラという食肉植物と戦いながら悪口を言うシーン。
「やい、この台所ブラシめ!」
ムーミントロールがどなりましたが、アンゴスツーラはへっちゃらでした。
「ひょっとこやろう、老いぼれねずみのしっぽ。おまえは、死んだ豚の昼寝の夢みたいなやつだな!」(p116)
「死んだ豚の昼寝の夢みたいなやつ」なんて強烈な悪口どうやったら思いつくの? と思わず笑ってしまいました。
そばで見守っていたスニフが「すごいなあ! あんなにたくさん、悪口をいえるなんて」と心から感心しているのですが、それもなんだかおもしろおかしい。
このシーンに限らず、ムーミントロールたちは、嫌味でも文句でも、自分が思ったことをずけずけ遠慮せずに言います。
その無邪気さやユーモアが痛快で癖になります。
「優しい」だけじゃないトーベ・ヤンソンの世界観

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また、てっきり子ども向けの童話なのかと思っていたら、むしろ大人に読んでもらいたい物語だと気づかされました。
それは、「優しい」だけではない、簡単に消化できないセリフやシーンが物語中にちりばめられているからです。
中でも印象的だったのが、彗星が地球に近づく中、ムーミン谷に住む生き物たちが一斉に避難する様子を見たムーミントロールとスナフキンのやりとり。
ムーミントロールは首をかしげて、つぶやきました。
「(省略)彗星って、ひとりぼっちで、ほんとにさびしいだろうなあ……」
「うん、そうだよ。人間も、みんなにこわがられるようになると、あんなふうにひとりになってしまうのさ」
スナフキンが言いました。(p182-183)
彗星の孤独に思いを馳せるムーミントロールを思わずぎゅっと抱きしめたくなると同時に、さすらい人であるスナフキンの本質的な言葉にはっとさせられるシーンです。
こんなふうに、メルヘンな世界を舞台にやるせない出来事を描き、愛らしい姿の生きものたちの姿を通して人間の本質を描き出す、そんなムーミン小説の魅力に、読めば読むほど引き込まれました。
大人にこそ読んでほしいムーミンの物語
ヤンソンは「どこにいても居心地がわるく、途方にくれている」人のために物語を書いたのだそう。
実際に読んでみて、日々「なんだかなあ」と何かわだかまりを抱えている大人にこそ、ぜひ読んでほしい物語だと思いました。
ほかにも、「ニョロニョロってなんて切ない生き物なんだ……!」と意外な設定にびっくりしたり、予想を裏切るムーミンたちの行動にわくわくしたり、読み終わったときにはムーミン谷のみんながもっと好きになっていることまちがいなしです。
今年は、ムーミン小説が誕生して80周年という記念の年です。ヤンソンが手掛けた物語をあなたも読んでみませんか。

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トーベ・ヤンソン
(1914年8月9日‐2001年6月27日) フィンランドの首都ヘルシンキに彫刻家の父、挿絵画家の母のもとに生まれ、幼いころから画家を目指す。ヘルシンキ、ストックホルム、パリで絵を学び、政治風刺雑誌『ガルム』をはじめ、児童書や新聞の挿絵などの仕事を精力的にこなした。 ムーミン小説の9作品は、戦争中、自分自身の安らぎのために執筆した『小さなトロールと大きな洪水』を1945年に出版したところから始まり、最愛の母シグネが亡くなった1970年に出版した『ムーミン谷の十一月』が最後となった。 1954年ロンドンの「イヴニング・ニューズ」掲載のムーミン・コミックスの連載が人気を博すなど多才ぶりを発揮。 1966年国際アンデルセン賞受賞、1976年フィンランドの芸術家に贈られる最高位の勲章、プロ・フィンランディア勲章受章。
(1914年8月9日‐2001年6月27日) フィンランドの首都ヘルシンキに彫刻家の父、挿絵画家の母のもとに生まれ、幼いころから画家を目指す。ヘルシンキ、ストックホルム、パリで絵を学び、政治風刺雑誌『ガルム』をはじめ、児童書や新聞の挿絵などの仕事を精力的にこなした。 ムーミン小説の9作品は、戦争中、自分自身の安らぎのために執筆した『小さなトロールと大きな洪水』を1945年に出版したところから始まり、最愛の母シグネが亡くなった1970年に出版した『ムーミン谷の十一月』が最後となった。 1954年ロンドンの「イヴニング・ニューズ」掲載のムーミン・コミックスの連載が人気を博すなど多才ぶりを発揮。 1966年国際アンデルセン賞受賞、1976年フィンランドの芸術家に贈られる最高位の勲章、プロ・フィンランディア勲章受章。