起業家・平原依文が掲げる「野望」 SDGsが掲げる「質の高い授業」の真意とは

社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える 第3回

編集者・ライター:山口 真央

小学2年生から単身で、中国に留学した経験を持つ、社会起業家の平原 依文(ひらはら いぶん)さん。

自身の経験を生かし、テレビのコメンテーターとして活躍するほか、SDGsの観点から、全国の子どもたちが「自身の力で問題を考える方法」を伝える授業をおこなっています。

シリーズ「社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える」では、そんな平原さんの授業内容を紹介。また、平原さんが経験してきた留学先での出来事や、青年版ダボス会議とも呼ばれる「One Young World」に参加して感じたことを伺います。

第3回は、青年版ダボス会議での出来事と、SDGs目標「質の高い教育をみんなに」を考える授業内容について、お話しいただきました。

青年版ダボス会議から 202人の夢をまとめた書籍を出版

社会実業家の平原依文さん。

大学を卒業したあと、日本の企業に就職を経て、起業しました。世界中を留学した経験を生かして、いつか世界中の境界線を溶かすような教育がしたい。そのような思いから、全国の学校をまわって授業しています。

2021年には、世界190ヵ国以上の次世代リーダーが集まる、青年版ダボス会議「One Young World」に参加させていただきました。そこで出会った18歳から32歳の仲間たちは、SDGsの課題を自分ごとのように考えていました。

ともに起業した市川太一氏と私は、世界中の人々の夢を、何か形にできないかと考えました。そうしてできあがったのが、『WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs』(いろは出版)です。201の国と地域から選ばれた代表者が、この本のために夢を書き下ろしてくれました。

私自身、留学中に人種やジェンダーの境界線をたくさん感じてきました。でも、第2回の記事でお伝えした中国の先生のように、必ず境界線を溶かしてくれた誰かがいて、人とつながっていくことができたんです。

私も中国の先生からしてもらったように、心と心をつなげることが一番であることを、子どもたちに伝えていきたい。そんな思いから、世界中の人たちと日本の子どもたちをつなぎ、オンラインで対話する授業を続けています。

平原依文さんがプロジェクトに関わった『WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs』(いろは出版)。

ペルソナワークショップから見えてきた 教育のおける各国の「課題」

東京のインターナショナルスクールでおこなった授業では、SDGsが掲げる目標の「質の高い教育をみんなに」をテーマに授業をしました。

まずは、シリーズ「おはなしSDGs」の『質の高い教育をみんなに 未来のハッピースクール計画!』を読んでもらい、生徒さんがそれぞれに考える「質の高い教育」とはどんな教育なのかを話し合いました。

『おはなしSDGs 質の高い教育をみんなに 未来のハッピースクール計画!』
作:井上林子/絵:木村いこ

あらすじ

6年生のみくるは、勉強が大キライ! 学校と習い事がいそがしくて、イヤになってきたし、仲良しだったミキちゃんも、学校でみかけなくなってしまったし……。

ある日とうとう限界がきて、習い事をサボリ逃亡。行きついた先の図書館で、一人で勉強しているミキちゃんにバッタリ出会いました。

ミキちゃんは学級崩壊したクラスが嫌で、学校に行くのをやめたみたい。みくるはミキちゃんにさそわれて「SDGs 未来計画コンクール!」に向けて、夢の学校をデザインすることになりました。でも、どういう学校だったら、みんな楽しく勉強できるんだろう――?

そのあと、インターナショナルスクールの生徒さんに取り組んでもらったのは、「ペルソナワークショップ」です。

いろんな国の子どもの写真を用意し、架空の家族構成や、住んでいる国が抱える課題などを提示します。そして、それぞれの子どもたちに必要な「教育」とはどういったものかを、生徒さんに考えてもらいました。

たとえばアフガニスタンは、そもそも女性が教育を受けられない状況下にあります。ある生徒さんは、物理的な学校をつくることは難しいけれど、インターネットをつかって、オンラインで国外から授業する仕組みをつくったら、という提案をしてくれました。

またアメリカの奨学金制度は、多額のローン返済に終われる場合があるという問題を抱えています。これについてはある生徒から、本業だけでなく、副業で英語の先生としても働きお金を稼ぐ、というアイデアがうまれました。

このように「質の高い教育」と一言で言っても、求めるものは国や地域によって変わることが、子どもたちの議論によってわかりました。自分たちに与えられているものを当然と思わず、知識を広げることで、まずは意識の境界線を溶かしていくことが大切なのです。

インターナショナルスクールでの授業風景。

私の究極の野望は、自分の名前がパスポートになって、世界を行き来できるようになること。そのためには、ひとりひとりが、自分の生きている世界が当たり前でないことに、まずは気づいてほしいと思います。

そしてどんなときも、考えることをやめないでほしい。自分から選択肢をうみだして、正解を見つけ出すことが、未来を生きる子どもたちにとって重要なことであると私は考えます。

平原 依文(ひらはら いぶん)
HI合同会社代表。小学2年生から単身で中国、カナダ、メキシコ、スペインに留学。東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、デジタルマーケティングを担当。その後、組織開発コンサルへ転職し、CMOとしてマーケティングを牽引しながら、広報とブランドコンサルティングを推進。「地球を一つの学校にする」をミッションに掲げるWORLD ROADを設立し、世界中の人々がお互いから学び合える教育事業を立ち上げる。2022年には自身の夢である「社会の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を設立。SDGs×教育を軸に、国内外の企業や、個人に対して、一人ひとりが自分の軸を通じて輝ける、持続可能な社会のあり方やビジネスモデルを追求する。青年版ダボス会議 One Young World日本代表や、教育未来創造会議(内閣官房)構成員も務める。2021年度のForbes JAPANには 「今年の 100人」に選出された。

青年版ダボス会議に参加し、多くの刺激を受けた平原依文さん。今後も世界中を巡った経験を生かした授業で、多くの子どもたちに気づきを与えていくことでしょう。平原さんの活躍に注目です。

写真提供/平原依文

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。