日本はもちろん、海外でも大人気のファンタジー作家・柏葉幸子さん。2026年11月4日発売の新作『ミズルの図書館』は、「母と娘」がテーマとのこと。ご自身のお母様から「自分の子どもはむじぇぐかわいい」と言われ、そうじゃない! と思っていた、という柏葉さん。どんな思いがこめられた作品なのでしょう。
2026年11月4日発売
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だれかの娘に、だれかの母に読んでいただきたい物語
図書館が大好きだ。私は、本がいっぱいあれば満足してしまう子どもだった。それは年をとった今も変わりはない。本にはたくさんの夢がつまっている。この本たちは、どんな世界を見せてくれるのだろうとワクワクしてしまう。
子どもの頃、映画の『マイ・フェア・レディ』のヒギンス教授の部屋にあこがれた。ストーリーの面白さより、オードリー・ヘップバーンの美しさより、二階の壁一面の本棚に魅せられた。
机の両側の壁を本棚でうめつくした、小さいけれど、まあ理想の仕事場かもしれないという部屋を持っていたこともある。でも、地震のたびに両側から本がなだれ落ち、机にたどり着くには本の山を乗り越えなければいけなかった。落ちた本を本棚に並べ直すのは、毎年のように大きな地震が続くと、賽の河原の石積みのような苦行だった。並べ直しの最中に、手にとった本を読みふけったりして、かたづけに時間をとられた。理想通りにはいかないと思い知った。今は、仕事場になるべく本を置かないようにして暮らしている。
でもやはり、四方八方を本に囲まれて暮らせたらどんなにいいだろうと思うのだ。すてきな図書館の写真など見ると、ああ! この真ん中にベッドをおいて眠りたいと思ってしまう。
仕事で図書館に呼んでもらうこともある。外国へ行くと、その街の図書館にも出かける。新しい建物だったり古い建物だったり。図書館はみんなそれなりに味がある。でもこの頃、ビルの中というのがあって、私にはちょっとつまらなかったりする。
本と人が強く結びついている場所のせいだろうか、図書館に所蔵されている本たちは、どこか誇らしげに見える。本はだれかに読んでもらうものだからだろう。誇らしげな本たちにあやかりたいのか、私は、物語の始まる場所に図書館をもってきたくなるようだ。
ミズルの図書館は、小山を半分にしたような建物だ。佐竹美保さんが素敵に仕上げてくださった。表紙の絵にほれぼれしてしまった。ここから、母と娘のファンタジーが始まる!
母と娘のファンタジーを、いつ頃から書きたいと思ったのだろう。
ぼーっと、韓国ドラマを見ていたら、
「神はどこにでもいることができないので、母を作った」
と言っていた。
そうなのか? と疑い、そうかも! と納得する。
そうなのか? は、母親としての私。そうかも! は、娘としての私。
疑いと納得の間を行ったり来たりしてしまう。
昭和二年生まれの私の母は、若い頃観た『ジェーン・エア』や『嵐が丘』がリバイバルで映画館にかかると、小学生だったろうか、中学生だったろうか、とにかく私を連れて観に行った。洋画は観に行くことができたが、邦画は観ることができなかった。母が好きだった邦画は三益愛子の「母もの」と呼ばれるものだったらしい。それらの映画は私の暮らす岩手の映画館にリバイバルでもかからなかった。
「三益愛子が演じる母親が、泣く泣く手放した自分の子を物陰から見守るわけ」
その場面に母は心を揺さぶられたらしい。まあ、今でも変わらずにドラマの中でよくある場面だと思う。母は涙を浮かべて話してくれたが、私は、母を見ながら、話すだけで泣けるのか! とあきれたものだ。
今回の物語の中の「月とオオカミ」にそんな場面がある。あきれていたはずの私なのに、「母もの」のせいかどうしても書きたい場面だった。やはり、泣く! まではいかなかった。どこか冷めた情景になったと思う。
そんな母は、
「自分の子どもはむじぇぐかわいい」
と、よく言っていた。
「むじぇ」「むじょい」は、岩手の方言で可哀そうというか、哀れというか、無情というか、そんな意味の言葉だ。哀愁をおびた好きな言葉だ。私には弟がいるのだが、私たち二人は母にとって、むじぇ存在だったらしい。
どこがむじょいのだ? 私たち姉弟は両親に愛されて幸せに育ってきたと感謝している。むじぇぐなんてないと思っていた。
私に娘が生まれて子育てしている最中は無我夢中のせいか、そうも思わなかったけれど、いいかげん成長すると、娘がむじょくなってきた。いつまでも見守っていられないのだ。この人はいつか独りになるのだと思うからだろう。むじょいのだ。こんな世の中を私なしで生きていく娘がむじょくかわいい。とうとう、私も母の境地に到達した! 子離れできない母ということだろう。
到達したが、母と私は、まったく同じではない。環境も時代も性格も違う。ベースはいっしょでも、母が今の私を見れば、
「それで母親だってっか!」
と、岩手の花巻弁で憤るかもしれない。
だれかの娘に、だれかの母に読んでいただきたい物語です。
柏葉幸子(『ミズルの図書館』あとがきより)
『ミズルの図書館』




































柏葉 幸子
児童文学作家。岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。大学在学中に講談社児童文学新人賞を受賞し、『霧のむこうのふしぎな町』でデビュー。ファンタジー作品を多く書き続けている。『牡丹さんの不思議な毎日』で産経児童出版文化賞大賞、『つづきの図書館』で小学館児童出版文化賞、『岬のマヨイガ』で野間児童文芸賞受賞、『帰命寺横丁の夏』英語版でバチェルダー賞受賞など受賞歴多数。
児童文学作家。岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。大学在学中に講談社児童文学新人賞を受賞し、『霧のむこうのふしぎな町』でデビュー。ファンタジー作品を多く書き続けている。『牡丹さんの不思議な毎日』で産経児童出版文化賞大賞、『つづきの図書館』で小学館児童出版文化賞、『岬のマヨイガ』で野間児童文芸賞受賞、『帰命寺横丁の夏』英語版でバチェルダー賞受賞など受賞歴多数。